『無人島の特大火縄銃(1)』

輝く夕陽が今日も美しい。
今日は何事も起こらずに終わるだろうか。
だったらいいんだが……。
ジョーはそんな事を考えながら、トレーラーハウスを停めている森の中のハンモックから、空を眺めていた。
微妙に色が違う橙色や朱色を水に溶かしたようなグラデーションが刻々と色を濃くして行く姿はいつ見ても飽きないものだった。
この時間が永遠に続いてくれたらいいのに、と思う反面、ギャラクターよ早く出て来い、1日も早く叩き潰してやる…。
と思う気持ちもある。
ジョーの胸中は複雑だった。
この仕事が続く限りはレースにも集中出来ない。
自分の目的はギャラクターへの復讐なのだから、それだけを考えて生きていればいい、と思う心もありつつ、やはりその後の生き方を模索してしまう。
それは悪い事ではないのだが、ジョーの中では一味違うようだ。
ギャラクターへの復讐心は誰にも負けないと思っている。
世界中には彼のような子が沢山いるのだろうし、自分まで殺され掛かった子供もいるかもしれない。
だが、自分自身がギャラクターの血を引く人間だった、と言う彼のようなパターンは少ない事だろう。
彼はギャラクターを憎むと同時に、自身の存在をも憎んでいたのだ。
だから、その身の置き所を更に『復讐』に求める事になった。
自分の生命と引き換えになっても構いはしない。
最近体調不良を感じるようになってから、よりそう考えるようになっていた。
ギャラクターを斃す前に自分が斃れる事だけはあってはならない。
自分が死する時はギャラクターが滅びる時だ。
彼はそう決めていた。
だから、今日みたいな穏やかな日は体調管理に努めて、大人しく休んでいようと思っていた。
しかし、ギャラクターはこんな夜にも出現した。
『こちら南部。科学忍者隊の諸君。X−250地点でゴッドフェニックスに合体して待機せよ』
「G−2号、ラジャー」
ジョーは答えて、ハンモックから身を翻した。

ゴッドフェニックスに合体する時に、一番大変なのはジョーである。
機首部に格納されたG−2号機から棒2本で腕の力だけでコックピットまで上がって行かなければならない。
今日は少しそれが辛かった。
嫌な兆候だ、とジョーは思った。
闘いの最中に症状が出ない事を祈るばかりである。
『諸君、ご苦労。その先方に見える無人島近くの海域に於いて、漁船が次々と遭難する事故が多発している。
 これは明らかに何かの攻撃を受けている物で、ギャラクターの仕業の可能性が高い』
こちらは時差でまだ夕方だった。
ユートランドよりも数時間遅いようだ。
「解りました。ギャラクターの攻撃手段を調査して、それに対処すればいいんですね」
健が南部が指示をする前に答えた。
『その通りだ。しっかりやってくれたまえ』
南部はスクリーンから姿を消した。
「漁船を襲うとは許せない奴じゃわい」
竜が早速吠えた。
「そうねぇ。でも何故なのかしら?何か目的がある筈よ」
「あの無人島に基地か何かがあるんじゃねぇのか?
 それを隠す為に漁船を狙っていると考えりゃあ、全て説明が付く」
ジョーはそう言いながら眩暈を感じていた。
今は収まれ、と念じる。
「ジョーの考えは確かに尤もだと思う。
 それより、少し顔色が悪いようだが、大丈夫か?」
健が訊いた。
嫌な処を突かれた。
「気のせいだろ?光の加減さ」
「そうか。ならいいんだが」
「あの無人島にギャラクターの基地があるのなら、ゴッドフェニックスを隠した方がいいわよ」
「そうだな。竜、入り江に静かに着水させろ」
「ラジャー」
竜は今回は出番がありそうだと張り切っている。
「ジョー。体調が悪いのなら、此処に残っていろ」
健はまだ何かを感じ取っているようだ。
「気のせいだと言ったろうが?!」
ジョーは声を荒げた。
「本当に大丈夫なんだな?何か起こっても俺達には助けられないかもしれないぞ」
「何も起こらねぇ。大丈夫だ」
「よし、全員島に上陸するぞ」
「ラジャー」
彼らはトップドームに上がり、近くの陸地へとジャンプした。
「ゴッドフェニックスが来た事に気づかれていねぇとは思えねぇぜ」
ジョーが言った。
確かにその通りだ。
この近くを航行していた漁船が尽くやられている。
「俺達が気づかずに通り過ぎるのを待っていたから、攻撃しなかったんだ」
ジョーは憎々しげに島の頂を睨んだ。
もう陽が暮れる。
「だとすれば、上陸しているって事も気づかれてる?」
甚平が身震いをするようにして言った。
「当然そう見るのが妥当だろう」
健が事も無げに答えた。
「用心しろ。自分の身は自分で守れ。
 これから全員で手分けをして基地への入口を探す。
 1人1人が責任を持って、行動しろ。いいな!」
「ラジャー」
「甚平はジュンと一緒に行け」
「おいらは一人前じゃないの?」
「甚平!」
ジュンが窘めて、甚平を連れて行った。
年上組の男3人もそれぞれ分かれて行った。
ジョーは1人になって一息付いた。
確かに体調が悪い。
ゴッドフェニックスに合体した時から自覚し始めた。
眩暈と軽い頭痛がある。
しかし、眩暈が何だ、吹き飛ばしてしまえ、とばかりに、彼はジャンプした。
着地した時、よろめいた。
心に不安が押し寄せた。
(こんな事では行けねぇ……。
 しっかりしろ、コンドルのジョー!)
彼は自分自身を叱咤して、前へと進んだ。
気配を殺して前へと進む。
健が行った方角から、闘いが始まったと見られる音が響いて来た。
(やはりギャラクターの基地だったか…)
ジョーは歯を喰い縛った。
意識をしっかりさせる為に舌を噛んだのだ。
右の口の端(は)から血が一筋流れ落ちた。
それを手袋で拭い取り、ジョーは車が1台通れる程の狭い道へと飛び出した。
車の音が近づいて来ている。
彼は木の影に隠れた。
走って来たのは、カニ型ブルドーザーだった。
何か作業をしているらしい。
連続して3台やって来た。
ジョーはその1台の乗っ取りを決めた。
「とうっ!」
最初の1台に奇襲を掛けた。
敵が3台のカニ型ブルドーザーからすぐに降りて来て、ジョーを囲んだ。
ジョーは何とか眩暈をコントロールしていた。
回転するような技を避け、羽根手裏剣とエアガンで対処した。
敵兵はマシンガンを常時携帯している。
マシンガンの銃弾を真正面から受けるようにジョーはひた走った。
しかし、弾丸は当たりはしない。
マントで弾くような無茶をしながらジョーは走った。
バードスタイルは滅多な事では銃弾を通さないが、被弾は危険だとされている。
衝撃までは防げないからだ。
実際、ジョーは負傷する事も何度かあった。
「うりゃあ!」
敵兵を腕1本で薙ぎ払い、ジョーは戦車から落とした。
別の隊員が襲って来た。
ジョーは羽根手裏剣を飛ばし、それを倒した。




inserted by FC2 system