『深沈』

レッドインパルスの死後、ジョーは密かに南部博士に呼び出されていた。
「君の率直な意見を聞かせて貰いたい。健は科学忍者隊のリーダーとして常軌を逸していると思うかね?」
南部はソファで足を組み、ジョーと向かい合う形で座っていた。
「あいつの心の深沈までは俺には解りませんよ」
ジョーは低い声で言い放った。
「でも、正直言って独断専行に走っている嫌いがあります。
 まるで俺自身を見ているかのようですよ」
ジョーが南部から眼を逸らすかのように顔を伏せた。
健の『おとうさ〜ん!』と言う叫び声は今でも耳に焼き付いている。
「俺が言う事じゃねぇかもしれませんが、『時間薬』とも言いますからね」
ジョーが『俺が言う事じゃない』と言った気持ちは南部には良く解る。
彼の中で、『あの事件』は決して無かった事にはなっていない。
ギャラクターへの憎悪が益々燃え滾っている事も南部は知っている。
「健は暫くの間暴走するかもしれん……」
南部が遠い眼をした。
「俺にそのストッパーになれ、と?」
それでは立場が逆だ。
ジョーは思った。
「健は突っ走ったら止められないかもしれん。しかし、彼をサポートして、他のメンバーを纏めて欲しいのだ」
「………………………………………」
ジョーは腕を組んで黙りこくった。
「それがサブリーダーたる君の使命だ」
南部の眼が強い光を放った。
「それを頼めるのは君しかいないのだ。ジョー」
「そりゃあ、出来る限りのサポートはするつもりでいましたが」
「そう言ってくれると思っていた。誰よりも長く健と共に生きて来た君だからこそ、今回の事を託す」
「健の暴走を止められる自信はありませんが、窮地に陥った時の助けぐらいにはなれると思いますよ」
ジョーは立ち上がった。
「眼の前で親を暗殺された俺と全く同じケースと言う訳ではありません。
 あいつは自分が父親を死なせてしまったと思っている。
 そこが俺と違うのだと言う事は忘れないで下さい。
 俺は健の傷を癒そうとは思いません。出来るとすれば分かち合ってやる事だけでしょうよ」
それだけ言うと、南部の執務室を出て行くのであった。

健の心の深沈から這い上がって来るのは彼の力だ。
ジョーは彼が這い上がって来た時にそっと手を貸して上げればいい、そう思っていた。
それまでは自分がサブリーダーとして、きっちり隊を纏めておく事。
自分の役目はそこまででそれ以上ではない。
快調にG−2号機を飛ばしながら、ジョーは健の面影に思いを馳せていた。
(怒りはギャラクターにぶつければいい。だが、突っ走る事だけはするなよ、健……)




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