『世界で3人(4)』

ジョーは暗闇の中で、迷彩服を脱ぎ捨てて平服姿に戻り、「バード・ゴー!」と変身を果たした。
彼は夜目が利くように訓練している。
ほんの微かな光を頼りに、そちらへと向かう事にした。
国王達にはこの微かな光も感じ取れなかったに違いない。
気の毒な事をした、と思う。
自分の父親に国王の姿を重ね、ジョーは苦しい胸の内を怒りへと変えていた。
王子の分まで、自分がカッツェを苦しめてやる。
仇を取ってやる、と決意していた。
カッツェの汚いやり口は解っていたが、許せる筈もなかった。
苦い思い出が甦る。
8歳の頃、BC島の海岸……。
いつも夢に見て苦しむ光景。
「パパー!ママー!」
ジョーは唇を切れる程に噛み締めた。
両親を殺された上に、自分も瀕死の重傷を負わされたのだ。
あの時、南部博士に助けられなければ、今の自分はない。
復讐をする為に生まれ変わったのだ、と自分では思っている。
あの王子も復讐の鬼と化すだろうか。
本来は闘いを好まない温厚な王子。
身体は父と共に鍛えていたが、それは本当は闘う為ではなかった筈だ。
王家の者として、身体を鍛え、戦闘能力を上げる事は、国王の教示だったのだろう。
その王子を反乱軍を率いて闘わせる羽目になったこの運命と、これからの王子の事を思うと、ジョーは気の毒でならなかった。
自分と同じにならなければいいが…。
そう危惧もしていた。
シルベスタ王子にはこの後、この国を纏めて貰わなければならない。
復讐の鬼になるのは、自分だけで充分だ。
ジョーの怒りのベクトルはただただベルク・カッツェに向いていた。
暗い通路は延々と続いていた。
そこを自分の足音の反響を頼りに走る。
一般の者には簡単には脱出出来ないようになっているようだ。
ジョーのようにこんな場所を走って移動出来るような人間は居まい。
あそこに落とされては、その場で朽ちて行くしかない。
今頃カッツェは王子も闇に葬り去ったとワインでも飲んでいる頃だろうか。
本当に今回の事件はいけ好かない。
最初からの嫌な予感は当たっていた。
随分長い時間走った。
普段よりも遅い移動スピードだったが、これでは郊外に出てしまうのではないか、と思われた。
そんな時になって、明かりの糸が広がって来た。
「何かある……」
ジョーはブレスレットに向かって、状況を説明した。
『ジョー、バードスクランブルを発信しろ。俺達もすぐに行く』
健の答えがすぐに帰って来たが、ジョーは「王子の護衛を誰か残してくれ」と言った。
「奈落の底に落ちて、放っておいても死ぬと思われていると思うが、念の為に、な。
 王子が自分から行動を起こしたりしない為にも……」
ジョーは眼を伏せた。
「俺のような思いはさせたくねぇ」
『解った。竜を残しておく』
「頼むぜ」
ジョーは通信を切った。
もっと基地へと近づいてからバードスクランブルを発信しようと思った。
間違いない。
此処はギャラクターの前線基地だった。
多分、この通路を伝って、国王と執事の死を確認しに来た事だろう。
飢えて朽ちるまで待った上で……。
(酷ぇ事をしやがる……)
ジョーはまた唇を噛んだ。
国王は鍛えていた。
恐らく執事よりも長くその生命を保った事だろう。
何も出来ない愚かしさを感じながら、悔しい思いで果てて行ったに違いない。
そう思うと、ジョーまで悔しくなって来る。
自分の父親にそっくりだった事も手伝ってか、感情移入をしてしまう。
王子よりも眼力がある国王だった。
ジョーは基地へと足を踏み入れた。
そこから通路が鉄製へと変わっている。
ギャラクターの隊員服が見えた。
警護に当たっているのだろう。
ジョーがとんとんと肩を叩くと、「交替か?」と言って振り向いて、驚いた。
「何で科学忍者隊が此処に?!」
「どうしてかな?」
ジョーは答えている間にその隊員を静かに倒していた。
もう1人の警護隊員も一瞬にして片付け、彼は前へと進んだ。
(たった2人とは手薄もいい処だ。
 尤もこんな場所から俺が現われるとは予想だにしなかったに違いねぇ)
通路はやがて広い部屋へと繋がった。
そこでジョーは初めてバードスクランブルを発信した。

敵兵がジョーの闖入に気づいた。
「科学忍者隊が1人紛れ込んだぞ!」
見る見る内に敵兵の数が増えた。
ジョーにとっては、望む処だった。
マシンガンの咆哮に、マントで防いで置きながら、羽根手裏剣を繰り出す。
狙い違わず敵兵の手の甲に当たって行く。
マシンガンを取り落とし、打ち震える敵兵に、落ちたマシンガンの暴発が襲い掛かる。
ジョーは構わずに敵兵を乗り越えて、先へと進んで行く。
長い脚で回転しながら、敵兵を総ざらいし、エアガンの三日月型キットで敵の顎を砕いて行く。
綺麗に並んでいてくれるから、ヒットし易い。
ジョーは側転して奇抜な場所に現われ、驚く敵兵の鳩尾に重いパンチを浴びせた。
次の狙いは既に定めている。
その相手には見事な膝蹴りを喰らわせた。
綺麗に入った。
敵兵はもんどり打って倒れ込んだ。
次の瞬間には羽根手裏剣が多数舞っている。
全身を武器とし、武器を身体の一部とし、その連携プレーが見事な出来だった。
演舞でも見ているかのように、技が綺麗に決まって行く。
それはまるで芸術だ。
見ている方も気持ちがいい。
だが、それを受ける側としては、脅威に他ならなかった。
腰が引けている隊員も見受けられた。
ジョーはそんな者は相手にしなかった。
自分に向かって敵愾心を持ってやって来る者だけを待ち受け、攻めた。
気概のない者は捨て置いても問題はない。
ギャラクター的には問題だろうが、ジョーにとっては相手にするだけ時間が勿体なかった。
それよりも敵を切り拓き、闘い抜く事。
そして、少しでも先へと進む事が彼の悲願なのである。
このアルベニア王国を豊かな国に戻す為に、彼は全てを王子の元に取り戻さなければ、と言う気持ちでいる。
国王の生命は還らないが、せめて財宝を取り返し、王子がそれを国民に分け与える事が出来るように…。
そうする事で、ジョーの気も少しは晴れようと言うものだ。
それ以外に王子にしてやれる事はないだろう。
『ジョー、俺達ももうすぐ到着する。
 だが、問題が発生した。
 王子が抜け出して、俺達を尾けて来てしまったのだ』
「何だって?竜は何をしていたんだ?」
『トイレに行っていた隙だったそうだ』
「何て間の悪い……」
ジョーは闘い乍ら、舌打ちをした。
「じゃあ、王子は今一緒にいるのか?」
『そうだ』
「誰か連れ帰れ」
『いや、王子は不退転の意志を固めておられる。
 俺も説得は諦めた……』
健の声が少し沈んだ。
『ジョーの気持ちは良く解っている。
 だが、此処まで来たら仕方があるまい。
 俺達で王子は守る』
「解った」
ジョーは短く応答を済ませた。
バズーカ砲を担いだ敵のチーフが現われたからである。
まだこの部屋は基地の中の入口に過ぎない。
先が長いのだ。
ジョーは闘いにかまけて、この部屋に長居し過ぎた、と思った。
しかし、やるしかあるまい。
エアガンを手に、黄色い制服を来たチーフに向き直った。




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