『アンダーソン長官誘拐(後編)』

「さて、此処が俺達が収監された檻だぜ」
ジョーが爆発で扉がひしゃげている檻を健に見せた。
「この奥にはまだ行っていねぇ。怪しいな…」
「ああ。この通路を先へと走れば何らかの物は期待出来るだろう」
健も答えた。
『健!機関室を発見したわ。爆破するわよ』
頼り甲斐のあるお嬢さんだ。
と、ジョーは思った。
「頼む。充分気をつけてくれ」
『ラジャー』
健の声に、ジュンの声も弾む。
リーダーとしての気持ちだけではない事は、ジョーにも良く解る。
しかし、健が全く意に介していないのは、相変わらずの事だ。
ジョーはジュンを気の毒に思いながらも、考えを引き戻した。
「機関室がやられれば、司令室も機能を果たさなくなるだろうよ。
 急がねぇとカッツェの奴が逃げるかもしれねぇ」
「ジョーの言う通りだ。急ごう!」
健は風のように走り出した。
ジョーもそれに遅れる事なく続く。
「アンダーソン長官を誘拐してまで南アフリカのマントル計画をどうして止めたかったのか。
 それを聞き出さなければならない」
「恐らくは南アフリカで何かの計画が進んでいた。
 そこにマントル計画の工事が始まって、邪魔に思ったんだろ?
 大掛かりな基地でもあるかもしれねぇな」
この基地の後、南アフリカのマントル計画区域を隈なく探索しなければならないかもしれない。
「ギャラクターの奴らが何をしでかそうとしていたにしても、きっちりと潰しておかないと行けないな」
「おう。そう言うこった」
2人はツーとカーだった。
意見がきっちり一致した。
いつもこうだと言う訳ではない。
意見が反発し合う事もある。
しかし、今日はお互いの息もピッタリだ。
「あれが司令室だな…」
健の目線の先に、司令室らしい扉が見えていた。
2人は同時に体当たりして、司令室の中に飛び込んだ。
カッツェがいた。
その前に蛇のような面を被った隊長が待っていた。
本物の蛇のようにチョロチョロと出る舌が不気味だった。
「気持ちが悪い奴だな。顔から上は爬虫類か?」
ジョーが思わず呟く程だった。
「ジョー、あの舌に気をつけろ。伸びるかもしれん」
「ああ、解ってる。何か毒性のある物が仕掛けられているかもしれねぇな」
近くでの肉弾戦は避けた方が良さそうだ。
ギャラクターの平隊員と闘いながら、折を見て、武器で攻撃しよう。
2人は無言の内にそう言う相談をしていた。
わらわらと現われて来るギャラクターの隊員もいずれは途切れる。
健とジョーは白兵戦を演じた。
ジョーは回転しながら、敵兵を長い脚で薙ぎ倒しておき、羽根手裏剣をピシュッと舞わせた。
正確に敵の手の甲に突き刺さる。
カッツェはまだ2人の闘い振りを見ている。
ジョーはいつカッツェが消えるか、と気が気ではなかった。
もう機関室は停まっている。
この基地に用はない筈だ。
基地の自爆装置を入れて、自分だけ脱出する事を考えているに違いなかった。
ジョーは敵兵をやっつけながらも、時折カッツェの前に立つ敵の蛇隊長にエアガンを撃つタイミングを計った。
しかし、なかなかチャンスは巡って来ない。
健も同様にブーメランで敵の隊長を狙っていたが、やはり同じだった。
隊長には隙がないのだ。
今、雑魚兵に闘わせておいて、自分は出て来ないのは、2人の闘い方を見ているのかもしれない。
なかなか喰えねぇ奴だ、とジョーは警戒した。
ジョーは敵兵の僅かな隙間から、闘っている最中にペンシル型爆弾を蛇隊長の心臓目掛けて放った。
それが見事に命中した。
しかし、爆発する前に抜き去られてしまった。
そのペンシル型爆弾をジョー目掛けて投げつけて来たので、ジョーはマントで防いで事なきを得た。
「くそぅ。やっぱり雑魚やチーフとは違いやがる」
「ジョー、お前を狙って来るに違いないぞ」
「解っているさ」
蛇隊長は、ジョーに向かって突進して来た。
肉弾戦には持ち込みたくなかったが、仕方がない。
ジョーは敵の隊長を投げ飛ばした。
しかし、打たれ強いのか、すぐに何事もなかったかのように起き上がって来た。
あの舌には注意しなければならない。
ガシっと組んだ時に、ジョーの首を狙って来るに違いなかった。
ジョーはエアガンを抜いた。
チョロチョロと出て来る舌が規則的に動いている事に気づいた彼は、タイミングを計って、エアガンのワイヤーでその舌を絡め取ってしまった。
敵の隊長が狼狽する。
その瞬間、健のブーメランが飛んで来て、隊長の舌を切り取ってしまった。
「ジョー、下がれ!」
言われなくても身体を引いていたが、切り取られた舌は床の上でまだ蠢いている。
ジョーはエアガンのバーナーでそれを焼き切った。
最大の武器を奪われた隊長が気が狂ったように2人に向かって来た時、透明カプセルに乗ってサッと姿を消したカッツェの様子が眼に入った。
「くそぅ。自爆装置を仕掛けたな」
ジョーは敵の隊長を足蹴にし、仰向けに倒れた処で、エアガンで心臓を撃ち抜いた。
これでは死なないだろうが、どうせカッツェの仕掛けた爆発の犠牲になる運命だろう。
「カッツェから目的を聞き出し損ねたな」
「仕方がねぇ。南アフリカまで行くしかねぇだろう。
 今後のマントル計画の邪魔になる何かが行なわれているに違いねぇぜ」
「とにかく脱出だ」
「おう」
2人は脱出を始めた。
基地は近い内に爆発するに違いない。
ジュンにも退避を命じた。
甚平と竜は無事にアンダーソン長官の身柄をゴッドフェニックスに移していた。
健とジョーは必死に走った。
あの素晴らしい走りで。
長官を先に脱出させたのは正解だった。
今の状態で連れて走るには間違いなく足手纏いだった。

全員が無事に怪我もなくゴッドフェニックスへと戻った。
すぐにゴッドフェニックスはこの集落を離れる。
竜が此処までゴッドフェニックスを移動しておいてくれたのだ。
長官は散々『走らされて』疲れ気味の様子だ。
同じくでっぷりとした体格の竜でも、さすがにその身体能力の悪さには閉口していたと、甚平がこっそり健達に告げた。
『とにかく全員無事で良かった。
 アンダーソン長官、災難でしたな』
スクリーンに南部博士が現われた。
「科学忍者隊の諸君には迷惑を掛けてしまった…」
『その為に科学忍者隊は組織されているのです。
 ご心配には及びません』
「それより、博士。ベルク・カッツェの目的を探る事が出来ませんでした。
 長官を送り届けた後に、俺達は南アフリカのマントル計画予定地に直行し、周辺を探ってみます」
『ご苦労だが、そうしてくれたまえ』
「ラジャー」
「その件なら少し情報がありますぞ。
 ギャラクターはあの場所にミサイル基地を作っていたらしい。
 場所はXV−252地点だと言う話だ」
長官が言った。
『ほう。長官。カッツェから聞き出したのですか?』
南部が感心した。
「その通りです。冥土の土産とやらに聞きましたよ」
長官は快活に笑った。
科学忍者隊は、改めてXV−252地点に飛ぶ事になった。
長官を乗せたゴッドフェニックスは空高く華麗に垂直上昇した。




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