『海洋汚染博覧会(4)』

健とジョーは、ジュン達と合流し、国王を無事にブラッサム国へと護送した。
国王の護衛にジュン達3人が残り、健とジョーは探りを入れる事になった。
ジョーは国王に執事として就いている男を怪しいと睨んでいた。
「国王には一番近い位置にいる側近だ。
 さっきの会場にもいた。
 あいつならば、陰で何かを企む事も出来る」
ジョーは健に言った。
「確かにそうだが、まだ1人に絞るのは危険だろう」
健の答えも尤もである。
ジョーは頷いた。
「解ってるよ。だが、あいつの油断のない眼つき、怪しいぜ。
 俺達の事を科学忍者隊だと疑っているかもしれねぇぜ」
「それはあるな。彼の前でジョーやジュン達が活躍してしまった訳だからな」
「丁度5人だしな。
 とにかく奴には気をつけて掛かった方がいいぜ。
 ジュンにはそれとなく告げてある。
 俺はこの国の石油流出事故でさえ、ギャラクターの陰謀だと考えている。
 石油を奪う為に、あの手この手で国家を脅しているんだ。
 あの国王の執事が一枚噛んでいて、裏で指揮を執っている可能性は否定出来ねぇ。
 それに、博覧会を開く事を国王に進言したのもあいつかもしれねぇ」
「ジョー、全てはまだ可能性だ。
 俺達は他に怪しい奴がいないか炙り出そう」
ブラッサム国はまだ朝だった。
2人は夜まで掛けて余念なく裏を調べ上げたが、結局は怪しい人物は浮かんで来なかった。
消去法で、ジョーが疑った執事が浮上したのである。
「こうなるとジョーの意見に信憑性が出て来るな。
 確かに怪しい動きをしていると言う噂を聴いた」
健が言った。
「俺はそれとなく奴を当たっていたが、謎の行動を取るんだ。
 時々1人になって、何かをしている。
 どこかに通信して指令を出しているのかもしれねぇ」
ジョーが顎に手を当てて言った。
「とにかく奴が怪しいのは、間違いねぇ」
「どうやってアプローチして行くかだな。
 尻尾を出すのを待つか…」
「いや、こっちから動いて尻尾を出させてやるのがいいだろうよ。
 俺は奴がベルク・カッツェの変装だと言う気がしてならねぇ」
「だとしたら本物の執事は?」
「とっくにあの世行きか、運が良くてもどこかに捕らえられているか、だな」
ジョーは事も無げに言ったが、ギャラクターのやり口はいつもそうだった。
「まずは本物の執事を探そうぜ。
 この宮殿には地下室があるだろう。
 一番怪しいのはそこだと思うな」
「俺もそう思う。夜が更けたら行ってみよう」
健も頷いた。

その頃、ジュン達は少し退屈そうに民族衣装を纏いながら、国王の部屋の前室に待機していた。
執事の妙な動きが気になっていた。
彼らの様子を気にしているようだった。
「これは、ジョーの勘が当たっているのかもしれんのう…」
「竜、迂闊な事は言わない方がいいわ」
ジュンが含み声で言った。
「盗聴器があるかも?」
竜はそれを聴いて大きな両手で口を塞いだ。
「何も喋らないのはおかしいから、適当に当たり障りのない事を話すのよ」
「ラジャー」
「ジョーに連絡を取りたいけれど、仕方がないわね。
 もしかしたら監視カメラもあるかもしれないわ」
「お姉ちゃん、きっとあれがそうだよ」
甚平は指を差さずに、天井のシャンデリアを眼で示した。
賢い子だ。
「そうね。間違いないわ」
ジュンは含み声で話をするのをやめて、「ギャラクターは出て来るかしら?」と言った。
「出て来るよ、きっと」
「そうだのう。さっきも博覧会の待機室で出たしのう」
彼らは何にも気づいていない風をカモフラージュする事も忘れなかった。
健とジョーが民族衣装に着替えて戻って来た。
「どうだった?」
ジュンが含み声で話し掛けたので、2人は盗聴器とカメラの存在にすぐ気づいた。
「ああ〜腹が減ったなぁ!外には怪しい形跡はなかったぜ」
と健が大きな声で言ってから、含み声で「ジョーの見方が当たっているようだ」と言った。
「やっぱりね…。どうもおかしいのよ」
「おいら達を気にしている感じ」
「科学忍者隊だと疑って掛かっているかもしれんのう」
「襲って来るとしたら今夜辺りだぜ」
ジョーは大きな声で言い、「地下牢で執事の遺体を発見した」と含み声で言った。
「まあ!」
「死後2ヶ月以上は経っている。
 つまりあれはカッツェの変装だって事さ」
ジョーが言った時に部屋の外から執事の声がした。
「お食事の用意が出来ました。
 国王が是非ご一緒にと仰っておられます」
「有難う。すぐに行きます」
健は答えておいてから、全員に「絶対に食事を口にするな」と言った。
「毒が盛られている可能性がある」
「解ってるぜ」
「ああ、おら腹減ったぞい」
「おいらも」
「馬鹿ねぇ。死にたいのなら食べなさい」
「国王も止めなければならない。いいな、ジョー」
「ああ。俺は気に入られているらしいから、やってみよう」
そうして5人は前室を出た。

国王主催の食事会は豪勢なものだった。
国王が長いテーブルの端に着き、執事が国王から見て左側、ジョーが右側に席を与えられた。
執事が食前酒を準備する為に立ち上がった瞬間にジョーは国王にそっと声を掛けた。
「これから出されるもの、全てを口にしては行けません。
 毒が盛られている可能性があります」
国王は答える暇がなかったので、黙って頷いたが、動揺している様子だった。
1日に3度も殺され掛けるのか?
国王が恐れるのも無理はなかった。
食事が始まったが、執事以外誰も口にしようとしない。
「皆さん、私が食べているのです。用心する必要はありませんよ」
「いや、ある。あんたのだけは毒入りじゃない」
ジョーが低い声で言った。
「何ですと?暴言を吐くと、いくら南部博士が着けてくれた護衛でもただではおかんぞ」
「残念だったな、ベルク・カッツェ。
 地下牢から執事の遺体が出たぜ」
健が椅子の上に立ち上がって言った。
「何と!」
国王が蒼褪めた。
健は食事を全部ひっくり返した。
床のカーペットの色がシューシューと音を立てながら変わって行く。
「これでも毒性がないと言えるのか?」
「くそう。貴様らは科学忍者隊か!?」
「残念乍らそうではない。
 日頃は南部博士の護衛をしている者だ。
 科学忍者隊は『海洋汚染博覧会』の方に対処している筈だ」
「残念だったな。先程私の指示で、新たな汚染物質を海洋科学研究所の近くの海へ放出した処だ。
 『海洋汚染博覧会』はまだ本番ではなかったのだ!
 ハハハハハハ!
 科学忍者隊め、吠え面を掻くが良い!」
急にカッツェの声に変わり、紫のマントが翻った。
カッツェはそのまま身を翻して、窓を割って逃走した。
「ジョー!」
健が走り出し、ジョーも健に続いて窓から飛び降りた。
どこへ逃げたのか、カッツェの姿はどこにもなかった。
「国王、すみません。取り押さえられませんでした」
健が謝罪すると、国王は
「いや、あなた方のお陰で生命を救われた。
 礼を言うのは私の方じゃ」
と言った。
「執事は手厚く葬る事にしよう。
 それより、君達の食事をもう1度作らせる事にするから、待っていて下さい」
国王は生命の恩人の健達を丁重に扱った。




inserted by FC2 system