『アンダーソン長官誘拐(中編)』

ジョーは素直に連れて行かれるままに歩いた。
その事の異常さにギャラクターは気づくべきだったと言えよう。
コンドルのジョーがそんな風に従順な訳が無い。
ジョーはアンダーソン長官が閉じ込められている牢獄に突き入れられた。
願ってもないチャンスだった。
後ろ手に縛られていたが、ブレスレットを強く押してバードスクランブルを発信し、ジョーはそのまま鍵が閉められ、敵の見張りが残るのを黙って見ていた。
「長官。もう大丈夫です」
ジョーが含み声で話すと、長官は、
「君はわざと捕まったのかね?」
とヒソヒソ声で訊いた。
「その通りです。暫く静かにしていて下さい」
ジョーはまず自分の縄抜けに掛かった。
こんなのは朝飯前だ。
簡単に抜けた。
次に長官の縄を解く。
見張りに気づかれないように慎重に行なった。
長官の縄も難なく解けた。
ジョーはタイミングを見計らって、外の見張りに羽根手裏剣を浴びせ、錠前の部分にペンシル型爆弾を投げつけて、長官の上にマントを広げて覆い被さった。
鍵は首尾良く開いた。
「長官、走れますか?」
問題はそこだった。
長官はでっぷりとした体型をしている。
走るのは苦手だろう。
「……やれるだけはやってみるが……。
 私が足を引っ張るようなら置いて行って貰って構わない」
「それじゃあ、俺の任務は達成出来ないんですよ」
ジョーはそう言って、出来るだけ頑張ってくれ、と願った。
「行きますよ、長官。
 ゆっくり走りますから、付かず離れず着いて来て下さい」
ジョーにとっての『ゆっくり』が長官にとっては速い事など、彼には計り知れない。
ジョーは長官の走りが遅い事に焦りを感じながら、走った。
彼にとっては歩いているのと同じ事だった。
すぐに敵襲が来た。
「長官。壁際に寄って下さい」
ジョーは長官を背中に庇うようにしながら、闘った。
回転して長い脚で敵を足払いし、羽根手裏剣を雨霰と降らせる。
これ程の大量の羽根手裏剣が見事に全部命中している。
長官は眼を瞠った。
科学忍者隊とはこれ程の物なのか。
眼の前で見るのは初めてだった。
ジョーの働き振りはそれは見事なものだった。
眼に見えないスピードでエアガンを抜き、敵兵を撃つ。
それがまた確実である。
そして、白兵戦に持ち込むと、その身体能力が優れている事が良く解る。
長いリーチで敵を跳ね飛ばし、長い脚で効率良く敵兵を蹴り飛ばす。
見事だ…。
と長官は感嘆した。
ジョーは1人でそこに来た敵兵を倒し尽くしてしまった。
「長官。先を急ぎましょう」
ジョーは長官を促した。
息も切れていない。
ジョーにとっては当たり前の事も、長官にとっては新鮮な驚きだった。
科学忍者隊はこんな風に闘うのか…。
呆然とする思いだった。
こんなに激しい闘いを5人の少年・少女がして来たのか……。
熾烈な闘いだ。
闘いの中に身を置いて、初めて解ったその激しさに、アンダーソン長官は舌を巻いていた。
もっと科学忍者隊に感謝しなければならない、と改めて思った瞬間でもある。
ジョーは早足で歩き始めた。
長官が着いて来れなければ意味がない。
敵襲が多くなる事は覚悟の上だが、やがて健達もやって来るだろう。
そうしたら、ジュン達に長官を預け、自分は司令室に行く考えだ。
司令室にはまだカッツェがいる可能性が高い。
長官を奪われた事を知って、今頃慌てているかもしれない。
ジョーは長官を慎重に守りながら、進んだ。
健達と漸くかち合った。
「おう。やっと来たか」
「お前のバードスクランブルが遅いんだ」
健が言った。
「それもそうだな。とにかくカッツェがいる可能性がある。
 俺は中に戻りてぇ」
「解った。甚平と竜は、長官を守ってゴッドフェニックスに戻っていてくれ。
 場合によっては、メカ鉄獣が現われる可能性も考えておかねばならない」
「科学忍者隊の諸君。世話を掛けるな」
長官が言った。
「いいえ。こう言った時の為に我々は組織されているのです」
健が礼儀正しく答えた。
「甚平、竜。頼んだぞ」
「ラジャー」
2人は長官を囲んで、出口の方へと進み始めた。
健とジョーとジュンの3人が残った。
「ようし。この基地毎カッツェをやっつけてやる」
「ジュン、機関室を頼めるか?」
「解ったわ」
ジュンはひらりと身を翻した。
健とジョーは元来た道を戻る事になった。
「俺達が閉じ込められた牢獄よりは向こう側だろうぜ」
「ああ、そうだろうな。一番奥に司令室があるケースが多いからな」
健も答えた。
2人は先程ジョーが長官を連れて走ったスピードとは比べ物にならないぐらいの超速スピードで走り始めた。
風を切って、脚が見えないぐらいだ。
これが科学忍者隊の実力だった。
オリンピックに出る事があったら、短距離も長距離も、そして幅跳びなどの陸上競技全てに於いて金メダルを獲得出来るに違いない。
それだけの身体能力を隠し持っている2人だ。
風のように走りながらも、動体視力トレーニングをしている2人には、全ての物が見えていた。
「おいでなすったぜ」
ジョーが言うまでもなく、健もそれに気付いていた。
チーフ級の色違いの制服を来た隊員がバズーカ砲を担いで登場したのだ。
「司令室は近いな…」
健が呟いた。
これからこのチーフどもを片付けても、まだ隊長が残っている。
2人は慎重に闘いの駒を進めなければならなかった。
しかし、この2人のコンビは磐石だ。
敵のチーフのバズーカ砲など怖くはない。
「ジョー、行くぜ!」
「おうっ!」
2人は跳躍して、敵のチーフの前に全身を晒した。
怖い物など何もない、と言う事を体現して見せたのだ。
相手は1人だ。
バズーカ砲が2人のどちらかを狙って火を吹いても、もう1人がいる。
ジョーは『ガッチャマン』を狙って来ると踏んでいたので、敵の動きに敏感に反応する準備をしていた。
羽根手裏剣で右手の5本の指を貫くと言う作戦に出たのだ。
それは見事に的中する。
ジョーに狙われて外された獲物などない。
さすがのチーフもバズーカ砲を取り落として、痛みに苦しんだ。
バズーカ砲が暴発したが、健もジョーもマントで防いで無事だった。
「ようし、行こうぜ」
ジョーは勇躍そう言った。
「ああ。充分注意しろよ」
健は短くそう言った。
ジョーにはそんな事を言わなくても解っている筈だ。
必要以上に注意深い。
何でも疑って掛かるその性格は、闘いの場では役に立っていた。




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