『エース(2)』

『エース』がどこにいるか解らない以上、科学忍者隊は慎重に探索に入らなければならなかった。
ドクアップ国に上手く入国出来たのはいいが、全くデータがない。
首相官邸に潜り込むしかないのだ。
博士の手配でチェックインしたホテルにリュックサックを置き、夜中に行動を起こす事になった。
それまで全員が仮眠を取る。
4人部屋に補助ベッドを入れ、身体の小さい甚平がそのベッドで眠っていた。
竜の鼾が響き渡る中、ジョーは眠れずにいた。
こうしている間にもフランツが危険な目に遭っているかもしれない、と思うと居ても立ってもいられない気分だった。
時間が過ぎるのが遅く感じられた。
フランツを追って、首相官邸に潜り込む事になる。
地下貯蔵庫の写真を撮られた事は敵に知られているかもしれない。
となれば、警備は厳重だろう。
気づかれずに潜入するのは難しいかもしれない。
ジョーはベッドに仰向けになりながら、冴えた頭を巡らせていた。
地下貯蔵庫となれば、地下水路などに繋がっているかもしれない。
ギャラクターの基地である可能性もあり、油断は出来ない。
どこから潜入するかは、現場に行ってから決める事になっているのだが、ジョーはいろいろとイメージしてシュミレーションしていた。
「ジョー、眠っておけよ」
健の声が驚く程近くでした。
「おめぇも眠れねぇんじゃねぇのか?」
「実はそうだ。『エース』は相当危険な目に遭っていると考えなければならない。
 無事に助け出すにはどうしたら良いのか、と考えていた」
「ギャラクターは血も涙もないからな。
 『エース』には妻子がいるんだ。無事に返してやりてぇ」
「そうだと思った。ジョーの思い入れが強いみたいだったからな」
「大切な仲間だと言ったろう?それだけの事さ」
「必ず無事に家族の元へ返そう。俺達の任務の第一はそこにある」
「ありがとよ。ギャラクターの悪事を暴く事が一番だ、って言わねぇんだな」
「人の生命の方が大切さ」
「だがよ。あのウランで何かを企んでいるとなりゃあ、もっと多くの人々が犠牲になるぜ」
「解っている。それも俺達が必ず防いで見せるさ。そうだろ?ジョー」
「ああ、そうだな……」
「時間までまだ2時間もある。寝ておけよ」
健はそう言って自分のベッドに戻った。

2時間後、科学忍者隊の5人は仮眠から起きて、首相官邸の近くまで歩いてみた。
官邸周辺はやはり警戒が厳重だ。
「地下水路から貯蔵庫を目指してみるか?
 『エース』が入り込めたんだ。
 どこかにルートがある筈だぜ」
「そうだな。全員で手分けをして、地下水路から探索を開始しよう。
 充分気を付けろよ」
「ラジャー」
全員がそれぞれに散った。
ジュンと甚平は共に行動する事になった。
ジョーは首相官邸に向かって一番近道だと思われる方向を取った。
ブレスレットを探知機にして、探してみると、成る程ウランの反応が地下からある。
つまりはその付近が地下貯蔵庫だ。
「此処から入り込む方法がある筈だ…」
ジョーが呟いた時、急に気配を殺した人間が現われ、彼の手首を掴んだ。
「今、行くのは危険だ。俺も行動を妨げられて動けないでいた」
「『エース』!無事だったか?」
「ああ、俺は無事だ。それ程ドジではない」
「だが、メールを送っても返信がねぇって話だったぜ」
「電波を逆探知されている。だから、電源は切ってある」
フランツはいつもの『エース』の仮面を被っていた。
タブレットタイプの小さなパソコンをバッグの中に入れ、そのバッグを斜め掛けにしていた。
「データはたっぷりこの中にある。
 ギャラクターがこの国に入り込んでいて、首相は既に殺されている。
 今の首相はベルク・カッツェの手の者が変装しているのだ」
ジョーは『エース』が無事だった事を健に報告する。
一旦潜入は断念してホテルに戻る事になった。

ホテルに戻ると、『エース』はタブレット型端末を起動した。
「起動したと同時に、逆探知される恐れがある。
 それでもいいんだな?」
彼はそう念押ししてから起動した。
ギャラクターが襲って来る可能性も否定出来ないと言うのだ。
「来るとしたら窓からだろう。
 G−4号とG−5号は見張っていてくれ」
「ラジャー」
5人はまだバードスタイルのままでいる。
『エース』の前で変身を解く訳には行かなかった。
「これが地下水路から、地下貯蔵庫へ入り込む唯一の拠点だ。
 たまたまネズミか何かが穴を空けたのを、俺がドリルで広げた」
竜には入れそうもない穴が空いていた。
フランツが通れるのだから、他の4人は問題ないだろう。
「地下貯蔵庫からは、有り得ない場所に通路が出ている。
 そこまで入り込んだ事はないが、恐らくはギャラクターの基地に通じているのだろう」
『エース』が見せた写真にはその通路が映っていた。
「成る程。やはりそう言う事か…」
ジョーが呟いた。
「これが本物の首相の遺体だ。
 残念ながら1週間以上は過ぎていた。
 地下貯蔵庫の脇にある小部屋で死んでいた。
 最初の内は首相が知らぬ内に事が運ばれていたらしい。
 それに気づいた為に殺されたと見られる」
『エース』は次の写真を出した。
ウランが入ったジュラルミンケースが山積みになっている。
「これだけのウランがあれば、地球の半分を吹き飛ばすだけの核爆弾が作れる。
 ギャラクターは本気でこれを使うだろうか?」
「ギャラクターは公害の中でも生きて行けると聴いた事があるぜ」
ジョーが言った。
「兄貴!ギャラクターだ!」
「ホテルを壊す訳には行かん。こっちから出て行こう。
 『エース』さんは此処にいて下さい」
科学忍者隊の5人は窓から屋上へと飛び出した。
近くの建物の上で闘いが始まる。
ジョーは部屋に残されたフランツを気にしつつも、眼の前の闘いに身を窶すしかなかった。
羽根手裏剣が華麗に舞う。
彼の身体が宙を飛び、敵兵に長い脚でキックを入れている。
『エース』は窓からその見事な闘い振りを見ていたが、この場所にいる危険性を感じた。
逆探知をしてギャラクターは此処まで現われた。
そこに科学忍者隊が登場したとなれば、データの受け渡しが完了した事を意味する。
身の危険を感じたが、彼には武器がない。
案の定、部屋にもギャラクターがやって来た。
「甚平!『エース』を守ってくれ!」
健の声が飛んだ。
「ラジャー!」
甚平が戻るまでの間、『エース』は善戦していた。
ギャラクターの隊員が持つマシンガンを奪い取り、撃ち返すだけの戦闘能力は持っている。
「何だ、心配する程じゃなかったね」
甚平が肩を竦めた。
「しかし、部屋が滅茶滅茶になった……」
「南部博士に言って何とか謝って貰うしかないよ。
 こいつらが悪いんだしさ」
甚平は事も無げに言った。




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