『クリスマスプレゼント』

クリスマスと言うものは、どの家の子供にも平等にやって来るものではなかった。
裕福な家の子と貧乏な家の子では、待遇が違った。
南部博士に引き取られて、裕福な生活をしていたジョーだったが、南部博士はクリスマスには本ばかりくれた。
自分が幼い頃はそうだったのだろう。
健も同居するようになり、ジョーは何かと健と不満を言っていたものだ。
子供にとってはおもちゃの方が良かった。
今の甚平位の歳にはなっていたが、まだやんちゃな2人。
「同じ本なら車の本がいいのになぁ」
とジョーは毎年ぼやいていた。
「僕なら飛行機の本だな」
健もそう呟いた。
「坊や達、いらっしゃい」
優しい声が聴こえた。
振り向くとテレサ婆さんが立っていた。
73歳当時の彼女は腰も曲がってはいなかった。
テレサは自分の給金の中から、プレゼントを用意していた。
クリスマスらしい包装紙に包まれたプレゼントが2人に平等に渡された。
ジョーを孫のように可愛がっていたが、健が来てからは分け隔てなく接して来た。
テレサには痛い出費だっただろうに、と今のジョーならば思える。
2人へのプレゼントは、欣喜雀躍とした小さな手で開かれた。
ジョーにはレーシングカーのプラモデル、健には飛行機のプラモデルが入っていた。
テレサ婆さんは、出来上がった模型が入っている物と思って買ったらしい。
「あらあら…これは…」
と落胆した。
しかし、子供達は大喜びだ。
「どっちが上手く作れるか競争しようぜ」
ジョーが弾けた声を挙げた。
それを見て安堵するテレサを物陰から博士が見ていた。
自分のプレゼントよりもテレサのプレゼントの方が子供達には喜ばしいのか、と改めて気付いたのである。
なぜそうなのか、を突き詰めて考える南部博士は、やはり原因は『本』にあると思った。
自分は本の虫だったが、この子達にはちょっと難し過ぎたのかもしれない。
そう反省する南部博士であった。
「テレサ婆さん、有難う!」
弾んだ声を揃えて2人はテレサに礼を言った。
「いいのよ。私には孫がいないから、貴方達にプレゼントを上げたかったのよ。
 出来た物が出て来るのかと思ったのに、違ってごめんなさいね」
「いいや、これを作るのが楽しいんだよな、健」
「そうだよ、テレサ婆さん」
2人がキャッキャキャッキャと喜んでいる姿を見て、テレサは涙を拭った。
南部は(またテレサに助けられたな…)と思いながら、その場を後にした。
手先が器用な2人は、年内にプラモデルを完成させていた。
せっかちなジョーは一晩掛けてそれを作った。
慎重な健は1ミリの狂いもないように時間を掛けた。
此処にも性格の違いが出ている、と南部は思った。
しかし、ジョーのプラモデルもしっかりときちんと作られていたから感心する。
「このマシン、走るんだぜ!」
ジョーは床に蒼いレーシングカーを走らせた。
「僕のプラモデルは飛ばないよ」
「それは難しいだろうな」
意気消沈とした健に、ジョーは「ちょっと貸せよ」と言った。
「やだよ」
「こうやって遊べばいいじゃないか」
仕方がないので、飛行機を手で持って飛ばすポーズをした。
「そうか」
健は子供らしい笑顔を見せた。

「そんな事もあったなぁ……」
『スナック・ジュン』で懐かしむ2人。
テレサは南部博士の別荘の仕事を辞める事になっていた。
「本当にテレサ婆さんには良くして貰ったぜ」
ジョーが述懐した。
「あの頃は俺達、手の付けられないやんちゃ坊主だっただろうにな」
健も呟いた。
「テレサ婆さんは来年になったら仕事を辞めてしまう。
 俺達でしっかり送り出してやろうぜ。なあ、健…」
「ああ、勿論だ」
「あの暖かい手を俺は忘れねぇぜ」
「俺だって……」
「どうか長生きして欲しいものだな」
「そうだな。俺達に子供が出来る位まで元気でいて欲しいな」
「それはそうと、今日はクリスマスだ。
 俺達でテレサ婆さんに何かプレゼントをしねぇか?」
「……持ち合わせがないんだが……」
「金を掛けるだけが能じゃねぇ」
ジョーには何か考えがあるようだった。
子供達がいなくなった別荘では、もうクリスマスパーティーはしない。
テレサもそれ程忙しくはない筈だ。
ジョーは博士に言って、テレサを借りる事にした。
「遅れた仕事は俺が手伝いますから」
「好きにしなさい。テレサもたまには外出させて上げた方がいい。
 もう歳で買物以外には出ないからな」
「有難うございます」
ジョーはテレサを借り出して、G−2号機に載せた。
「あらあら、ジョーさん。どこに行くのです?
 私には仕事が……」
「厨房の事なら心配要りませんよ。
 南部博士に断ってありますから。
 後で俺が手伝います」
ジョーは優しくエスコートして、テレサ婆さんをナビゲートシートに載せた。
健はバイクで後ろを着いて来る事になっている。
ジョーはG−2号機を海辺へと走らせた。
丁度夕暮れ時に差し掛かっていた。
健にはジョーの目的が読めた。
「夕焼けを見せようって言うんだな……」
「さあ、降りて下さい。足元に気をつけて」
ジョーは労わるようにテレサを誘(いざな)った。
そこに持ち運びが出来る折り畳み椅子を置いて、テレサをそっと座らせた。
「Merry Christmas!此処は一番の特等席ですよ。
 俺と健がご招待しました。今までのお礼にね」
「まあ、何よりものプレゼントですよ。有難う…」
テレサは涙を零した。
ジョーが白いハンカチをさっと差し出した。
「泣いていては折角のパノラマショーが見られませんよ」
健は(流石はイタリア人!)と感心していた。
女性のエスコートが上手い。
健には真似の出来ない事だ。
「ジョーさん、健さん、有難う…」
テレサはそう言って、美しい空のパノラマを胸に焼き付けるのだった。
此処はジョーとの思い出の場所。
テレサにとっては、こんなに嬉しい事はなかった。




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