『G−2号機での狙撃(後編)』

敵兵は相変わらずわらわらと飛び出して来る。
しかし、ジョーはそれを見事に交わしていた。
仲間達はバラバラのメカで来ると言う。
此処にG−2号機がある以上、スピードは期待出来ない。
仲間を当てにする気は彼にはサラサラなかった。
大きく回転して、敵兵を薙ぎ倒し、羽根手裏剣で射止める。
これからしなければならない大仕事の前に体力を消耗したくはなかった。
エアガンの三日月型キットが敵兵の顎に次々とクリーンヒットして行った。
敵兵がバラバラになって来た。
チャンス到来!とばかりにジョーはG−2号機に飛び乗り、敵兵を跳ね飛ばして回った。
そして、いよいよ時が来た。
どこかでレッドインパルスの2人も息を呑んで見つめている事だろう。
ジョーはコナドレ山の麓から、山腹目掛けてG−2号機で登った。
止まっている事は出来ないから、G−2号機はコナドレ山に乗り掛かったような体勢になった。
「南部博士。これから任務を遂行します」
『充分気をつけてな』
「ラジャー」
ジョーは狙いを定めた。
この位置で問題はないだろう。
問題なのは、ガトリング砲を発射した後だ。
どうやって逃げ出すのか、ある程度のシュミレーションはしたが、何が起こるか解らない。
5弾ある弾丸も、3発以上は危険だと言う事だったが、どこまで使えば敵のミサイルを破壊出来るのか、計り知れなかった。
とにかくやるしかなかったのだ。
コナドレ山の頂は、視界良好だった。
万が一にも失敗する事はない。
特殊弾の威力がどの位あるのか…。
それだけに今回の任務は掛かっていた。
ジョーはコンドルマシンを発動した。
そして、発射ボタンを押した。
1発…。2発…。
効果がない。
これはG−2号機を捨てる覚悟が必要かもしれない、とジョーは思った。
3発目を撃つ。
当たってはいるのだ。
しかし、ミサイルにはヒビが入っただけだ。
機体が熱くなり始めた。
博士に事情を報告している余裕はなかった。
ジョーは4発目を撃った。
もう少し…。 最後の1発を使っても駄目だったら、どうするのだ?!
ジョーは額に汗しながら、ついに5発目を撃った。
その瞬間、G−2号機が爆ぜた。
ジョーは急いで、脱出したが、爆発の衝撃で身体が動かなかった。
ミサイルの破片が落ちて来る。
背中にその破片がグサリと刺さったのが解った。
しかし、もうジョーはその意識を手放していた。

健達が駆けつけた瞬間には、G−2号機が爆発していた。
飛び出したジョーにミサイルの破片が刺さったのも見えていた。
「俺と竜でジョーを救い出す。
 ジュンと甚平はミサイルの様子を観察していてくれ」
健が指示をして走り始めた。
ミサイルは徐々に爆発を繰り返していて、助けに走る健達も危険に晒された。
ジョーはG−2号機の横に倒れていた。
全く逃げる余裕がなかったのだ。
特殊弾は5発使わなければ、無理な状態だった。
生命の危険がある任務だと、健は博士から聴いていたが、まさか本当にこんな事になるとは思っていなかった。
あのG−2号機が爆発・炎上している。
「ジョー、しっかりしろ!」
背中に刺さったミサイルの破片はかなりの大きさだ。
『健!竜!ミサイルの残りの部分が落ちそうよ。
 早く逃げて!』
ジュンからの通信で上を見上げた。
ミサイルは残り4分の1程になっている。
もうミサイルとして機能する事はないだろう。
だが、あれが落ちて来たら3人ともお陀仏だ。
竜がジョーの身体を抱き上げ、健と共にジュン達の位置まで無事に戻って来た。
墜落したミサイルがG−2号機を巻き込んで更に大爆発を起こした。
「ジョー!ジョー!」
呼んでも意識は戻らない。
火傷は大した事がなかったが、肺に煙を吸い込んでいる。
そして、背中の傷が痛々しかった。
健は唇を噛んで、南部に全てを報告した。
『そうか…。ジョーにはすまない事をした……』
南部博士の沈んだ声が聴こえた。
「どうしてジョーだけに任務を与えたのですか?
 ゴッドフェニックスが狙われているとしても、他に何か対処法はあったかもしれません」
『諸君の言いたい事は解っている。
 だが、とにかくジョーを私の処へ連れて来てくれたまえ』
「解りました」
健は不貞腐れたような声で答えた。
「竜。全員、G−5号機に合体する。ジョーを乗せて、急いでくれ」
「ラジャー」
全員がG−2号機を欠いたゴッドフェニックスに乗り込んだ。
ジョーは意識を取り戻した。
背中に入った破片は大きかったが、臓器には影響がないようだ。
少し噎せ込んだのは、肺に入った煙のせいだろう。
それが傷に響いたのか、ジョーは顔を顰(しか)めた。
「ジョー、大丈夫か?出血を防ぐ為にまだ破片が背中に入っている」
「大丈夫さ。それよりG−2号機がやられちまった…。くそぅ…」
「ジョー、博士が急ピッチでメカニックにG−2号機を作らせているそうだ」
「聴いている。用意が良過ぎると思っていたんだ…」
「傷に障る。もう話すのはやめろ」
健が言った。
「大丈夫さ。大した事ぁねぇ。
 それよりミサイルは無事に破壊出来たのか?」
「お前の活躍で、無事に爆破出来たぞ」
「そうか……。それだけが救いだな」
ジョーは呟いた。
「良かったわ。ジョーの意識が戻って…」
「本当だよ。いつもヒヤヒヤさせられるからさ」
ジュンと甚平が言った。
「すまねぇな…。でも、今回も駄目かと思ったぜ。
 G−2号機がやられちまったからな」
「博士はそれを見越していたんだな…」
「ああ、あの特殊弾を3発以上撃ったら、G−2号機は熱を帯びて来る、と言われていた。
 だが、あのミサイルは5発撃って漸く何とかなった」
「ジョーの射撃の腕を以ってしても5発必要だったんだな…。
 博士はそれを知りつつも、ジョーを送り出さない訳には行かなかったって事か…」
「おい、博士を責めるなよ。
 俺を送り出す時の顔が忘れられねぇ」
「解ったよ。解ったから、大人しくしていろ」
「ああ…。少し眠らせて貰おう…」
ジョーはそう言うと、意識を喪った。
「ジョー!……意識を喪ったわ。大丈夫かしら?」
ジュンが心配そうに言った。
「大丈夫だろう。臓器をやられていたら、血を喀いたりしている事だろう」
健がジョーの顔を見て呟いた。
「今回は酷い事にならなくて、良かったのう。
 ジョーの負傷とG−2号機の爆発。
 でも、それだけで済んだのは不幸中の幸いと言わなきゃ行かんだろ」
「ジョーが助かっただけでも、そう思わなければならんな。
 今回の任務はそれだけ危険なものだった」
健はスクリーンの外に拡がる空を見つめた。
「ジョーが無事で、本当に良かった……。
 そして、ジョーは1人で任務を完遂してくれた」
「馬鹿、野郎…。照れるじゃねぇか……」
まるで譫言のように、ジョーが呟いた。
全員に明るい笑いが戻った。

ジョーの傷は縫合され、事なきを得た。
G−2号機もメカニックの必死の作業で復活した。
今回の任務は非情なものだったが、南部はその事をジョーに密かに詫びていた。
「すまなかったな、ジョー…。
 危険だと解っていて、君を行かせた。
 射撃の腕は君に適う者はいないからな」
「いいんですよ、博士。無事に済んだ事です」
ジョーはそれだけ答えて、病室の窓の外を見た。
海水魚が優雅に泳いでいる。
「もう身体がウズウズして来ましたよ」
元気である事を強調する為に、ジョーは言った。
「行かん。まだ大人しくしているのだ」
「解りましたよ、博士……」
ジョーは静かに眼を閉じた。
疲れていたのだ。
「疲れを癒す為に眠りなさい」
博士は静かにそう言って、病室を出て行った。




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