『世界で3人(5)』

ジョーはチーフ隊員と対峙した。
バズーカ砲は連射出来ない。
一発を避けてしまえば、こっちのものだ。
ジョーは計算を立てていた。
だからいつもチーフが何人も現われて、バズーカ砲も複数門出て来たのに違いない。
他のチーフ級の連中が隠れている事も予想しなければならなかった。
健達は王子を連れている。
バードスタイルにはなれないから、到着は遅れる事だろう。
ジョーは孤軍奮闘を覚悟していた。
まずは眼の前のチーフを倒す。
それしか考える事は出来ない。
周囲にいた隊員達が巻き添えを恐れて散った。
ジョーは羽根手裏剣を唇に咥え、エアガンを敵に向けた。
眼で威嚇する。
だが、その程度で臆するチーフではなかった。
「ははは。このバズーカ砲にそんなおもちゃでどうやって対抗するつもりなんだ?」
エアガン程度でバズーカ砲に適う筈がないと言っている。
「さあ、果たしてどうかな?」
ジョーの言った事は決してハッタリではない。
これまでもいろいろな形でバズーカ砲と対峙して来た。
それを悉く破って来たからこそ、今、ジョーは此処にいるのだ。
ギャラクターはその事を忘れては行けなかった。
だが、横の連絡が悪いのだ。
そう言った事は知られていないに違いなかった。
ジョーはエアガンをあろう事か天井に向けた。
ある計算が成り立っていた。
バズーカ砲が撃たれる前に、天井のシャンデリアがチーフの頭を襲った。
「残念だったな……」
ジョーは嘲笑するように言った。
だが、油断はならない。
次の敵が現われる可能性があった。
ジョーは待っていたりはしない。
通路に向かって走り始めた。
この場には他のチーフはいなかったようだ。
あっさりと片が着いて良かった。
お陰で先へと進む事が出来た。
敵兵を羽根手裏剣で払い除けておき、ジョーはズンズンと先へ急いだ。
財宝とベルク・カッツェはどこなのだ?
恐らくは財宝を眺めながら、ニマニマと笑っている事だろう。
どうしても鼻を明かしてやりたかった。
アルベニア王国の亡き国王と、自分にそっくりな王子の為にも……。
国民を救うのには王子の力が必要だ。
自分と同じように復讐の鬼にはなって欲しくなかった。
だからジョーは此処に王子を越させたくはなかったのだ。
しかし、自ら来たとなってはもう仕方がない。
健の言うように不退転の決意を固めているのなら、共に闘い、その気が晴れるようにしてやるしかないだろう。
問題はその後だ。
正気に戻って、国を纏めてくれれば良い。
自分は正気ではない。
ジョーはそう思っているのだ。
復讐の為だけに生きて来た己を、ジョーは密かに哀しんでいる部分も持ち合わせていた。
自分を鏡で写したような王子に、自分と同じ行動を取って欲しくはなかったのも、そのせいがあるかもしれない。
彼は常日頃から、自分のような子供を出さない、と言って来た。
健にはその気持ちが良く解っているので、王子の説得も試みた。
だが、王子は自分の意志を曲げなかったのだ。
健の説得に屈しなかった王子は、やがて此処にやって来るだろう。
無事でいてくれればいいが、とジョーは王子の戦闘能力がどの程度なのか解らないだけに、非常に危惧していた。
しかし、敵はそんな暇を与えてはくれなかった。
次から次へとジョーを襲って来る。
華麗な飛び蹴りをお見舞いして、身を低くすると敵の足払いをした。
そこに羽根手裏剣を飛ばし、敵兵の手の甲を貫いて行く。
マシンガンが暴発する。
ジョーはそれを巧みに避けながら、エアガンを尖兵に前へと進んで行く。
いきなり現われた敵にエアガンを発射する。
敵は呻き声も出さずに、崩れ落ちた。
ワイヤーを伸ばして、敵兵を十把一絡げにし、引っ張って首を絞め、柔道で言う『落ち』を体験させた。
死んではいない。
首を絞められた瞬間、一種の陶酔状態に陥って意識を失っただけだ。
ジョーは更に進んで行く。
基地の中枢部と思われる場所に出た。
敵兵の数が眼に見えて増えている。
今度はカラフルなチーフが5人も現われた。
バズーカ砲を持って、一般隊員と違う色の制服を着ている。
赤に水色、黄緑、橙色、焦げ茶色の5人だ。
焦げ茶色が中でもリーダー格のように見えた。
(今度は強敵だぞ……)
ジョーは危機感を覚えた。
その5人が通路に横並びに立っている。
ジョーをそれ以上先には向かわせないと言うギャラクターの意志が感じられた。
恐らくは間違いなく、その先にカッツェがいる。
そして、まだ運び出されていない財宝が眠っているに違いない。
ジョーはもう1度バードスクランブルを発信した。
1人では無理だ。
だが、生身の健達ではどうしたら良いのか?
何かの隙に変身してくれていると良いのだが……。

その頃、王子を交えて闘っていた健達は、闘いの最中に1人ずつ隠れて変身を遂げていた。
王子は1人ずつ消えては現われる科学忍者隊に、彼らの正体に気づいていた。
しかし、その事は言わなかった。
王子なりの配慮だ。
南部博士は最初から科学忍者隊を送り込んでくれていたのだ。
その事に今は感謝するしかない。
王子は腰に付けた剣と左手に持った銃との『二刀流』だった。
右利きなのに、左手で銃を扱う辺り、そんな訓練を積んでいたジョーと重なる部分がある、と健は思った。
そして、闘い慣れている事を知った健は、王子を見守りつつも、安心して闘う事が出来た。
シャンデリアの下で、チーフが鼻血を出して倒れていた。
「この物騒な物は貰っておこう」
と王子が言い、使われていないバズーカ砲を拾った。
その瞬間にジョーのバードスクランブルが入ったのだ。
「ジョーが危険に晒されている。急ごう!」
「ラジャー」
全員がバードスクランブルの発信地点へと向かった。

ジョーの額から冷や汗が流れ落ちた。
さすがにこの狭い通路に5人並ばれては、暴れるに暴れられない。
全てのバズーカ砲がジョーの胸へと照準を定めていた。
後転して避けるより他はない。
バズーカ砲を撃って空砲になった処で返り討ちにするしか、ジョーに出来る事はなかった。
その時、ジョーは自分の脇に部屋がある事に気づいた。
何の為の部屋かは解らないが、ジョーは咄嗟にその部屋のドアに体当たりして、突き破った。
閉じ込められてバズーカ砲の餌食になるかもしれなかったが、唯一の打開策でもあった。
その部屋は機関室だった。
ジョーは咄嗟にペンシル型爆弾を投げつけ、身を伏せた。
爆発が起こり、ドアから爆風が吹き荒れた。
そこに乗り込もうとしていた5人のチーフは、ジョーの計算通り、その爆風に巻き込まれた。
その隙を狙って、ジョーは1人ずつエアガンで仕留めて行った。
赤、黄緑、橙色、水色。
そして、リーダー格の焦げ茶色が残った。
一番後ろから部屋に入ろうとしたので、爆風の影響をモロには受けていなかった。
ジョーは部屋の出入り口を焦げ茶色に塞がれて、ピンチを迎えた。
その時、物凄い爆音が起きた。
通路から来た王子が、戦利品のバズーカ砲で焦げ茶色のチーフを狙い撃ちしたのである。
反動の激しいバズーカ砲を、王子は見事に取り扱った。
「助かったぜ…。物のついでに機関室を爆破した」
出て来たジョーは4人を倒しても涼しい顔をしていた。
「無事で良かった。私が身代わりを頼んだばかりに、悪い事をした」
王子が唇を噛んだ。
「身代わり?何の事です?俺は科学忍者隊G−2号ですよ」
ジョーは正体がバレている事を悟りながらも、空っ惚けた。




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