『世界で3人(2)』

王子は迷彩服を着ていたので、ジョーはホッとしていた。
さすがにあのピラピラとした衣装では闘えまい。
「私は影武者などいらぬ。自分と言う武器がある。
 アルベニア王国のシルベスタと言えば、知る人ぞ知る豪胆な王子だぞ」
ジョーはこれにはたまげた。
決してあの剣は飾りではなく、優しげな瞳に似合わず、闘いには秀でていると言うのか?
「その優しげな眼に騙されていたが、結構な遣り手王子だったんだな…」
ジョーが呟いた。
「ジョー!」
言い過ぎだ、と健が止めた。
「そなた、名は?」
「ジョー」
「気に入った。私に似ているのは気に入らないが、その眼はなかなかの武闘派と見た。
 だが、そなたに私の身代わりになって貰う気はない。
 私は私だ。自分自身として闘う」
「そう言うと思っていた。健、どうする?」
健は腕を組んで考え込んだ。
「南部博士に相談してみよう」
プレスレットで仔細を報告する。
『そうか。王子の御意向であれば、仕方あるまい。
 上手く護衛してくれたまえ。
 ギャラクターはいつ襲って来るか解らないぞ』
「ラジャー」
「取り敢えず俺もその迷彩服を着た方がいいな。
 身代わりになるのではなく、敵を混乱させる為に」
ジョーが言った。
「それはいい。是非そうして下さい」
側近のリーダーを務める男がそう言って、アジトへと案内してくれた。
「こんな粗末な場所に…」
つい健が口走ってしまったような、古びた公民館に王子の軍の主要人物達が集まっていた。
全員がジョーの顔を見て驚いた。
「こんなに王子にそっくりな人間がいるとは…。
 これは王子の振りをして貰うのに丁度いい」
そう言ったさざめきが起きたが、王子が一喝した。
「その話なら済んでおる。私は身代わりなど欲しない」
ジョーに迷彩服が宛てがわれた。
Tシャツとジーンズの上からそれを着込み、丁度王子と同じぐらいの背格好になった。
王子の方が背は5cm程低かった。
背の高さで見分けが付くが、2人並んでいないと、なかなか区別が付きにくい。
それ程2人は似ていた。
良く見れば眼つきが柔らかいのが王子で、キツいのがジョーだ。
王子は三白眼ではなかった。
瞳の色は綺麗なスカイブルー。
ブルーグレイのジョーとは若干違っている。
「これで敵が混乱する事は間違いないな」
仲間内で集まった時に健が言った。
「でも、王子にどこかに隠れていて貰わなければ、俺が来た意味はねぇ」
「仕方がないだろう。王子様は自分は自分と言われるような豪胆な方だ。
 こうなったら2人入り乱れて、混乱に陥れるしか手はあるまい」
「解っている。上手くやるさ。
 いざとなったら、王子の盾となるぐれぇの事は覚悟しているさ」
「ジョー!」
「でなければ護衛の意味があるめぇよ」
「バードスタイルには今更なれないしな」
「変身するタイミングを見計らうしかねぇ。
 今はこの姿に身を窶しているしかねぇさ」
まだ街は午前中だった。
「俺達は街をパトロールして来るから、ジョーは此処に残ってくれ」
「解った。この面で街には出られねぇからな。仕方がねぇ」
ジョーはそう言って、王子のいる方に踵を返した。

「そなたは科学忍者隊なのか?
 私の部下は科学忍者隊を呼んだと言っている」
王子がジョーにそっくりな声でヒソヒソと話し掛けて来た。
「いや、残念乍ら違う。科学忍者隊は世界各国で忙しくしている。
 いざとなったら此処にも現われる筈だ」
「ふむ。どうもその洗練された身のこなし、怪しい感じがするが、まあ良い。
 相当な遣い手と見たが、そうなのであろう?」
「お見立て通りかどうかは、今に解りますよ」
ジョーは自分と話しているような錯覚には陥らずに済んだ。
王子の言葉遣いが、王家の人間らしかったからである。
彼のべらんめえ口調とは余りにも違い過ぎた。
「ギャラクターは私の父をなぜ言いくるめられたのか。
 そこが気になっておる。
 そなた、探ってはくれないか?」
「どうやって?俺は貴方の護衛として此処に残っているのです。
 此処を離れる訳には行きませんよ」
「護衛などいらぬ」
「そうは行きません。これは俺の任務です」
「父に逢って来て欲しいのだ。その姿で。
 身代わりは嫌だ、と言ったが、この際仕方があるまい」
「成る程。仲間達が帰って来たら考えましょう。
 でも王子。貴方のその口調までは真似られませんよ」
「良い。父もおかしいのだ。気づきはしまい」
「おかしいと言うと?」
「まるで別人にでもなったかのようだ。
 物忘れも酷くなった。
 だからこそ、ギャラクターに取り憑かれたに違いないのだ」
「別人……?」
ジョーは顎に手を当てた。
「それですよ、王子!」
「何だと言うのだ」
「国王は別の所におられるか、或いは……」
「……死んでいるとでも申すのか」
「言いにくいのですが、その可能性も……。
 ギャラクターのやり口です。
 恐らくは国王には、ギャラクターの首領、ベルク・カッツェが変装している事でしょう」
「何と!」
王子はそれでも気をしっかりと持っていた。
側近を呼んで、今の話を伝える。
「まさか…。そんな事が……」
と衝撃を受ける側近達。
「しかし、そう思えば全て説明が付く」
王子はそう言った。
「このジョーはギャラクターの手口を知り尽くしているぞ。
 彼の言っている事には一目おかねばなるまい。
 父上が生きていると良いのだが……」
王子は初めて涙を零した。
ジョーは見て見ぬ振りをしてやる事にした。

そこに健達が空振りで戻って来た。
「今の処、おかしな様子はないようだ。
 今朝闘いが勃発したばかりだからな」
健が言った。
ジョーは今までの話を話してやる。
「ベルク・カッツェが変装している可能性は高いな…」
健も納得したようだった。
「それで、ジョー。国王に逢いに行くつもりなのか?」
「逢いに行くしかあるめぇよ。
 あんなに俺の影武者を嫌がっていた王子がそう言うんだからよ」
「危険だわ」
ジュンが言った。
「危険は百も承知さ。
 だが、相手がベルク・カッツェとなれば行かねばなるめぇ」
「解った。俺達も迷彩服を着て、側近として一緒に行こう」
健がそう決めた。
「但し、ジュンと甚平は此処に残る事。
 側近に女子供がいたらおかしいからな。
 俺達がいない間、王子様をしっかり守ってくれ」
「ラジャー」
「ようし、行くぜ」
「待った!おらに合う迷彩服がないぞい…」
竜があたふたしていた。
「仕方がない。竜も残れ。此処は俺とジョーで行く」
そう言う事で、2人で王宮へと出掛ける事になった。
側近のリーダーが案内してくれる。
1人本物がいれば安心だ。
これから何が待ち受けているのか解らない。
いざとなったら変身する必要があるかもしれないが、側近が傍にいるので、注意しなければならなかった。




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