『イタチザメ型メカ鉄獣(1)』

『科学忍者隊の諸君。速やかに私の処へ集合せよ!』
その声が掛かったのは、昼時を過ぎた処だった。
ジョーはサーキットの控えでG−2号機を点検していた。
「G−2号、ラジャー」
まだ平日の昼間。
取り巻きの女達もいない。
ジョーは楽々とサーキットを飛び出す事が出来た。
「ハード・ゴー!」
人気のない山間部に入り、ジョーは変身した。
「竜!聞こえるか?」
『あいよ。今、どの辺かいな?』
飄々と、のんびりした声が聴こえて来た。
ジョーは現在地を告げる。
そうしてG−5号機に合体して、ジョーは三日月基地へと向かった。
健達もすぐに合体して来たので、全員揃って基地の司令室に到着した。
「諸君。早かったな。それでこそ科学忍者隊だ。
 早速だが、今回の任務の概要を話すとしよう」
スクリーンが降りて来た。
「これを見たまえ。太平洋の海域にギャラクターが現われた」
南部が指し示したのは、イタチザメ型のメカ鉄獣が巨大タンカーを襲っている写真だった。
「離れている場所を航海していた別の船舶から望遠カメラで撮った映像なので、判別が難しいが、イタチザメの特徴と良く似ている。
 ほら、見てごらん。頭部が尖っていない。
 此処が平らなのがイタチザメなのだ。
 タンカーは激しく爆発炎上して、海の藻屑となったと言う」
「またかよ。ギャラクターは海を汚染させるつもりかいな?」
竜がうんざりとした声で言った。
「まだ目的ははっきりしていない。
 だが、これから次々とタンカーを襲う可能性がある。
 海上を航行するタンカーには国連軍の海軍が護衛に就く事になったが、諸君は空からパトロールして貰いたい」
「ラジャー!」
全員が右腕を胸に引きつけて答えた。

ゴッドフェニックスは空へと飛び立った。
「ギャラクターの奴らめ。絶対に許せんわい」
「竜、今からそんなに熱くなってどうするよ?
 ギャラクターと出くわしてから力を発揮しろよ」
ジョーが自席から腕を組んで言った。
「おらは海の男の息子じゃわいっ!
 ジョーにはおらの気持ちなんか解るもんかい」
「へっ。そう思うのならそれでもいいさ」
ジョーは開き直った。
「2人ともその位にしておけ。竜、パトロールの範囲を広げるぞ」
「ラジャー」
竜は少し不貞腐れたようだった。
ジョーは全く意に介していない。
要は落ち着けと言っただけなのだ。
だから、それが解っている健もジョーを窘めたりする事はなかった。
竜は元々ジョーに批判的な部分がある。
確かに勝手な行動をする事もあった。
だが、健も結構やっているのである。
それがリーダーとサブリーダーへの信認の違いだろう、とジョーは思っていたから、全く気にしていないのだった。
竜はジョーが冷たい男だと思っている節がある。
そんな事はジョーにとってはどうでもいい事だった。
健やジュンは誤解を解けばいいのに、と密かに思っているのだが、ジョーはそう言った事を好まない。
だから、竜とはギクシャクする事も多々あった。
優等生の健なら、誤解を解こうとするだろう、とジョーは思った。
でも、自分は違う。
冷たいと思われようと構いはしない。
自分の目的はギャラクター撲滅しかないのだから。
結局は全員の目的と同じ処にベクトルが向いている。
それでいいじゃないか、とジョーは思うのである。

巨大タンカーが襲われている、と一報があったのは、その時だった。
「竜!」
「解っとるわいっ!」
ゴッドフェニックスは急展開した。
ジョーはレーダーを確認した。
まだレーダーでは捕捉出来ていない。
暫く飛んでいるとレーダーの端に反応が現われた。
「レーダー反応。右50度前方、距離500km」
ジョーが叫ぶ。
「よっしゃ!」
竜は意気込んで操縦した。
「しかし、敵はイタチザメだ。
 どう攻撃したら良いのか……。
 タンカーに取り付いているとなったら、始末に悪いぞ」
健が腕を組んで言った。
「そうだな。下手に攻撃をすればタンカー毎爆発しちまう。
 国連軍もそう簡単に手出しは出来ねぇだろうぜ」
「それは俺達も同じ事だ…」
健が渋い顔をしていた。
「タンカーから引き離すしかあるめぇ」
「どうやって?」
健の表情には焦りが見えていた。
「近くを旋回してゴッドフェニックスに関心を引き寄せるしかねぇだろうな」
「敵は飛べるのかどうかが問題だな」
「魚だからと言って、飛べねぇとは限らねぇ。
 用心するこった」
ジョーは瞳を険しくした。
「とにかく行ってみなければ始まらねぇぜ」
「ああ。竜、計器飛行に切り替えてスクリーンの用意」
「ラジャー」
やがてスクリーンに敵の姿が映し出された。
全員がスクリーンの前に集まった。
「でっかいな〜」
甚平が思わず述懐する程、巨大なメカ鉄獣だった。
「タンカーよりもでかいぞい」
「イタチザメは鮫の中でもでかい部類だからな」
ジョーがぶっきらぼうに言った。
彼も勉強しているのだ。
ギャラクターが動物などをモチーフとしたメカ鉄獣を多数開発する事から、南部博士の別荘に行った時に待機時間があったりすると、百科事典を開いたりしていた。
そんな密かな努力をしていたとは、他のメンバーは知らないだろう。
若い脳にはそれを吸収する力が備わっていた。
「どうする?健」
竜が叫んだ。
「とにかく周囲を旋回しろっ。関心を引くんだ」
「ラジャー」
竜が操縦桿を引いた。
ゴッドフェニックスは敵を煽るように旋回した。
敵はゴッドフェニックスの存在に気づいた。
タンカーから離れようとしている。
「タンカーから離れるぜ。
 こっちへ攻撃を仕掛けて来るつもりだ!」
ジョーが言った。
「どう言う攻撃を仕掛けているか解らん。
 竜、気をつけろ!
 出来るだけタンカーから引き離せ」
「解った!」
ゴッドフェニックスは旋回を続け、少しずつメカ鉄獣を自分達の方へと引き寄せて行った。
イタチザメ型メカ鉄獣は、突然大きな口を開いた。
そこから激しい炎を吹き上げ、ゴッドフェニックスを火で包み込んだ。
「くそぅ。これではやられてしまうぞ」
健が呟いた。
「全員着席。科学忍法火の鳥!」
「ラジャー!」
火には火で対抗するのが、取り敢えずいいだろうと言う判断だった。
燃え盛る火の中でゴッドフェニックスは火の鳥に変化した。




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