『海洋汚染博覧会(1)』

海洋科学研究所では、マントル計画の一環で海洋汚染を解決し、美しい海を取り戻したその大仕事を博覧会として発表する事になっていた。
『海洋浄化計画博覧会』には南部博士も呼ばれ、ジョーは護衛に当たっていた。
健達も市井の人々に紛れて、ギャラクターが出て来ないかと警備をしている。
南部博士はガラス越しにパレードが見られる場所に陣取っていた。
該当地区のブラッサム国の国王も臨席すると言う大きなパレードだった。
南部博士は国王の隣に座り、いろいろと質問に答えていた。
今回の護衛は、南部博士の、と言うよりも国王の護衛だった。
だから、ジョーはいつもの服装の上からダークなスーツを身に纏っていた。
それが良く似合う。
本人は窮屈だと思っているが、国王には礼を取らなければならない。
博士に言われて、仕方なくスーツに袖を通したのだった。
博覧会は科学者が集まり盛況を極めていた。
各国の頭脳とも言うべき科学者が一堂に集まると言う事で、テロが心配されていた。
その為に科学忍者隊も駆り出されたのである。
一般のテロは国際警察や国連軍が何とかするだろうが、ギャラクターが現われた時の為に、科学忍者隊も待機している必要があった。
異常な動きがあったら、健達からブレスレットに連絡が来る事になっている。
ジョーは油断なく、向かい側の建物を見ていた。
狙撃をして来るとしたら、向かい側の高い建物からに違いない。
ブラッサム国は石油が出て俄に有名になった国だった。
だが、その原油がなぜか海へと流出してしまい、海洋科学研究所と南部博士の出番となった訳だ。
そしてそれを解決出来た事で、今日の博覧会が開かれる運びとなった。
しかし、国王を暗殺する動きがある事を、ISOの情報部員達が掴んでいた。
理由は不明だ。
暗殺するより人質に取って石油を奪い取る方法の方が解りやすいのだが……。
「もしかしたらギャラクターは国王の生命を盾に石油を寄越せと言っているのかもしれませんね」
ジョーは指令を聴いた時にそう感想を述べていた。
それが正しいとすれば、暗殺までは行かなくても、今日襲って来る可能性は充分にあった。
こんなガラス張りの場所など、狙ってくれと言わんばかりじゃねぇか、と言うのがジョーの感想だった。
まさにその通りである。
ジョーは向かいのビルに影を見つけた。
「健、向かいのビルの屋上に妙な影がチラチラと動いている」
『解った。俺とジュンで様子を見るから、そっちはしっかり頼むぞ』
「場合によっては、こっちから狙撃を仕掛けなければならねぇかもしれねぇ」
『国王のお傍にいるんだ。緊急時以外は出来るだけ控えろ』
「解ってるよ」
ジョーが見つけた怪しい影は健達が追う事になった。
「ジョー、怪しい者がいるのなら、国王に避難して戴こう」
「そうして下さい。博士。でも、出来れば奴らが動きを示すまでは此処にいて戴きたいものです」
「気持ちは解るが、狙撃されてからでは遅いぞ」
『ジョー、新聞社の張り込みだ』
健から連絡が入った。
「そうか。すまなかったな」
その会話を聴いて、南部博士と国王は落ち着いた。
『だが、別のビルも調べてみる必要がある』
「解った。頼むぜ。此処からでは何も出来ねぇ」
ジョーが焦りを見せた。
「ビルの屋上とは限らねぇ。どこかの部屋から狙っている可能性もある。
 俺はそっちに気を配る」
『頼むぞ、ジョー』
通信が切れた。
ジョーは改めて睨むように向かいのビル街を見やった。
パレードの中に狙撃隊が入り込んでいる可能性も否定出来ない。
国王を避難させるのもいいが、そうするとそいつらの動きが見えなくなる。
ジョーは複雑だった。
危険な目に遭わせない為には、避難させた方がいいだろう。
そんな事は解っている。
だが、ギャラクターが尻尾を出す時は狙撃時しかない。
ジョーは冷や汗を掻きながら、南部博士を見た。
「博士。俺が合図をしたら、国王と参列者と共に奥のシェルターに入って下さい」
「解った。国王を危険な目に遭わせてはならんぞ」
「解っています」
ジョーは周囲を睥睨した。
その時、キラリと光る何かを眼の端で見た。
やはりパレードの中だ。
「博士!」
ジョーは国王と博士を促した。
そして、庇うように自分が盾になった。
「ジョー、気をつけたまえ」
「防弾チョッキを着ています。大丈夫です」
『海洋浄化計画博覧会』に不穏な空気が近づいて来ていた。
「博士。国際警察に連絡して、パレードの参加者を避難させて下さい」
ジョーはそう言うと、ガラス張りの一箇所を解放した。
そこからエアガンで狙撃するつもりなのだ。
パレードの参加者が邪魔だった。
しかし、すぐに国際警察が出張った。
ギャラクターも異変に気づかない筈がなかった。
キラリと光ったのはやはり銃口だったのだ。
ジョーは解放されたガラス窓から敵の銃口を見事に撃ち抜き暴発させた。
その間にそのままそのガラス窓から飛び降りた。
かなりの高さがある。
中にいる国王達は防弾ガラスに守られたシェルターに避難したが、それを見てジョーの身体能力と射撃の腕に驚いていた。
「南部博士。SPにしては若いと思っていましたが、まさに凄腕ですなぁ」
国王が話し掛けて来た程だった。
「彼は訓練された若者です。ご心配は要りません」
「もしかしたら、科学忍者隊では?」
国王は期待を込めてそう訊いたのだが、南部からは期待に答えるような返事はなかった。
「科学忍者隊はバードスタイルで別の場所から張っている筈です」
「そうですか…。それは残念だ。是非逢いたかったものです」

パレードは大騒ぎになった。
避難する人々でごった返す中、ジョーは問題の男を捕まえた。
ジョーはその首筋をエアガンの銃把で殴りつけて気絶させていた。
敵は問題の銃を持ったままだ。
暴発したので、手が血で真っ赤に染まっている。
銃から手を離せない状態で道路に転がっていた。
鼓笛隊の中に紛れ込み、楽器にカモフラージュした銃を持っていたのだ。
やがて健達もやって来た。
「こいつだ。見ろ。ギャラクターのバッジを付けている」
「本当だ〜。警察に突き出してやるかね。ジョーの兄貴」
「博士の指示はそう言う事になっているぜ」
「だが、国際警察の手に負えるかな?」
健が呟いた。
また逃げ出して狙撃を企まないとは限らない。
「いや、ギャラクターに戻っても鉄の掟が待っている。
 どの道こいつは死刑だ」
ジョーが言った。
「それもそうだな。逃げ出しても死刑が待っているのなら、大人しく警察の手の中にいるかもしれんな」
健が警官を呼んだ。
南部博士も降りて来て、この男が国王を狙撃しようとしていたと言う状況を説明してくれた。
若造の言う事など聞かんだろう、と言う博士の判断だった。
「博士!危ない!」
その時、ジョーが博士を押し倒して、その上に覆い被さった。
ビュンと音がした。
硝煙の臭いが立ち込めた。
ギャラクターの狙撃手は別の仲間によって、射殺されたのだ。
「くそぅ。俺とした事が今まで気付かなかったとは……」
ジョーは悔しそうに言った。
「博士、大丈夫ですか?」
健が博士を抱き起こした。
ジョーがもう1人の敵を追い始めた。
「ジョー!」
「あいつはまだ国王を狙うかもしれねぇんだぜ!」
ジョーはそう言い置くと風のように走り抜けた。
そして羽根手裏剣を2本放った。
狙い違わず、敵の両の手に見事に当たった。
これで銃器は使えまい。
ジョーが一息吐いた時、その男はギャラクターマークのバッジを押して、自爆した。
彼は急いで身を伏せた。
「何てこった…。これから事情を訊いてやろうと思ったのによ……」
ジョーはそう呟いて立ち尽くした。




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