『無人島の特大火縄銃(2)』

ジョーは反転して敵をエアガンで撃った。
その刹那激しい眩暈を感じてよろめいた。
敵がそれに気づかない訳がなかった。
マシンガンの集中砲火が彼を襲った。
「くそぅ。何だってこんな時に……」
ジョーは先程舌を噛んだので、また唇から血を流していた。
しかし、今はそれどころではない。
その痛みで神経を正常に取り戻し、闘う事だけを考える。
そう言う作戦だったのだ。
ジョーは跳躍して、羽根手裏剣をばら撒いた。
敵兵が正確に倒れて行った。
ジョーはホッと一息吐いた。
カニ型ブルドーザーに乗り込んで、適当なボタンを押してみた。
すると方向を変えて、カニ型ブルドーザーが勝手に動き始めた。
「基地に案内してくれるといいんだが……」
ジョーは乗り込み口の蓋を閉めて呟いた。
体調は思わしくない。
しかし、健に大見得を切った以上、異常を訴える事は出来なかった。
怪我に気を付け、任務を遂行する、それしかないのだ。
眩暈止めの薬はG−2号機の中だ。
コックピットに上がる途中で異変を感じたので、薬は飲まなかった。
飲んだ処で効くものでもねぇだろ、とジョーは思い込む事にした。
(やるしかねぇんだ……)
カニ型ブルドーザーは、何か鉄筋で出来た建物へと入って行く。
「健!敵のブルドーザーをジャックして、基地らしい建物に着いたぞ」
『ジョー、バードスクランブルを発信してくれ』
「解った」
ジョーはブレスレットを強く押して、バードスクランブルを3回発信した。
そして、カニ型ブルドーザーからヒュッと身体を翻して降りた。
「科学忍者隊の餓鬼め。此処まで入り込むとはさすがだ」
声がした方向を見ると、ギャラクターの隊員達がマシンガンを構えてズラッと並んでいた。
先程やっつけた敵が連絡したのだろう。
「何だ、1人じゃないか。やっちまえ!」
1人が指示を出した。
他の者と同じ姿をしているが、チーフに一番近い立場にいるのかもしれない。
ジョーはタタっと走って、エアガンの三日月型キットを飛ばした。
ガガガガガと敵の顎にヒットして行く。
その次の瞬間には羽根手裏剣が舞っていた。
的確な狙いは、多少の眩暈があっても健在だった。
何事もなかったかのように健達の応援を迎えたい。
ジョーはまた口の端の血を拭い去った。
舌を噛んだ程度では効かなくなって来たら、自分で自分を傷つけるしかない。
その時は左腕に羽根手裏剣を突き立てようと決めていた。
しかし、それは最後の手段だ。
健達に余計な憶測をされるような事は避けたい。
やがて健が追いついて来た。
「ジョー、大丈夫か?」
「見ての通り、戦闘中さ」
ジョーは余裕を見せて、闘っていた。
健もそれに加わった。
暫くすると他の3人も到着した。
「まだまだ此処は入口だぜ」
ジョーが言うと、健が、
「早い処片付けて先へ進もう」
と言った。
科学忍者隊が1人から5人になった処で、敵は綺麗に片付いた。
5人はそろりそろりと先へ進む事になった。
時折敵が単独で奇襲を仕掛けて来る。
ジョーが羽根手裏剣で倒したり、健がブーメランでやっつける。
中は広い通路が広がっていたが、基地はどうやら丸い形に出来ているようで、放射状に通路が伸びているようだった。
その円周上にも通路がいくつかある。
通路が交わる場所では、注意が必要だった。
彼らは注意深く先へと進んだ。
敵襲を交わしながら、基地の中心部へと到達した。
何やら大きな物が空に向かって斜めにそびえ立っていた。
「何じゃあ、こりゃあ?」
竜が大声を出した。
「これは日本の戦国時代に使われた火縄銃に似ているぞ」
ジョーが言った。
彼は銃器に関しては造詣が深いのだ。
さすがに射撃の名手だけの事はある。
「似ている、と言うよりも火縄銃その物だ。
 こんな巨大な火縄銃で何をする気だ?」
その時、5人が立っている床が割れた。
「うわぁぁぁ〜」
5人は下の部屋へと突き落とされた。
しかし、綺麗に着地する。
甚平と竜は尻餅を着いた。
ジョーは少しぐらりとしたが、健とジュンの後ろ側に着地した為に気づかれずに済んだ。
正直な処、強烈に身体に異変を来たしていた。
眩暈に引き続き、頭痛が起こって来たのである。
ジョーは頭を振った。
そんな事をしても悪くなるばかりだった。
(くそぅ…)
ジョーが唇を噛み締めた時、高笑いが聴こえた。
「はっはははははは!科学忍者隊の諸君、良く来たな」
ベルク・カッツェの鼻につく声だ。
「ベルク・カッツェ!」
健が叫んだ。
姿は見えない。
声だけが響いている。
別室にいるのだろう。
恐らくは司令室に……。
「あの火縄銃の化物は何だ?」
ジョーが訊いた。
「ほう、若いのに良く火縄銃だと気づいたな。
 だが、褒めてはやるが教えてやる訳には行かん。
 君達はそこで朽ちて行くのだ。
 はははははははっ!」
カッツェの声が消えて、静寂を取り戻した。
「行かん。ガスか何かは解らんが、俺達を攻めて来るぞ」
「健。竜巻ファイターで脱出するしかねぇんじゃねぇのか?」
それはジョーにとっては、危険な提案だった。
今の彼にそれがこなせるのか、解らなかった。
しかし、こんな場所で攻めに遭って時間を無駄にする訳には行かない。
「よし、やるぞ。科学忍法竜巻ファイターだ!」
全員がフォーメーションを組んだ。
ジョーは一番下の動力源の役割をする。
今の状態で耐えられるのか?
不安を打ち消すようにして、ジョーは竜と土台を組んだ。
頭がズキズキしている。
光のない暗い部屋なのが幸いしていた。
多少は眩暈が緩和されている。
(これなら何とか行けるだろうぜ…)
ジョーは内心で呟いていた。
やるしかなかった。
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平が叫んだ。
頭がぐらりとするような嫌な感覚があった。
しかし、失敗する訳には行かなかった。
ジョーは歯を喰い縛り、その苦痛に耐えた。
竜巻は上の床を破って、先程の場所に全員が戻った。
ジョーは唇から血を流していた。
先程舌を噛んだせいだろう。
「ジョー、舌を噛んだみたい。大丈夫?」
「こんなのは大した事ねぇ」
「そう、良かったわ」
ジュンが心配してくれたが、出来るだけその事には触れて欲しくなかった。
幸いにして、健の関心は特大火縄銃の方に寄せられていた。
「ジョー。これはどう言う仕組みになっているんだ?」
「銃の後ろの方にある縄に火を点けて、銃に点火する仕組みさ。
 こんな巨大な物で何をしようってんだ?
 恐らくはロボットか特製の機械がこいつを操るんだろうぜ」
「メカ鉄獣と言う可能性もあるな」
「ああ……」
健の言葉にジョーは頷いた。




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