『世界で3人(7)』

ジョーが見たものは放射能発生装置だった。
「そいつを使って何をしようと言うのだ?」
ジョーは額から冷や汗を流しながら、呟いた。
「勿論、この国を破壊し尽くしてやるのだ。
 この国全体を汚染し尽くす量の放射能がこの装置の中に詰まっている」
ベルク・カッツェの甲高い声が聴こえた。
後から入って来た健達も凍りついた。
どうやってこの装置を止めればいい?
地球上でこんな物を使われて良い場所などどこにもない。
「何て事をしやがる。財宝を奪い尽くして、もうこのアルベニア王国には用がないとなると、こうして切り捨てる。
 だから俺は貴様らが許せねぇんだ」
ジョーの肩が怒りで震えた。
王子は蒼白い顔をしていた。
こんな事になるなんて……。
父親を奪われた上に、この国まで奪われようとしている。
「うぉぉぉぉぉ〜っ!」
王子が叫んで、カッツェに斬り付けようとするのを、ジョーが自分の左腕でその剣先を停めた。
ジョーの二の腕に剣が喰い込んだ。
血がポタリと床に落ちた。
「何をするのだ!?」
「王子。貴方にはこれ以上、手を汚して欲しくねぇんだ」
ジョーは身を挺して王子を停め、そして鳩尾にパンチを入れた。
王子は「うっ」と呻いて崩れ落ちた。
「ジョー。無茶な事を……」
ジュンが蒼い顔で応急手当をした。
「でぇ丈夫さ。大した事ぁねぇ」
ジョーの傷は骨の手前で止まっていた。
まだ闘えると言う確信があった。
「俺が止めるべきだった。判断が一瞬遅くなった」
「健が気にする事はねぇだろう?」
ジョーはニヤリと強気の笑いを見せた。
「それより放射能発生装置について、博士と相談してくれ」
ジョーはそう言いながら、襲って来た敵兵と対峙した。
羽根手裏剣は既に口元にあった。
左腕はジュンが止血処置をしてくれたが、まだポタリポタリと血が垂れている。
そこを重点的に襲われるのは確実だった。
失血で意識を失わないように、ジョーは意志を強く持ちながら、闘いに挑まなければならなかった。
ジョーは左腕を敵からの死角に入れるように工夫をしながら闘った。
それでも、敵への攻撃が衰える事はない。
素早い動きで、羽根手裏剣を気合を込めて放った。
敵兵の喉笛を容赦なく貫いて行く。
今は生命の遣り取りをしている。
止むを得ない事だった。
ジョーは回転して、敵兵を薙ぎ払った。
血が飛び散ったが、ジョーは構わずに闘い続けた。
その間に南部博士に連絡を取った健は、国連軍選抜射撃部隊の出動を告げた。
「解った。つまりいつかのように冷凍光線弾を使うんだな」
「そう言う事だ。バズーカ砲を持って来るそうだ」
「そうか」
ジョーはぐらりと身体が揺れたのを感じた。
「ジョー、大丈夫か?」
「でぇ丈夫さ」
「痛みは?」
「痛みより問題は失血だな。
 でも、あの時俺はどうしても王子を停めたかった。
 王子に銃を向ける訳には行かなかったからな」
ジョーの顔色は紙のように蒼白くなっていた。
その事は健にも解った。
「俺に構うな。それよりも放射能の発生を防がなければならねぇ。
 カッツェにボタンを押させるな」
「カッツェは自分が安全圏に逃げない限り、ボタンは押さない。
 この場所に釘付けにしておくしかあるまい」
健は冷静に分析していた。
全くその通りだ。
カッツェの事を良く解っている科学忍者隊には、その事が理解出来た。
「そうだな…。確かにその通りだ。
 みんな、カッツェを逃がすなよ」
ジョーは時折浚われそうになる意識を無理矢理に呼び戻していた。
そんな状態でも、闘志は決して失う事がなかった。
闘いは続いていた。
敵兵は相変わらずカッツェの命令で科学忍者隊を攻撃して来る。
一体どれだけの隊員を配備しているのだ?と訊きたくなるぐらいに、数が益々増員されていた。
カッツェはこれだけの隊員を導入して、最後は見捨てる腹なのだ。
ジョーはこの場でその事を叫んでしまいたかった。
お前らは見捨てられる運命にあるんだぞ、と。
これまでに何千人もの隊員がカッツェによって使い捨てられて来た筈だ。
自分らがしている事を愚かな事だと早く気づけ!
ジョーはそう言いたかった。
自業自得だと言えばそれまでだが、ギャラクターにだって家族はいる。
科学忍者隊によって、斃された隊員達の子供は、今度は自分のように科学忍者隊を恨む事になるのだろうか?
そんな事を考えるのは、意識が朦朧としているからだろうか。
ジョーは考えを止めた。
これ以上考えても意味はない。
自分は科学忍者隊なのであり、他の何者でもない。
それでいいのだ。
自分の闘いを全うする事だけを考えればそれでいい。
それが自分のあるべき姿。
それ以外の自分は必要ない。
ジョーは一瞬の気の迷いを全てかなぐり捨てた。
そして、闘いに専念した。
敵兵に右肩からぶつかって行き、何人も倒したかと思うと、ジョーは体勢を保ちながら、エアガンを放った。
敵の心臓部に当たって行く。
それで何人も倒しておき、また身を沈めて、敵の足払いをした。
見事に敵が連続して倒れて行く。
ジョーはエアガンの銃把を使って、敵兵の首筋に叩き込み、気絶させる。
その動きが早過ぎて見えない。
一瞬の後には羽根手裏剣をピシュシュシュ…と音を立てて何本も放ち、敵の手の甲や首筋に当てている。
怪我を負っているとは言え、動きに無駄がない。
傷は痛んだが、考えている余裕がなかったのが良かった。
ジョーは左腕から血を滴らせながら、恐ろしい形相で闘った。
そして必ず眼の端にはカッツェの姿を入れていた。
逃げ出すような動きがないか、監視している。
それはジョーが気を失わせた王子以外の全員が続けている事である。
誰かが気を抜けば、その間にカッツェは姿を消す事だろう。
誰もカッツェを逃すまい、と闘いながらも強く意識していた。
そのオーラはカッツェにもひしひしと伝わっていた。
一歩でも動こうものなら、ブーメランが、羽根手裏剣が、飛んで来るのである。
科学忍者隊の本気度がカッツェには解っていた。
タイミングを計ってはいたが、逃げ出す事が出来ない程に、カッツェの五体は見えない何かに縛り付けられていた。




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