『無人島の特大火縄銃(4)/終章』

司令室はもう眼の前だった。
ジョーはいつもよりも緊張感を感じていた。
体調のせいだろう。
頭痛は何とか我慢する事が出来たが、眩暈だけはどうしても防ぎようがない。
我慢をすれば止まると言ったものではなかった。
舌を噛んでまで、意識を集中させようとしたのだが、今となってはそれ程効果があるとは言えなかった。
とにかく行動を共にしている健には絶対に気づかれてはならなかった。
いっその事、怪我でもした方が誤魔化しが効くかもしれん、とまでジョーは思い詰めていた。
しかし、それでは戦力が削がれる。
健に迷惑は掛けられない。
科学忍者隊はチームで動いているのだ。
考えている間に司令室に突入した。
カッツェを探したが、見当たらない。
スクリーンの中から指示を出していた事が解ると、ジョーはエアガンの三日月型キットでそのスクリーン画面を撃ち割ってしまった。
ジョーは覚悟を決め、眼を閉じた。
眩暈を感じにくくする為に。
そして、見えない状態で闘い始めた。
「バードランっ!」
健の声が聴こえる。
ジョーはいつもの通り、気合だけで闘った。
回転するような事は避け、敵の中に飛び込んではパンチやキックを思い切り浴びせ、羽根手裏剣を降らせた。
敵が倒れて行くのが解る。
ジョーは後方に殺気を感じ、エアガンを撃ち込んだ。
敵が悲鳴を上げた。
健の気配ならちゃんと感じ分けている。
眼を閉じていても、気配で敵を倒せる。
眩暈は半減した。
何よりも光が眼に入らないようにした事が良かったらしい。
ジョーは自由に闘った。
日頃の訓練の賜物であった。
健も澱みなく闘っているジョーを見て、安心した。
まさか眼を閉じて闘っているなどとは予想だにしなかった。
「ジョー、そろそろ敵が火縄銃を手に取るかもしれん。
 急いで爆弾をセットしよう」
「ラジャー」
ジョーは踵から爆弾を取り出した。
どこに取り付けたら一番効果的か。
こればかりは眼を開かないと解らなかった。
光が1度に眼を刺激した。
「ぐ…う…」
ジョーは小さく呻いたが、健には気づかれていない様子だった。
ふらりとしながらも、爆弾を2つ仕掛けた。
「健、時限爆弾をセットしたぜ」
「よし。脱出するぞ」
「解った!」
ジョーは近くにいる敵に羽根手裏剣を放った。
敵は右手を抑えて悶絶した。
「ジョー、雑魚に構うな」
「おう」
健はもう司令室から走り出ていた。
ジョーもそれに続いた。
その時、メカ鉄獣が激しく揺れた。
『みんな!メカ鉄獣が火縄銃を手に取って飛び立とうとしとるぞい。
 早く脱出して来いや』
竜からの連絡が入った。
「解った。全員脱出せよ」
健が指示を出した。
「へん!特大火縄銃を使ってみろよ。
 面白い事になるのも知らねぇで…」
ジョーが嘲笑した。
「ジョー、行くぞ」
「おう」
ジョーはまた眼を閉じた。
通路は1度来た道だ。
走れない事はない。
「奴はまだ火縄銃に火を点けていねぇ。
 恐らくは飛び立った後に背中の噴射装置で火を点けるんだろうぜ。
 場合によっては脱出困難に陥るかもしれねぇ」
ジョーが言った。
「ジュン達は間に合うだろうが、俺達はどうかな?」
「ジョー…」
「噴射装置まで戻らずに、どこか途中で爆発を起こして崩れた処から脱出した方がいいかもしれねぇ」
ジョーは自分の体調で無事に逃げ出す事が出来るのか、不安に思っていた。
その時は健だけでも先に行かせなければならない。
それも『納得して』置いて行くように仕向けなければ……。
「その時は俺に構うな。俺は俺で脱出口を見つけて見せる。
 いいか、自分の身の事だけを考えろ」
「ジョー、何を言っている?」
「そのままの意味さ。いざとなったら、それぞれ自分で活路を見つけ出そうぜ、と言っているだけさ」
「ジョー……」
「逃げられねぇとは言ってねぇ!
 別々に行動する必要があるかもしれねぇ、と言っているだけだ」
「解った…。その時はそれぞれの判断で脱出しよう」
健が走りながら頷いた。
その時、竜の悲鳴のような声が上がった。
『メカ鉄獣が飛ぶぞいっ!』
「火縄銃に火を点けるのも時間の問題だな」
ジョーは事もなげに言った。
『健!ジョー、気ぃ付けてくれや!
 ジュンと甚平は脱出済みだぞい』
「それは良かった」
『侵入した噴射装置からは脱出不可能よ!
 どうするの!?』
ジュンが叫んだ。
「狼狽えるな。俺達2人、それぞれが自分の身を守って脱出するのみさ。
 健、分かれよう」
「解った。気をつけろよ…」
健は心配そうにジョーを見たが、いつものジョーと変わりはなかった。
2人はそれぞれの方向に分かれた。
健と離れた後、ジョーはついに膝を着いた。
頭がふらついて、身体が言う事を聞かない。
此処まで耐えただけでも大したものだったと自分でも思う。
健の前でこうならなくて良かった。
気が張っていたのだろう。
しかし、脱出を諦めてはならない、ともう1度立ち上がった。
健は無事に機関室が爆発した時の穴から飛び出した。
ジョーは眩しくて光が見られなくなっていた。
しかし、眼を閉じていても光の気配は感じられる。
敢えて司令室の方に戻った彼は、爆発する司令室の中に走り込み、割れた強化ガラスの眼の中から飛び出した。
マントを広げて地上へと降りて行く。
その直後にメカ鉄獣は火縄銃に火を点けた。
特大火縄銃はジョーの仕掛けにより、砲弾を出す事はなかった。
その中で暴発を起こした。
これでメカ鉄獣は全滅状態に陥った。
輝く爆発の火の中、健達はジョーを見つける事が出来なかった。
「ジョー!」
『馬鹿だな。生きてるぜ』
ジョーの元気な声がコックピットの中に響き渡った。
「ジョー、良かった……」
ジュンが涙を流している。
「お、いたわい」
竜が手を振っているジョーを見つけて降下した。

「ジョー、全く焦らせやがって」
健は少し怒っていた。
「しかし、無事に戻ってくれて良かった」
体調の異常には気づかれなかったようだ。
「相変わらず顔色は悪いが、その働きにいつもと遜色はなかった。
 安心したぞ」
健は敢えて冷たい感じで告げた。
「顔色なんて関係ねぇ。誰にだってそんな事もあるだろうよ」
ジョーは上手く誤魔化せた事で強気になっていた。
本当は早く自席に着きたかった。
ゴッドフェニックスがメカ鉄獣が爆発した事により、乱気流に呑み込まれたその時、ジョーはついに転倒した。
眩暈が起きていなければ耐えられた筈だ。
だが、敢えて乱気流のせいにしておいた。
「ジョー、すまんすまん」
竜が笑った。
「ジョー、頭を打ったんじゃなくて?」
眩暈に頭がクラクラしている処に、ジュンが彼にとって都合の良い解釈をしてくれた。
「軽い脳震盪だ。心配するな」
ジョーは低い声で言って、自分の力で自席に戻った。
今回は何とか誤魔化しきれたが、これからどうなる?
ジョーの脳裡には今、その事しかなかった……。




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