『宇宙』

宇宙飛行士が飛び立つのを見た時、健は憧れを持ってそれを見上げていた。
あいつも、パイロットの端くれとして、宇宙飛行士になりたいと思った事もあったろう。
並大抵の事ではなれないが、健は優秀なパイロットだし、科学忍者隊のリーダーとしての判断力、そして、体力や適応能力から見ても充分に宇宙飛行士にはなれる筈だ。
ギャラクターを斃してからでも遅くはあるまい。
おめぇがやりたければ、それからでも目指すがいいさ。
無論、『レオナ3号』の宇宙飛行士達のように悲劇が待っている可能性もある。
発射途中に爆発する事だってある。
だが、俺が目指しているレーサーだって危険は同じさ。
おめぇが夢を叶える処を、俺は見てみたいぜ。
だが、それはどうやら無理なようだ。
俺は『レオナ3号』の次の事件で、体調を崩しちまった。
見届ける事は出来ねぇようだぜ。
俺の夢もやり遂げられねぇかもしれねぇ。
どうしてこんな事になっちまったのか……。
俺はつくづく運がねぇ男だ。
もしかしたら、この病気が原因で、ギャラクターとの闘いに斃れる日が来るかもしれねぇ。
健が宇宙までやって来たら、逢えるかもしれねぇな…。
何てセンチメンタルなんだ、俺は…。
女じゃあるまいし。
だが、健。
羨ましいなどと言っていねぇで、おめぇにもまだチャンスがある事を忘れるな。
まだ俺達は未成年だぜ。
今から宇宙飛行士を目指したって遅くはねぇんだ。
博士のテストパイロットから羽ばたけ。
おめぇはでっけぇ男だ。
この俺が言うんだから、間違いねぇぜ。
何となく想像が出来る。
おめぇが宇宙パイロットとして、飛び立って行く勇敢な姿がよ。
俺も負けずにレーサーとして世界中を羽ばたきたい。
宇宙と世界じゃスケールが違い過ぎるな。
でも、俺は飛べねぇ。
俺には走るのが合っている。
だから、この生命、後10年ぐれぇは持って欲しいと思っている。
こんなに頻繁に眩暈や頭痛を起こすようじゃ、いつかレースもままならなくなる。
俺はそんな自分にはなりたくねぇ。
レーサーとして花咲いて、最高潮の処で引退して、ひっそりと死ぬ。
そんなのが俺の理想さ。
だから、ギャラクターとの闘いはさっさと終わらせてぇんだ。
このまま朽ちてしまう前に、レーサーとしてやりてぇ事を全部やり切ってからでねぇと、俺だって死に切れねぇからな。
ギャラクターを斃す事、それは俺の悲願だ。
絶対に奴らに復讐してやる。
俺の生命はその為にあると思っていた。
だが、走っている内にそれだけじゃねぇ自分に気づいたんだ。
俺は走りてぇ。
まだ走りてぇ!
健が宇宙飛行士を見て憧れたように、俺にだってもっと上に行く事への憧れがある。
健とは同い年だからな。
お互いに切磋琢磨して生きて行けたら、こんなにいい事はねぇ。
その時間が俺に残されているのかどうかは解らねぇがよ。
健、お互いにこの闘いを乗り切って、もっとでっけぇ事をしようぜ。
科学忍者隊にこれまでの人生を捧げて来た。
俺達にはその後があってもいいと思う。
そんな生活を想像すると楽しいじゃねぇか。
病いの恐怖に怯えているより、そんな前向きな事を考えている方が俺の性に合っている。
おめぇが宇宙から帰って来たら、俺が華々しくオープンカーでパレードをしてやるぜ。
レーサー仲間達を後ろに引き連れてな。
健には頑張って欲しいぜ。
今は俺の方が夢に近い場所にいる。
俺の身体さえ持ってくれればな。
まずはレーシングカーレースに参戦する。
そして、どんどん上へと上がって行くんだ。
最終目標はF1かな。
この病気だって、今は悪いけど、また良くなるかもしれねぇからな。
ヘビーコブラをやっつけた時のように、眩暈も頭痛もしなかった時もある。
ギャラクターを斃したら、少しぐれぇなら療養してもいい。
身体を治して走る事が出来れば、さっきは後10年と言ったが、もっと走れるかもしれねぇぜ。
F1レーサーは30代までは行けるだろうからな。
やれるだけやってみてぇ。
やべぇ、つい、欲を掻いちまった。
俺に生きる余力があるのなら、そんな風に生きてぇと考えただけさ。
科学忍者隊はみんないい奴だからなぁ。
共に切磋琢磨しながら、付かず離れず生きて行きてぇもんだ。
生死を共にした仲間だからこそ、こんな事が思えるんだろうな。
俺は奴らはいい奴らだと思っている。
あいつらが俺の事をどう思っているかは知らねぇが、俺はそう思っている。




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