『海洋汚染博覧会(5)』

健が1人席を外し、南部博士にこれまでの事情を報告した。
『今、こちらでも現状を確認した処だ。全く酷いものだ』
「カッツェが執事に化けてこの国に乗り込んでいた事が解った以上、最初の原油流出事故からり、ギャラクターが1枚噛んでいた可能性があります」
『その通りだ。諸君は原油流出事故の現場に行き、探ってみてくれたまえ。
 ギャラクターの基地があるかもしれん』
「ラジャー」
こうして夕食後、夜半過ぎに彼らは動き出す事になった。
甚平などは眠たそうな顔をしていたが、ジョーに「シャキっとしろ!」と拳を落とされていた。
国王の護衛には、ジュンと竜が残った。
多分もう襲っては来ないだろう、と思われたが、念には念を、と言うのが博士の指示だった。
戦力が減るのは仕方がない。
健、ジョー、甚平の3人はバードスタイルになって、石油タンクのある地域へとヒラリとやって来た。
「基地があるとすれば地下だろうな」
健が言った。
「ああ、手分けして入口を探そうぜ」
「そうしよう。甚平、ジュンがいないが大丈夫だな?」
「あったぼうよ〜。この燕の甚平様を舐めちゃ行けませんぜ」
「調子に乗るな」
ジョーはまた軽く拳を降らせた。
「よし、何かあったら報告してくれ」
「ラジャー」
3人は3方向に分かれた。
ジョーは石油コンビナートの事務所を当たった。
今も事務所には数人寝泊りしている。
しかし、その職員もギャラクターかもしれない。
ジョーはエアガンで催眠ガスを撃ち込んだ。
そして、自分は息を止めたまま、事務所へと入り込んだ。
事務所は3階建ての建物だったが、エレベーターが付いていた。
普通3階程度の建物には階段しか付いていない事が多い。
「怪しいぜ…」
ジョーはエレベーターのボタンを押した。
案の定、地下へ行くボタンがあった。
「健、事務所が怪しいぜ。
 今、乗り込んでみるから何かあったら連絡する」
『解った。俺と甚平もそちらへ行く』
健からの応答があった。
ジョーはエレベーターが停まるのを待った。
随分長く動いている。
やはり此処が基地なのか?
可能性は高そうだ。
やがて、少し衝撃があってエレベーターが停まった。
ドアが開くが、ジョーはその陰に隠れて、様子を見る。
ギャラクターの隊員が歩いているのが見えた。
「健、当たりだぜ。エレベーターで降りて来い」
ジョーはエレベーターの1階のボタンを押して、自分は外に出た。
エレベーターが背中の後ろで閉まった。
その音を聞きつけて、先程の隊員が振り返った。
仲間だと思ったのだろう。
「か…科学忍者隊!」
と叫んで、マシンガンを構えた。
「新入りか。腰が引けてるぜ」
ジョーはニヤリと笑った。
だが、この隊員の叫び声で仲間達がすぐに集まって来る事だろう。
ジョーは手刀を首に落とし、簡単にこの男を黙らせたが、案の定仲間の隊員達がやって来た。
敵兵はいきなりマシンガンを乱射する。
ジョーはそれを華麗に避けながら、武器で応酬して行く。
羽根手裏剣が舞った。
その先で敵兵がバタバタとマシンガンを取り落とし、暴発したマシンガンに当たった者もいる。
自業自得だ、とジョーは思った。
次の瞬間には彼の身体が鳥のように舞い上がり、敵兵の上に降りて行く。
重いキックが敵を襲った。
長い脚から繰り出される膝蹴り。
長い腕が振りかぶって襲い掛かる重いパンチ。
敵兵には大きなダメージが与えられた。
ジョーは回転して、敵兵を薙ぎ払い、エアガンの銃把で打ちのめして行く。
エアガンはそう言った使い方も出来るのだ。
臨機応変。
彼の闘い振りには眼を瞠るものがある。
羽根手裏剣の切っ先を利用して、敵兵の中に飛び込んでマスクを破って回る。
鼻血を出している者、顔から血を流している者、様々だったが、衝撃を受けて倒れて行く。
そして、エアガンの三日月型キットで、敵の顎を打ち砕く。
ジョーは事も無げにやっている事だが、これだけの事をやれと言われても、プロのアスリートでも出来はしまい。
科学忍者隊だからこそ、このような闘い振りを発揮出来るのだ。
健と甚平が合流して来た。
一気呵成に敵兵をやっつける。
「奥に行くぜ」
ジョーが言った。
エレベーターの前の通路から、広い広場のような場所に出た。
何やらコンピューター類がガタガタと動いていた。
「こいつで何か細工をして原油流出事故を起こさせたな」
ジョーが呟いた。
「よし、これを爆破しておこう。
 この基地はその位でいいだろう」
「健、カッツェがいるかもしれないぜ」
「いや、恐らくは既に国外にいる。
 此処は原油を流出させる為だけの基地だ」
「じゃあ、此処を破壊しただけじゃ、問題解決にはならねぇじゃねぇか」
「まあ、そう言う事だ」
健はブーツの踵から時限爆弾を取り出した。
「ギャラクターは新たな海洋汚染を始めた。
 まだブラッサム国を脅している可能性はあるぞ。
 国王もまた襲われるかもしれねぇ」
「振り出しに戻ったな。さあ、とにかく脱出しよう」
3人は基地から脱出した。
コンピュータールームだけが爆発するように、健は火薬を調整していた。
石油コンビナートまで爆破してしまえば、大変な事になるからである。
「こんな石油コンビナートはこの国にはねぇ方が良かったのかもしれねぇな…」
ジョーが呟いた。

南部博士に事実を説明して、取り敢えず国王の宮殿に戻った。
国王は既に休んでいる。
前室で5人が揃った。
もう民族衣装を着る必要は無くなったので、彼らは平服姿になっていた。
「何か起こらなかったか?」
健は国王を起こさないように含み声で話した。
「何もなかったわ。不気味な位…」
「脅されているのは国家の首脳なのか、国王自身なのか、まだその辺が掴めていない。
 この国は王政を敷いているが、首相もいると聴いている。
 明日、首相に逢ってみる事にしよう」
「俺達なんかに逢ってくれるかね?」
「それは南部博士に手配して貰おう。
 ISOの職員として逢いに行くんだ」
「OK。俺達も交替で仮眠を取ろうぜ。甚平が眠そうだ」
ジョーはもう船を漕いでいる甚平をソファーに運んでやり、毛布を掛けてやった。
「ジュンと竜も寝てくれ。
 此処は俺とジョーで見ている」
「貴方達だって、疲れているでしょうに。
 私達は待機していただけよ」
「大丈夫だ。なぁ、ジョー」
「ああ、俺は大丈夫だぜ。早く寝ろよ」
「2時間交替だ。時間になったら起こす」
もう夜中の3時になっていた。
交替で2時間ずつ仮眠を取っても、7時になってしまう。
ジョーは失礼を承知で、国王の部屋のドアをそっと開けて、中の様子を見た。
「ん?」
ジョーはバッとドアを開けて、国王の部屋に飛び込んだ。
ベッドは人型に盛り上がってはいたが、どうも直感的に異常を感じたのだ。
窓が開いていて、カーテンが風に揺れていた。
掛け布団を剥いでみる。
「やっぱりだ…」
ジョーは唇を噛み締めた。
「国王は誘拐されたんだ」
そこに残っていたのは、クッションの類いだったのである。
ジュンと竜が蒼くなった。
「物音には気付かなかったわ。人の声にも……」
「国王自身が顔を出して『私は休ませて貰うよ』と言ったんじゃわ」
「それは何時頃だ!?」
健が厳しい顔をした。
「11時半頃じゃったわ。なあ、ジュン」
「ええ。間違いないわ」
「大変な事になったな…」
ジョーは健と顔を見合わせた。




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