『無人島の特大火縄銃(3)』

特大火縄銃をギャラクターに使わせる前に爆薬を仕掛けてしまおう、と健が言い始めた。
「いや、待てよ。こいつ自体に火薬が詰まっている筈だ。
 そんな事をしたら俺達が巻き込まれるだけではなく、島の外にも危害が及ぶぜ」
ジョーは冷静に意見を言った。
頭はクラクラしている。
だが、何とか堪えていた。
夜なのが幸いしてか、顔色が悪い事は気取られずに済んでいた。
「爆薬を使う必要はねぇ。先端に何かを詰めておけば、奴らが使った時に暴発する」
ジョーが言った。
「砲弾が出ねぇようなでけぇ物がいい。
 何か探すんだ」
「解った!みんな手分けしろ」
やがてジュンと竜が資材庫から大量のマシンガンを持って来た。
「これでつっかい棒にならないかしら?」
「マシンガンか…」
ジョーは少し考えた。
「まあ、いいだろう。これを敵のメカ鉄獣が使うのなら、敵に被害が出る分には構わねぇ」
ジョーはマシンガンを持ってヒュっと高い砲弾口へと上がった。
丸い円筒型の先からマシンガンを差し込んで行く。
マシンガンは直径上に押し込む形で、その上に斜めにずらしてどんどん詰めて行く。
これなら簡単には外れない。
上から下を覗く形なので、眩暈は避けられなかった。
ジョーは唇を噛み締めて堪えた。
「これで良し。後はメカ鉄獣を探そうぜ」
「ああ、今なら乗組員は乗り込んでいないかもしれない」
健が言った時、ゴゴゴゴゴっと激しい音がした。
「遅かったようだぜ」
「脱出だ。ゴッドフェニックスに戻ろう」
健の指示の下、基地に時限爆弾を仕掛けて全員が走り始めた。
ジョーは殿(しんがり)を努めた。
前を走っていたのでは、ふらついた時に気づかれてしまう。
時々よろめきながらも、無事にゴッドフェニックスに戻った。
特大火縄銃を持った落ち武者のようなメカ鉄獣が現われた。
やはり火縄銃を扱うからには人間型だった。
ジョーが想像していた通りだった。
「さぁて、あの火縄銃はいつ使うか解らねぇ。
 中に侵入してやるか?」
「いや、待て。ゴッドフェニックスで誘いを掛けて、自滅させた方がいいんじゃないのか?」
「そうね。そろそろ基地も爆発する頃だわ」
健とジュンがジョーを諌めた。
「だが、それではキリがねぇ。
 火縄銃を使うまで待つって言うのか?
 つまらねぇ」
「ジョー、俺達の任務はつまらなかろうが何だろうが関係ない。
 お前も体調が良くなさそうだし、この作戦が一番いいんだ」
「どこも悪くねぇって言った筈だ」
「いや、ゴッドフェニックスに戻ってみて、初めて気づいた。
 やっぱり気のせいじゃない。
 お前の顔色は尋常ではない」
「この俺が何か失態を犯したりしたか?」
「いや、失態はなかった。だが…」
「健!」
ジュンが叫んだ。
「理由は解らないけど、火縄銃を岩場に置いたわ」
「直接ゴッドフェニックスを捕まえに掛かろうとしてるんじゃわ」
「それには銃なんて邪魔だもんな」
甚平も言った。
「くそう。侵入するしかなくなったか…」
健が歯噛みをするように言った。
彼はジョーを連れて行きたくないのだ。
だが、リーダー命令を持ち出しても納得はしないだろう。
表面上は顔色以外には異常は見られない。
「ジョー、大丈夫なんだな?」
「ああ、問題ねぇぜ」
「解った。竜を残して俺達は鉄獣に乗り込むぞ」
「またおら留守番かね?」
「竜は鉄獣が火縄銃を手にしたら、すぐに俺達に知らせてくれ。
 暴発に巻き込まれる事になるからな」
「解った」
健は竜にもしっかりと重要な役割を与え、不満を残さないようにした。
こう言う辺りがさすがだな、とジョーは思う。
人の動かし方が上手い。
納得させて任務に当たらせる。
そこが健のリーダーの資質である。
自分にはない部分だ。
勿論、ジョーは自分がサブリーダーの位置にいる事を気に入っている。
健よりも自由に闘えるのだ。
4人はトップドームに上がった。
「奴の背中には飛ぶ為の可動性の噴射装置がある。
 あそこになら隙間があるだろう」
健が言った。
全員が頷いた。
「竜、敵は飛ぶ事が出来るぞ。
 充分に注意しろ」
『ラジャー』
4人はゴッドフェニックスから敵のメカ鉄獣へと跳躍した。

健の言う通り、噴射装置には隙間があった。
飛んでいない今がチャンスだ。
飛ぶ時には火縄銃を手に取る事だろう。
それにしても、このメカ鉄獣は大きい。
それは火縄銃の大きさからしても明白だ。
人間型としては相当に大きい筈だ。
ゴッドフェニックスが鳥のように見える。
「あれで火縄銃でやられたらひとたまりもねぇな。
 ちっ!仕掛けをしておいて良かったぜ」
ジョーが呟いた。
「よし、行くぞ」
健が最初に飛び込んだ。
中には敵兵が待ち構えていた。
侵入を予期していた訳ではない。
警護の連中が気づいて、銃を向けて来たのだ。
4人は散って、闘い始めた。
健は注意してジョーの闘い振りを眺めていた。
ジョーはいつもの通り、縦横無尽に闘っているように見える。
羽根手裏剣の冴え、エアガンの狙いの正確さ。
身体を使っての肉弾戦も決して衰えてはいない。
そこまで見届けて健はジョーから関心を自分の闘いへと移した。
ジョーは健が監視していたのに気づいていた。
健が取り敢えずジョーの監視をやめた事で、ホッと一息つく。
(健。すまねぇな…。体調が悪い事は誰にも言えねぇ…)
ジョーは健の眼がなくなった事で、投擲武器での闘いに切り替えた。
やはり眩暈は続いているのだ。
「健!司令室は頭だ!俺は行くぜ」
「待て!」
「カッツェがいるかもしれねぇんだぜ」
「いや、俺も行く」
ジョーは仕方がねぇ、と腹を括った。
健の前では絶対に失態を起こさない。
そう強く心に決めたのであった。
「ジュンと甚平は機関室を…」
「解っているわ」
ジュンが皆まで言わせずに答えた。
「ちぇっ、おいら達いつも機関室だ」
「甚平、不満を言わないの。行くわよ」
ジュンと甚平は2人と分かれて言った。
「ジョー、行くぜ」
「ああ」
2人は走り始めた。
ジョーは足をふらつかせないようにいつも以上に注意を払った。
息切れも駄目だ。
(頭痛よ、これ以上酷くならねぇでくれ…)
祈るような気持ちで走った。
視界が揺らぐような事があっても、ジョーは眼から入る情報ではなく、耳から入る情報に身を委ねた。
その方が正確に走れるのだ。
眼は閉じ気味にして、五感を研ぎ澄ませた。
そうする事で、少しは眩暈と頭痛の影響を防ぐ事が出来た。
司令室は間もなくだった。




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