『世界で3人(6)』

この先にカッツェと財宝がある事は解っている。
王子を連れて行かねばならない。
ジョーはまだ悩んでいた。
この王子に復讐の心を植え付けては行けない。
そんな気がした。
姿ばかりか、心まで自分自身に似て行く王子など見たくはなかった。
元通りの温厚な王子に戻って欲しかった。
国を治める為に相応しい人間として、今後アルベニア王国を束ねて行って貰う為には、本当はこの先には連れて行かぬ方が良いだろう。
ベルク・カッツェの姿など見せない方がいい。
しかし、王子はそれを自ら望んでいる。
健がジョーの肩に手を置いた。
気持ちは解っている…。
しかし、今は先に進まなければならない。
王子を連れて……。
言葉を交わさなくても、ジョーには健の思いが正確に伝わっていた。
「解ったよ、健。行こうじゃねぇか」
「ジョー、辛いだろうが、そうするしかないんだ」
「ああ」
ジョーは短く答えた。
健はジョーの心の奥底まで解っている。
それだけで充分だ。
王子が暴走しそうになったら、健が止めてくれるに違いない、とジョーには確信のようなものが芽生えた。
6人は通路を先へと進み始めた。
自然と王子を守って中央に囲むような形になる。
「私に構う事はない。私も父上から鍛えられた。
 そなた達の足手纏いになるような事はせぬ」
「解っています。王子様。
 それでも、我々は万全を期さなければならないのです」
健が言った。
「さっき、俺を救ってくれた働きは忘れてはいませんよ」
ジョーがさり気なく礼を言った。
王子は彼が、先に乗り込んだジョーだと知っている。
彼の心遣いに感謝した。
最後まで自分を連れて行きたくなかったようだが、そこを譲ってくれたのだ。
「私を連れて行く事が足手纏いになるような事態が起きたら、私を捨て置くのだ。
 科学忍者隊は自由にギャラクターと闘って欲しい。
 決して私を守ろうとしては行けない」
「何を言うのです?王子。
 貴方にはこの国を治めて戴かなきゃならないんですよ。
 俺は貴方の父に化けたベルク・カッツェの姿を見た時にハッとした。
 余りにも俺の父親にそっくりだったからだ。
 貴方には生きて父上の意志を継ぎ、立派にこの国の人々を守って欲しいんだ」
「そこまで思い入れて貰って有難く思う。
 私も生きて還るつもりだ。
 万が一の事を言ったまでで、科学忍者隊の足を引っ張りつもりは毛頭ないから安心するが良い」
その時、ジョーが急に身体を開いて、王子を壁に押し付けた。
敵のマシンガン攻撃だ。
科学忍者隊のメンバーも伏せるなどして避けている。
「来なすったぜ」
「各自、私の事は心配しなくても良い。
 ギャラクターにこの剣の腕を見せてやろうぞ」
王子が腰から剣を取り出した。
ジョーは健と眼を見合わせて、さり気なく王子を見守る事を確認した。
ギャラクターとの乱闘が始まった。
もう此処は司令室の眼の前だ。
早くこの場所を打開して、司令室に突入してしまいたい処だ。
しかし、科学忍者隊は決して焦ったりはしなかった。
ジョーは身を沈めて、敵を一気に足払いした。
そのままバネの利いた身体は伸び上がり、ビュンと音を立てて敵へとパンチを浴びせている。
王子はと言えば、剣を使って堅調に闘っている。
ジョーはそれを眼の端で確認しながら、安心して伸びやかに闘った。
羽根手裏剣を2本飛ばし、バズーカ砲で王子を狙っていたチーフの右手を使い物にならなくした。
その間に取り落とされたバズーカ砲が暴発し、チーフはその巻き添えを喰って倒れ込んだ。
すかさずエアガンを取り出し、敵を撃つ。
次の瞬間にはエアガンは腰に戻っていて、肉弾戦に移っている。
ジョーの闘い方は相変わらず多様である。
ギャラクターは剣で闘う者に慣れていないのか、王子にも戸惑っている様子だ。
ジョーはニヤリと笑った。
王子はなかなかやる…。
戦闘能力に於いては、ギャラクターの平隊員相手なら心配する必要はない、とジョーは思った。
武器が剣だけに、血が辺りに流れるのをジュンなどは眼を逸らすようにしていた。
「ジュン、脚を滑らせないように気をつけろ」
健が注意を喚起した。
「わ…解ってるわ…」
ジュンは動揺を健に見透かされた事を感じ取っていた。
健だけではない。
ジョーもその変化には気づいていた。
「余り気にするな。今はそんな暇はねぇぞ」
「そうね」
ジュンも心を立て直す気になったようだ。
ジョーはそれを感じ取ってまた攻撃に転じた。
エアガンの三日月型キットを使った攻撃。
羽根手裏剣を華麗に舞わせる攻撃。
自らの肉体を最大限に使った、眼を瞠るような動き。
敵のパンチを受ける前に絶妙なタイミングで身を引き、攻撃に転じる間合いの良さに秀でている。
科学忍者隊として当然の事だが、彼は元々その身体能力を有していた。
それを訓練で伸ばして来たのだから、怖いものなどないのだ。
さて、王子は敵のマシンガンの弾雨を縫って剣を遣い、ギャラクターにダメージを与えていた。
ギャラクターの中に剣術遣いがいない事が原因だった。
もう敵兵の腰が引けている。
マシンガンで狙おうとしている隊員を見つけると、健かジョーがさりげなく援護しているので、王子は無傷だった。
ジョーは突然ジャンプをし、天井を蹴った。
そこに敵兵が潜んでいたのだ。
天井と一緒に崩れ落ちて来た敵兵をジョーが重い膝蹴りで伸した。
良く気配を感じ取ったものだと、王子が感心していた。
休む事を知らないジョーは、次の瞬間にはまた羽根手裏剣を自由自在に操っていた。
敵兵が手の甲を破られて、マシンガンを取り落とす。
落ちたマシンガンが暴発する。
いつもの光景だ。
こうして通路の敵は粗方片付いた。
後は遠巻きにしている隊員ばかりである。
健とジョーは頷き合って、司令室への突入を決めた。
司令室のドアはジョーがエアガンのバーナーで焼き切る事になった。
中でも、臨戦態勢に備えている筈だ。
「油断は禁物だぜ」
額に汗しながら、ジョーは呟いた。
鉄製の分厚いドアを丸く切り取るのに時間を要した。
その間は他のメンバー達が敵と闘った。
健はブーメランで、ジュンはヨーヨーで、甚平はアメリカンクラッカーで、竜は自分の怪力で、王子は王家の剣で、それぞれが良く闘ったので、ジョーは穴を空ける事だけに集中する事が出来た。
「よし、空いたぜ!」
ジョーはエアガンを仕舞うと、勢い良く丸く穴の空いた部分を蹴って、一足先に飛び込んだ。
そこに待ち受けていたものがあり、ジョーは一瞬脚を停めた。




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