『イタチザメ型メカ鉄獣(3)』

「健!階段があるぜ。下へと続いている」
「よし、降りてみよう」
2人は階段を1階分降りた。
また通路に出た。
「ようし、これでまた進めるぜ」
「ああ、急ごう」
健が先を走った。
だが、すぐに敵兵に行く手を阻まれた。
「邪魔だてするな!」
健が大声で叫んだ。
ジョーは黙って既に羽根手裏剣を繰り出していた。
通路は2人で闘ってもぶつからない程度の広い幅があった。
あの大きなイタチザメメカの内部だ。
随分と広い。
2人はまだそれ程前頭部の方向には進んではいない事だろう。
ジョーは敵兵の胸倉を掴み、壁に押し付けて頭をドン、ドンと壁に打ち付けた。
その間にも襲って来る敵にはまるで背中に眼が付いているかのように、羽根手裏剣で倒している。
敵は驚きに眼を見開いて倒れる。
壁に頭を打ち付けられた敵が伸び、ジョーは新たな敵を求めて翻った。
気配を感じ取っているので、見るまでもない。自分の右後方から狙っていた敵をエアガンで撃った。
その素早さは素晴らしい。
エアガンは抜いてもいなかったのだ。
呆気に取られたような顔をして、敵がどうっと倒れた。
次の瞬間には、ジョーは別の隊員の肩を掴んでいる。
そのまま脚を払って、バランスを崩させておいて、鳩尾に強いパンチを入れた。
一発で充分だった。
健の方も粗方片が付いていた。
「行こう、ジョー」
「おう!」
2人は並んで走った。
両雄並び立たず、と言うが、科学忍者隊に於いては、この両雄は最強のコンビだった。
どの組み合わせでも力を発揮するが、リーダーとサブリーダーのコンビは、身体能力が伯仲していて、技のキレが素晴らしい。
効率的に敵を倒して進んで行く事が出来るのだ。
どちらかが冷静さを欠いた時には、片方がブレーキになる。
そう言う意味でも、彼らは解り合っていた。
言い争いをする事も多いし、反目する事もあったが、それは考え方の相違であって、相手が嫌いな訳ではない。
リーダーとしての立場を守らなければならない健は、どうしても慎重にならざるを得ないのだ。
それは他の4人の生命を預かっている、と言う気持ちが強いからに違いない。
ジョーはその事は良く解っているつもりだった。
それでも反目し合う事はある。
だが、こうして共に闘っている時は本当にいいコンビネーションだった。
2人が暫く走って行くと、敵兵の数がまた一段と増えて来た。
「このゾーンに司令室があるな」
健が呟いた。
「とにかく暴れようぜ。こいつらを一掃しなければどうしようもねぇ」
ジョーは口よりも先に身体を動かしていた。
敵兵を纏めて右腕で払う。
まるで竜を見ているかのような、素晴らしい膂力だ。
この細い身体のどこからそんな力が出て来るのだろう。
鍛え上げられたその肉体に秘められた能力は、無限にあるようにも思える。
そうかと思えば、羽根手裏剣でスマートに闘う。
彼の引き出しにはどれだけの闘い方が詰まっているのか?
それ程までに技がいくつもあり、見ているだけで関心してしまう。
ジョーは長い脚を高く振り上げて、敵兵の首へと落とした。
後ろ首をやられた敵はそのままいとも簡単に崩れ落ちた。
「健、そろそろ出て来そうな気がするぜ。
 変な隊長さんがよ。
 俺に任せておめぇは先に進みな」
ジョーはサブリーダーとしての自分の分を弁えている。
ベルク・カッツェに復讐したいのは山々だが、そこまで功を焦ってはいない。
この場所はすぐに片付けるつもりだからだ。
健を先に行かせても、自分はすぐに追いつくつもりでいる。
果たしてジョーの言う通りに、コスプレ隊長が登場した。
頭にだけイタチザメにそっくりな面を被っているが、身体中にハリネズミのように棘があった。
人間の身体に棘を生やしたような形だった。
「あの棘は強力だぞ、ジョー」
「構うもんか。早く行け!」
リーダーに先に行かせる。
此処に隊長が出て来た以上、司令室にいるのは、ベルク・カッツェだ。
逃がすよりは健に行かせた方がいい。
「ふふふ、若造。随分と勝気だな。
 このわしに勝つつもりでいるらしい」
「ああ、まさにその通りさ」
ジョーは不敵に笑った。
「後難を避ける為に言っておくがな。
 この棘には猛毒が仕掛けられている。
 触ったら一瞬で死ぬぞ」
「馬鹿を言えっ!だったらてめぇだってとっくに死んでいる筈じゃねぇか!」
「残念だったな。このスーツの下に防御服を着込んでいるのでな」
「ぐっ…!」
ジョーは言葉に詰まった。
つまりこの隊長の身体には触れる事も出来ないと言う事なのだ。
身体に触れないで闘うには、エアガンか羽根手裏剣しかない。
(いや、待てよ……)
ジョーは考えた。
この通路全体を爆破してしまえばいい。
この隊長を生き埋めに出来る。
その間に時間は稼げるだろう。
ジョーはエアガンの先にペンシル型爆弾を仕込んだ。
どすんどすんと床を揺らしながら、敵の隊長はこちらに向かって来た。
その後ろから平隊員達が遠巻きにマシンガンを構えて立っている。
さすがに隊長には近づけないのだ。
健はもう大分先に進んでいる事だろう。
ジョーの額に汗が流れ出た。
隊長が腕を振り上げ、ジョーを殴ろうとして来たが、ジョーは飛び退ってそれを避けた。
攻撃一辺倒な敵に対し、ジョーは後退せざるを得なかった。
しかし、それは彼の計算の下に成り立っていた。
彼は天井に空気孔のある場所まで隊長を誘っていたのである。
空気孔に爆弾を発射すれば空気と相俟ってペンシル型爆弾の威力が増す筈である。
そして、上からこのメカ鉄獣の部品が大量に落ちて来ると睨んでいた。
隊長の攻撃はなかなか鋭い。
それを素早い動きで交わしながら、ジョーは戻った。
「すばしこい餓鬼めっ!」
敵の隊長は焦りを滲ませている。
折角の棘の猛毒が威力を発揮しないのだ。
ジョーは自分の身を囮にしながら、空気孔の場所より更に後ろに後退した。
(行くぜ!)
エアガンを斜め上に向け、ジョーはペンシル型爆弾を発射した。
どうんっ!と言う激しい音の後、ガラガラと瓦礫が落ちて来た。
「うわぁっ!」
ジョーの計算通り、敵の隊長はその瓦礫に埋もれた。
「くそ、お前ら早く助けろっ!」
隊員達に声を掛けるが、誰も助けようとはしない。
「残念だったな。その棘が仇になって、助けては貰えねぇぜ。
 自力で出て来やがれ」
ジョーはせせら笑うと、元来た道へと戻った。
先程降りて来た階段まで戻って、更に下の階へと降りる。
そこから司令室を目指す事にしたのだ。
「時間を無駄にしちまったぜ。
 此処から挽回しねぇとな」
ジョーはひた走った。
風のようだ。
脚が見えないぐらいのスピードで彼は進んだ。
また敵兵が現われたが、彼の敵ではなかった。
「おめぇらの隊長はもう倒した。
 諦めるんだな!」
マシンガンを滅多撃ちにする敵兵の頭を乗り越えるかのように、ジョーはジャンプして、空いている通路へと降り立った。
後ろからマシンガンで狙われたが、構わずに駆け抜けた。
マントが銃弾から彼を守ってくれた。




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