『イタチザメ型メカ鉄獣(4)/終章』

ジョーは素晴らしいスピードで走りまくった。
健より1階下を走っている事になる。
少し遅れを取っているに違いない。
司令室にカッツェがいると思うと、ジョーの気持ちは逸った。
あの場所に隊長自ら出て来たとなると、司令室が空っぽの訳がない、と彼は考えたのだ。
通路をひた走る内にメカ鉄獣の頭部と思われる場所に突き当たった。
(此処が司令室か…?)
ジョーは耳を澄ました。
健の気合が聴こえた。
「間違いねぇっ!」
ジョーは扉に体当たりして飛び込んだ。
そして、驚きに眼を見開かせる。
さっきの隊長がピンピンとして健と闘っているではないか。
闘っていると言うよりは、健は防戦一方で、ちょっかいを出すギャラクターの隊員とも闘わなければならない非常に不利な状態にいた。
「おめぇ、良く此処まで戻って来られたな?」
ジョーが睨みつける。
しかし、良く見ると身体に纏ったスーツと棘の色が微妙に違っている。
「お前か。俺の弟を倒したのは!」
隊長が2人いたって言うのか……?
ジョーは混乱した。
「俺達は2人で1人。双子の兄弟だ。
 良くも弟を倒してくれたな」
「そう言う事かい」
ジョーは納得して、健と反対側に立ち、敵の隊長を挟んだ形になった。
「隊長が2人いるとは考えなかったぜ。
 此処にはカッツェがいる物だと張り切って来たのに、残念だ……」
健が眼で気をつけろ、と言っている。
弟の方を倒したからと言って油断をするな、と言いたいのだ。
敵は恨みを込めてジョーを中心に狙って来る事だろう。
そんな事は解っている。
とにかくこいつを倒して、この場所を爆破しなければ……。
その時、ドーンと激しい揺れが来た。
ジュン達が機関室を爆破したらしい。
イタチザメ型メカ鉄獣は、コントロールを失い始めた。
「仲間が機関室を爆破した。
 もう諦めたらどうだ?」
健が言った。
「そうは行くか!」
敵の兄の方の隊長は弟にはない素早さを持っていた。
健が防戦一方だったのも良く解った。
ジョーはバック転をしながら、攻撃を避けた。
その間に健が後方からブーメランで攻撃する。
それを隊長が見事に避けたのには驚いた。
隊長を通り越し、ジョーに当たりそうになったのを、彼も辛うじて避けた。
ブーメランは空を切って、健の手元に返った。
ジョーは敵の僅かな隙も見逃さない。
健に集中力が行っている間に、彼はエアガンの一撃で敵のマスクを剥がした。
喉元が露わになったのを見逃さず、ジョーは羽根手裏剣を放った。
見事に狙い違わず喉元に命中させる。
敵の隊長がぐらりと揺れた。
それでもまだ持ち堪えて立っている。
そこに健のブーメランが再びその後ろ首を襲った。
敵の隊長は漸くドーンと音を立てて倒れた。
「やったな、ジョー」
「ああ。手強かったぜ」
身体に触れる事が出来ない敵とは、闘いにくかった。
しかし、2人はコンビネーションで見事に片付ける事に成功した。
「よし、爆弾を仕掛けて俺達も脱出だ」
「おうっ!」
2人はブーツの踵から爆弾を取り出して、それぞれ仕掛けて行く。
「これでいいだろう。ジョー、脱出するぞ」
「ラジャー」
2人はジョーが来た道をひた走った。
途中で階段を上がらなければならない。
階段室の出入り口はジョーが開け払ったままなので、見逃す事はないだろう。
まだ敵兵がわらわらと出て来たが、コントロールを失っているメカ鉄獣の中で大した事は出来ない様子だった。
それよりも早く逃げなければメカ鉄獣はいずれ墜落する。
そんな方向に気持ちが走っているから、科学忍者隊と遭遇したからと言って、本気を出して闘っている余裕などもうなかったのだ。
「へへっ、自己防衛に走っているぜ。
 どうやって逃げる気だ?
 飛行艇でもあるのか?」
ジョーは言って気がついた。
司令室にはカッツェはいなかったが、船尾の方に飛行艇があって、カッツェが乗っている可能性がある事に…。
それを健に告げると、「深追いはやめておけ。またチャンスはある」と答えるのみだった。
カッツェが親の仇なのは、健も同様だ。
ジョーはその健に逆らわなかった。
もう爆弾を仕掛けてしまったのだ。
今から行ったとしても、危険極まりない事は彼にだって解っている。
それでも危険を乗り越えて行きたかったのは事実だが、必ずしもカッツェがいるとは限らない。
しかし、こう言う時のジョーの勘は良く当たるのである。
実はカッツェはこのメカ鉄獣に乗っていた。
そして、科学忍者隊が侵入したと解ると、早々に船尾にある脱出用カプセルに移動し、そこから指示を出していたのだ。
『健!尾が離れて別方向に飛んで行ったぞい!』
竜からの通信が入って、彼の勘が当たっていた事が証明された。
「ジョー……」
健がジョーの肩を叩いた。
2人は階段を駆け上がり始めた。
ドドドドド……っ!
イタチザメ型メカ鉄獣が激しく揺れ始めた。
『健!ジョー!早くっ!』
ジュンの悲鳴のような声が聴こえた。
「大丈夫だ」
2人は階段を上がり切り、先程侵入した空気孔まで戻って、飛び出した。
間一髪、ゴッドフェニックスに拾われた瞬間に爆発が起こった。
その時2人はまだトップドームにいた。
トップドームから悔しそうにジョーがメカ鉄獣を見下ろしていた。
「カッツェの野郎……」
「ジョー、奴は俺達の裏を掻いていた。
 仕方のない事だ」
「くそぅ…」
ジョーは右手の拳で左の掌を叩きながら、コックピットに降りて来た。
「健!ジョー!」
「恐らく竜が見たロケットにはカッツェが乗っていた」
健が言った。
「まあ、司令室にはいなかったのね」
「ああ、そうだ。俺達が潜入した事に気づいたカッツェは早々に尾のロケットに乗り移っていたって言う訳だ。
 ジョーがその事に気づいたんだが、もう間に合わなかった」
「それでジョーの兄貴が悔しがってる訳か」
「俺にとっては両親の仇だからな。
 おめぇらとはカッツェに対する思いが違うのさ」
「ジョー、俺だって同じだ」
「解ってるよ、健……」
ジョーは健と右手をガシっと交差させた。
「今度こそ、やってやる」
「俺だって同じ気持ちだ」
この2人には今、同じ思いが駆け抜けていた。
ベルク・カッツェ。
親の仇である以上、自分の手に掛けて斃したい。
その思いは2人の間に流れる共通の物だった。
『諸君。ご苦労だった。
 ギャラクターの目的は結局の処、海を汚染させる事にあったようだ。
 地球の資源を利用してな』
「全く悔しい限りです…」
健が答えた。
『我々が科学の力で元通りの綺麗な海に戻して見せる』
南部博士が力を込めて言った。
「はい。お願いします。
 俺達はギャラクターの陰謀を阻止する為、これからも闘い続けます」
健が全員の気持ちを代弁した。
ジョーはまだ悔しそうにレーダーを見つめていた。
もうカッツェのロケットがレーダーに反応する事はないだろう。
それでも、じっと見つめていた。
(カッツェ。いつかきっと、貴様を……)
ジョーは拳を握り締めるのだった。




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