『ダイエットの勧め・4』

「りゅ…竜。…どうして俺の上にばかり…落ち、やがる…」
敵の基地を爆破した後だ。
以前にも同様な事があったが、どう言う訳か、気絶した竜がジョーの身体に見事に斜めに乗っかった状況になっていて、ジョーは起きるに起き上がれない。
「これはまたダイエット論争が起こるぜ、お姉ちゃん」
甚平がこっそり言った。
「ふふふ。竜には薬になっていいんじゃない?
 ジョーには気の毒だけれど」
「何で気の毒なの?」
「重い思いをしただけで、ダイエットの事は暖簾に腕押しだからよ」
ジュンは笑った。
健は呆れたように竜を見下ろしていた。
「こう言う時に限って、意識を取り戻すのが遅いんだな…」
冷たい声が聴こえた。
「健…。何とかしろよ」
ジョーが弱気な声を出した。
「待て。何か重篤な怪我を負っていないか、見てみる」
「おい……」
ジョーはまだ下敷きになったままだ。
「脳震盪でも起こしたんじゃない?怪我らしい怪我は見つからないわ」
ジュンが言った。
「兄貴ぃ。ジョーが可哀想だよ。
 早くどかして上げないとぺったんこになっちまうよ」
甚平がジョーに同情した。
絶対に公称の80kg以上あると言うのが全員の意見だ。
「い…息が出来ねぇ。もう堪えきれねぇ……」
そう言ったジョーは唇から少量の血を吹き出した。
「ジョー!大変だわ。内臓をやられているわ。
 竜よりもジョーの方が重症よ!」
ジュンが細腕で竜をどかそうとした。
健も慌てて手伝ったがびくともしない。
健は最後の手段で竜の頬を叩(はた)いた。
往復ビンタだ。
竜は漸く目覚めた。
彼は自分がジョーを下敷きにしている事にやっと気づいた。
慌ててどいた。
「ジョー、ジョー。大丈夫か?
 内臓破裂していないか、博士に調べて貰おう」
健が抱き起こした。
ジョーは自分では起き上がれない程衰弱していた。
「ギャラクターじゃなくて、仲間にやられるとはよ……」
言葉は比較的ハッキリしている。
大した事はないだろう。
血を喀いたのは、口の中を切っただけなのかもしれない。
だが、ジョーが自分で動けるようにならないのが健の気に掛かった。
「竜。お前がゴッドフェニックスまで運べ」
健は怒ったような口調で言った。
「いやぁ、ホント、すまんかったわぁ〜」
竜は頭を掻きながら、ジョーを抱き上げた。
ジョーの意識はある。
多少内臓に損傷があったとしても、重態ではあるまい。
ちょっとしたショックで動けなくなっているのだろう。
ゴッドフェニックスの自席に落ち着いて、基地に着いた頃にはもう何ともなかった。
幸いにして口の中を切っただけで済んだのだ。
「だが、次は内臓破裂も有り得るぞ」
健が言った。
博士も頷いた。
「その危険性はある。ジョーの体脂肪率を考えたら、竜の直撃は相当な衝撃の筈だ」
「今までジョーが何度も竜をダイエットさせようとして来たが、全く続かなかった。
 今度は俺も本腰を入れる事にする」
健が強い眼で言った。
「やめとけやめとけ。絶対に無理だ。
 この俺が匙を投げたんだぞ」
ソファーで横になって休んでいるジョーが言った。
「しかし、たまたまジョーが2回も被害を受けたが、ジュンや甚平が下敷きになったらどうなると思う?
 ジョーだからこの程度で済んだんだ」
健は真剣だった。
「ジョー、大丈夫か?身体が良くなったら手伝ってくれるか?」
「身体はもう大丈夫さ。手伝えって言うなら手伝うさ」
ジョーが半身起き上がったのを、南部が止めた。
「ジョー、まだ安静にしていなさい。呼吸器系が少し弱っている」
「この俺がですか?」
「そうだ。竜が乗っていた時間が長かったのだ。
 君が息苦しかったのはそのせいだ」
南部博士は冷静に事を告げた。
「それなら今日は俺1人でやる。
 竜、訓練室に来い!」
健が竜を引っ張って行った。
「妙に張り切ってるな」
ジョーが呆れたように呟いた。
「貴方の事は勿論だけれど、竜の事も心配しているのよ。
 あの調子では私達の足を引っ張る事にならないとは限らないもの」
「けっ!」
と言ったジョーが胸を抑えた。
「ほら、見なさい。まだ博士の言う通り、元の体調に戻ってはいないのだわ。
 今日ぐらいは安静にした方がいいわよ」
ジュンがソファーのジョーに毛布を掛けた。
「ジョー。肺のレントゲンが届いた。
 1箇所白く濁っている処があるだろう。
 そこの組織がやられているのだ。
 血を喀かなかっただけ、幸いだと思いたまえ」
「ジョーはそんなに悪いんですか?」
「1〜2本点滴をすれば良くなるだろう。
 ジョー、一緒に来たまえ」
「はぁ……」
ジョーは気乗り薄な様子で博士に着いて行った。
「甚平。健の鬼教官振りを見学しましょ」
「うん」
ジュンと甚平は背中を見せて去って行った。

「ジョー、良く耐えたな。皆の前では言わなかったが、余り良くはないぞ」
「本当ですか?博士。こんなにピンピンしているのに」
ジョーは博士の言葉に驚きながら、素直に点滴を受けた。
「うむ…。肺の組織が剥がれ掛かっている。
 いつ血を喀いてもおかしくない。
 実際、現地で少量喀いているだろう」
「ですが…。痛みも何もないんですがね」
「これから痛みが起こって来る。
 外科的手術をする程ではないが、安静が必要だし、数日間の点滴が必要だ」
「それじゃあ、健に付き合っている処じゃ…」
「そうだ。健にはそっと私から言っておく。
 竜に知られるとショックを受けるだろうから、黙っておく事にした」
「解りました。健に期待しましょう。
 でも、退屈ですねぇ。大して体調も悪くないのに」
「そうかと言って無理をして動いたりすると血を喀くぞ。
 脅かしではない。きっちり言っておく。
 じっとしていても、その内肺の組織が外に出たがって、血と一緒に組織を喀き出す事になるだろう」
「止むを得ませんね」
ジョーは諦めたように天井を見つめた。
「健の鬼教官振りを見てみたかったですよ」
「動いては行かん。見学にならジュンと甚平が行っている」
「様子は2人から聴く事にしましょう」
「前にも言ったが、適材適所と言うものがある。
 竜にはあの身体があるからこそ、あれだけの膂力を発揮出来るのだ」
「それは解っていますがね」
ジョーは瞳を閉じた。
少し胸苦しくなって来たのだ。
血を喀くのが近いのかもしれない。
「ジョー、苦しくなったらすぐにナースコールをするんだ。いいね」
南部は忙しそうに出て行ったが、ジョーはすぐに限界に達してナースコールのボタンを押した。
健の鬼教官振りは見られそうもなかった。
竜がどの位痩せているかは、後の楽しみに取っておく事にした。




inserted by FC2 system