『イタチザメ型メカ鉄獣(2)』

科学忍法火の鳥になったゴッドフェニックスは、火焔の炎の中で羽ばたいた。
全員が気を失う程の攻防戦が繰り広げられた。
イタチザメが吹く火はなかなか強力な物で、火の鳥でも苦戦したが、漸くその火焔の渦から飛び出す事が出来た。
墜落しそうになり掛けたゴッドフェニックスを最初に意識を取り戻したジョーが走って操縦桿を引き、何とか墜落からは免れた。
「危ねぇ、危ねぇ……」
ジョーはヒヤリと冷や汗を掻くのだった。
すぐに全員が意識を取り戻した。
「ジョーの兄貴。助かったぜ」
甚平が小躍りした。
「喜ぶのはまだ早い。竜、急速転回!
 一旦離れろ!」
「ラジャー」
健の指示に竜は操縦桿やボタンを取り扱った。
「あの大きな口に近づくと危険だぞ。
 竜、くれぐれも気をつけろ」
「解った」
しかし、イタチザメメカは尾っぽに噴射装置が付いていて、ミサイルのようになって飛んで来た。
「やはり飛べるじゃねぇか」
ジョーが言った。
「どうするよ、健。中に潜り込むか?」
「そうだな。あの火炎放射にはなかなか太刀打ち出来まい。
 中から攻撃するしかなさそうだ」
「またおらは留守番かいのう?」
不満そうな竜に、健が言った。
「場合によってはお前1人で火の鳥に耐えなければならんかもしれない。
 そうならないように充分注意してくれ。
 奴の背びれの上に降りる。
 頼んだぞ、竜」
その言葉に従い、他の3人は健と共にトップドームへと上がった。
ゴッドフェニックスが近づいた時、トップドームが開き、4人はジャンプして敵の大きな背びれに向かった。
巨大なメカ鉄獣と化しているイタチザメの背びれは、1メートル程の幅の滑り台のようになっていた。
4人はそこを滑って、イタチザメの背中に降りた。
「あそこに隙間があるぜ。
 今は空を飛んでいるから空気を取り入れる為に開けたんだろう」
ジョーが指を差した先には、人間1人が潜り込めるようなスペースがいくつも空いていた。
「よし、侵入するぞ。
 ジュンと甚平は機関室。俺とジョーは司令室を探す。
 とにかく早くあの火炎放射を止めよう」
「ラジャー」
中に潜入すると、4人は声もなく二手に別れた。
健とジョーはイタチザメの頭部に向かって進み、ジュンと甚平は地下へと向かった。

「早速おいでなすったぜ」
侵入した早々、敵兵のマシンガンの洗礼を受けた。
簡単にマシンガンの銃弾を受ける2人ではない。
それぞれが敵を叩き潰しに掛かった。
健はブーメランを華麗に飛ばし、体術で敵を仕留めて行く。
ジョーは華麗に回転し、長い脚で敵を払い除け、羽根手裏剣を狙い違う事なく、1人1人に命中させている。
ジョーは跳ね跳ぶようにして、敵兵の意表を突く場所に現われては、敵を倒して行く。
まるで風のようだ。
見ている方はビュンと音が鳴っているように錯覚する程の速さで、姿を消している。
そして、敵の鳩尾に重いパンチを繰り出し、返す刀で膝蹴りを喰らわす。
そのスピード感が半端ではない。
次の瞬間には、羽根手裏剣が舞い、エアガンの三日月型キットが敵の顎に次々とヒットしている、と言った具合だ。
ジョーはぐっと力を込め、敵の中を走り抜けた。
彼が通り抜けた後には、羽根手裏剣で覆面を破られた敵が顔から血を流して間抜けな顔で倒れている。
自分に起こった事を理解していないのだ。
そのまま気を失ったから、何とも情けない顔をしている。
それを気にせずにジョーはもう次の敵に掛かっている。
とにかく敵を見切る能力に優れている。
1人を倒す為に時間を掛けない。
羽根手裏剣とエアガンは効率の良い武器であると言えた。
無論、羽根手裏剣の扱いに秀でていなければ出来ない芸当だ。
ジョーは羽根手裏剣を複数枚繰り出す事が多い。
それを指の微妙な角度で操っているのだ。
その計算は不思議と最初から出来た。
才能としか言えないだろう。
他のメンバーも羽根手裏剣は持っているのだが、好んで使うのはジョーだけだった。
だから彼には3つの戦闘アプローチが出来るのだ。
自らの肉体を縦横無尽に使い尽くした闘い振り、そして、2つの武器。
これは大きい。
全身を武器として、彼は闘う。
敵兵の山を乗り越えて先へと進んで行く。
健の方も片付いたようだった。
「ジョー、先へ進むぜ」
「ああ…」
2人は素晴らしいスピードで駆け抜けた。
また敵兵がわらわらと現われた。
「この野郎!海を汚しやがって!」
ジョーは叫びながら、敵兵を凌駕して行く。
目覚しい活躍だ。
身を低くして、敵兵を足払いにし、どうっと一遍に倒す。
虚を突かれた敵も起き上がって来た順に羽根手裏剣で仕留める。
「とうっ!」
ジャンプして滑り込むように、敵兵にキックを入れると、敵はもう起き上がれない。
健と交差するように相似形で側転し、マシンガンで狙って来る敵を翻弄したと思えば、もう攻撃に戻っている。
目まぐるしい闘い振りだが、これが彼らの日常なのだ。
バック転をしながら、ジョーは左手を着いて、エアガンを発射する。
逆さのままでも狙いは正確だ。
射撃の腕はある国で行なわれた国際大会でも優勝して証明済みだった。
下手なオリンピック選手よりも優れた動体視力を持ち、正確に当てる。
後にその射撃の腕を『装甲鉄獣マタンガー』の事件で仲間達にもより印象付ける事となる。
「健!」
ジョーがある場所に向かって、顎を突き出した。
「あの部屋が怪しくねぇか?」
「ああ。だが、まだそれ程移動していない筈だぞ」
「司令室じゃねぇかもしれねぇが、何か嫌な予感がする」
「解った。お前の勘は無視出来ないからな。
 行ってみよう」
健が言い差した時だった。
その部屋から異様な音がした。
『ブーン』と言う唸るような音だ。
『健!敵の火炎放射じゃ。捕まってしもうたぞいっ』
「竜、仕方がない。火の鳥になって耐えろ。
 墜落するなよ」
「今、火炎放射を止めてやる!」
ジョーが叫んで、その部屋へと飛び込んだ。
多分この部屋が口からの火炎放射をコントロールしているのだ。
ブーツの踵から爆弾を取り出し、中にあった発熱塔のような物にセットする。
手袋がジュッと焦げる音と臭いがした。
「やはり、此処だ。健、離れろっ!」
部屋の外にいる健にそう言って、ジョーも飛び出しドアを閉めた。
2人は外の通路で伏せる。
ドーンと激しい音と揺れが来て、ドアが吹き飛んだ。
この場所が火焔地獄と化した。
「ジョー、大丈夫か!?早く下がるんだっ!」
健よりもドアの近くにいたジョーに、健は慌てて声を掛けた。
「うっ…」
ジョーもすぐに眼を覚まし、その場から退去した。
「竜、どうだ?火炎放射は止まったか?」
健が訊いている。
『今、止まったぞいっ。火の鳥にならなくて済んだわい』
「ジョーに礼を言うんだな」
健はそう言って通信を切った。
「さて、通路が塞がれてこの先に進めなくなったな…」
「別の道を探すしかあるめぇ」
ジョーは答えて、左右を注意深く見ながら今来た道を辿り、走り始めた。
ある場所で止まって、壁をトントンと叩く。
「健、隠し扉だ」
ジョーは体当たりすると、一回転してエアガンを構えた。
そこには下へと続く階段があった。




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