『海洋汚染博覧会(2)』

ギャラクターの狙撃者はそれぞれ制裁に遭って死んでしまった。
パレードは中止となったが、博覧会会場の方は盛況だった。
これから国王は南部博士と共に博覧会の会場を訪れる事になっていたのだが、それも後日にしようと言う事になった。
実際に襲われ掛けた事で、国王が恐れてしまったのだ。
仕方のない事だと、ジョーは思う。
狙撃者までもが、別手に殺されたのだ。
ギャラクターと言う恐ろしい組織の事を改めて恐れたのだ。
「さて、健よ。これからどうする?」
「ギャラクターが動かない限り、俺達がパトロールしていても意味はないだろう。
 今夜、国王の宿に暗殺者が現われるかもしれない」
「やはり国王の生命を狙う事で国家自体を脅しているのかもしれねぇな」
これはジョーが最初からそう主張して来た事だった。
「その可能性は高い。だが、ブラッサム国はそう言った事を全く公表していない」
「そこもギャラクターの脅しが入っているのかもしれねぇぜ。
 元々国王の暗殺計画があると言うのも、情報部員からの伝達だ。
 ブラッサム国から我々に正式に依頼があった訳じゃねぇ」
「その通りね。迂闊には動けないわ」
ジュンが言った。
「だが、狙撃を阻止した者がいると言う事はベルク・カッツェの耳にも入っている筈だ。
 ジョーは用心しなければならない。
 写真の1枚や2枚撮られているかもしれないしな」
健が言った。
「俺とジュンが逢った新聞記者達ももしかしたら、ギャラクターだったのかもしれない。
 今日は代表取材だった筈だろう?」
「そうだ。新聞社の張り込みと聴いた時点で怪しいと思うべきだったぜ、くそぅ」
ジョーは右手の拳を左手に叩き付けた。
「だとすれば、ジョーの写真は撮られている可能性があるわ。
 あの場所からならバッチリですもの」
「スーツを着ていたとは言え、ジョーの兄貴だって解っちゃうよね」
「そうだわ。ジョーは目つきに特徴があるからのう」
「悪かったな。余計なお世話だ」
「ジョーが国王の周辺にいる事は危険かもしれないな」
「危険なのは国王じゃなくて、俺の事だろう?
 だったら関係ないぜ」
ジョーは事も無げに言った。
もうスーツは脱いでいつもの姿になっている。
「俺の事ぁ気にする事はねぇぜ。それより国王が泊まるのは国際帝国ホテルだ。
 そこに俺達は潜入しなければならねぇ」
「博士に段取りを頼もう。
 ホテルの従業員にでもなって入り込むしかあるまい」
健が結論を出した。
「それにしてもギャラクターの奴らは何を考えているのだろうか?
 パレードを滅茶苦茶にした事が目的ではあるまい」
ジョーが顎に手を当てて言った。
「博覧会自体を滅茶滅茶しようと考えているような気がするぜ。
 俺の勘だがよ」
「国王の生命を狙うだけじゃないと言いたいのか?」
「ああ、そうだ。ギャラクターにとっては一石二鳥じゃねぇか?」
「う〜ん。それもそうだなぁ。
 博覧会の方の警備はどうなっている?」
「国際警察のSP軍団が担当している筈よ」
「国際警察かぁ。何となく頼りないのう…」
竜が鼻を掻いた。
健がジョーの意見を博士に伝えた。
『解った。日中博覧会が行なわれている間は、レニック中佐の一隊に頼んで警備を強化して貰う。
 諸君は国王のお傍にいて、さりげなく警備をしたまえ』
「ラジャー」
『国王の側近と言う事で民族衣装を用意する。
 諸君はそれを着て、国王の傍から離れないようにするのだ』
「解りました」
健はジョーの危険の事を話さなかった。
ブラッサム国の民族衣装は、顔が隠れている。
出ているのは眼だけだ。
頭にもダーバンを被る。
そう簡単には同一人物だとは見破られまいと健は思ったのだ。

5人はアラビアの民族衣装に似た衣装に身を包んだ。
ジュンなどはとてもセクシーである。
全員顔をダーバンで覆い、眼だけが露出していた。
男性陣はマントのような物を付けている。
「何だか踊りの衣装みたいね。恥ずかしいわ」
「良く似合ってるぜ、ジュン」
ジョーは本気で褒めた。
「男の子達はいいわね。大人しめで。
 これじゃ、目立ってしまうわ」
「まあ、ジュン、そう腐るな。ジョーが本気で褒めるなんて珍しい事だぜ」
健が言った。
「さて、国王に挨拶しておこう。
 隣の控え室に詰める事になるからな」
健は全員を引き連れて、南部博士の元に行った。
博士が彼らを引率して、国王の部屋をノックする。
本物の側近が警戒して、ドアを開けた。
「国際科学技術庁の南部です。
 国王を護衛する者達をお連れしました。
 続きの間に待機させますから、何かあったらすぐに知らせてやって下さい」
「ほお、我が国の民族衣装が良く似合っている。
 おお、貴方がさっき私を守ってくれた人ですな」
国王はジョーに握手を求めた。
(やっぱり眼つきで解っちまうか…)
ジョーは内心苦笑した。
特徴のあるブルーグレイの瞳に三白眼。
仕方がないとも言える。
この民族衣装は眼ばかりを強調するから、却って目立ったのだ。
「貴方の腕を信頼しています」
国王が言った。
「此処にいる全員が彼と同様の活躍をしてくれます。
 国王は安心してお休み下さい」
博士がそう言って、5人に「頼んだぞ」と告げて去って行った。
博士は博覧会の方にも顔を出さねばならず、忙しいのである。
「博士の護衛は大丈夫だろうか?」
健が言った。
「俺が行こう。普段の姿になって、客を装って付かず離れずに付いている」
「解った、そうしてくれ。
 夜になったらこっちに合流だ」
「ラジャー」
ジョーは返事をし、国王に一礼してから出て行った。

南部博士は平服で追って来たジョーに驚いたが、「博士の護衛も必要ですから」と言われて、納得した。
「今回の狙いは博覧会を潰す事にもあるように思えるんです」
「国王を暗殺して石油を求め、博覧会を混乱に陥れて一石二鳥を狙おうと言うのか?」
「その通りです。国王暗殺は実際には危ない処で寸止めされるでしょう。
 狙いは石油であり、国王の生命は体の良い『人質』です」
「ううむ。ジョーの言う事も解らんでもない」
「根拠がないと仰るんでしょ。
 それは確かにその通りです。
 ただの勘ですから」
ジョーは頷いた。
博士が博覧会の会場に入って間もなくの事だった。
カッツェの紫色の仮面が、メインスクリーンへと映し出された。
「これから楽しい博覧会の始まりだ。
 『海洋浄化計画博覧会』ではなく、名づけて『海洋汚染博覧会』だ!」
黄色い笑い声が会場に響いた。
「健、博覧会の会場にカッツェが映像で現われたぜ」
『何だって!?』
「『海洋汚染博覧会』を開催するらしい。
 どんな手で出て来るのか解らねぇぜ」
『ジョーの勘が当たったか…。
 俺もすぐに行くから待っていろ』
「頼むぜ。何が起こるか解らねぇからな」
ジョーは通信を切って、これから起こる事をただ見守るしかなかった。




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