『エース(4)』

闘いは続いていた。
ギャラクターを誘き寄せる作戦は成功し、『エース』のタブレット端末が起動された事により、敵兵が群がった。
同時にISO本部には彼が送った写真がメールで到着しており、もう動かぬ証拠が渡っていた。
『エース』はまだタブレット端末を守る必要があった。
それだけではない。
守るべきは自分の生命だ。
ジョーもそれは解っている。
ギャラクターの秘密を探り出し、ISOに報告をした『エース』を無事に逃がしたりはしまい、と感じていた。
ギャラクターは卑劣な組織だ。
躊躇いもせずに『エース』の生命を狙って来る筈だ。
ジョーはそれに気を払いながら闘っていた。
『エース』は1人でもそこそこやる筈だ。
頭も切れる。
だが、科学忍者隊程の身体能力はない。
マシンガンで自分の身を守るぐらいが精々だろう。
しかし、今の処はそれで大活躍している。
自分を狙う者に関してだけ嗅覚を鋭くしておけばいいのだ。
フランツはそれを心得ていた。
後は自分の出る幕ではない。
科学忍者隊に任せておくべきであると。
ただ、科学忍者隊の足を引っ張らない為にも、自分の生命は自分で守る。
そう決意をしていた。
そして、見事にそれを実現していた。
ジョーはフランツのマシンガンが弾切れを起こしたと思うと、次から次へと新しくマシンガンを調達してくれた。
「俺に構うな。自分の闘いに集中してくれ」
フランツはそう言ったが、ジョーはそれをやめなかった。
ジョーには余裕があったのだ。
ギャラクターの下っ端どもと闘うのに、全力は出し切っていないと言う事だ。
まだ身体能力に余裕がある。
フランツはそれを感じ取って、益々恐れ入った。
ジョーとは、科学忍者隊とは凄い組織である。
第一線でギャラクターと闘い続けて来ただけの事はある、と改めて感心したのだ。
ISOの情報部員として、彼は危険な道を何度も潜り抜けて来た。
そんな彼をも黙らせる程、科学忍者隊の働きは素晴らしいものだった。
フランツは黙って、自分の身を守った。

ギャラクターの隊員が大方片付いた処で、健達は、彼らが出て来た場所を探り当てた。
「出入り口は此処だ。行くぞ。
 『エース』さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。地下貯蔵庫に案内しよう。
 そして、司令室を突き止めよう」
「宜しく頼みます」
『エース』は先に立って、案内を始めた。
地下貯蔵庫にはすぐに到着した。
「これだけのウランを貯め込んで…。
 きっととんでもない事に使おうとしていたんだわ」
ジュンが言った。
「この基地は爆破出来ない。
 やり方を考えなければならないぞ」
健が腕を組んだ。
「だがよう。カッツェの野郎が自爆装置を握っているに違いねぇぜ。
 部下を首相として潜り込ませているって事は、本人は別の場所にいるから容赦ねぇだろうぜ」
「そうだな…。起爆装置を見つけて破壊するしかないな」
「コンピューター類は小型爆弾を使うといいわよ」
ジュンが賢い処を見せた。
「小型爆弾で必要最低限の爆発に止(とど)め、この地下貯蔵庫は爆発から守る。
 それしかないようだな」
健も言った。
「この部屋は放射能漏れを防ぐ為に細工がなされている筈だ。
 でなければ危険過ぎて首相官邸の真下にこんな物は置けまい」
『エース』がはっきりとした声で言った。
「まずはその細工を探そう。
 そうしておけば、君達も任務をする上で安心だろう」
フランツの言う通りだ。
それはすぐに見つかった。
「このレバーだろうぜ。取って付けたように設置してある」
ジョーが指差したレバーは、部屋の入口の横に設置されていた。
「これだろうな」
フランツも頷いた。
「ようし、スイッチを入れるぜ。全員部屋の外に出ろ」
すぐにドアが閉まる可能性があった。
ジョーはだから、全員に外に出るように求めたのだ。
自分もギリギリに出るつもりでいる。
スイッチを入れると、案の定部屋の扉が閉まり始めた。
ジョーは滑り込むようにドアから外へと飛び出した。
マントが引っ掛かる事もなく、無事に外へと出る事が出来た。
元々は放射能避けの衣服を着込んだ警備員を残して閉める予定のドアだ。
中にいる人間が出る時間など考えてはいない物だったのだ。
ジョーはそこを良く読んだと、フランツは思った。
「さて、では司令室に行きましょう。
 『エース』さん、お願いします」
健がフランツを促した。
「此処からは俺も足を踏み入れてはいない。
 データは此処にある」
再びバッグからタブレット端末を取り出した。
『エース』は、写真データの中から、この基地の見取り図を取り出して画面に表示した。
「今いる場所は此処だ。此処から南に300メートル。
 そこに司令室がある」
タブレットを指先で操作しながら、フランツは言った。
「よし、全員臨戦態勢に入れ。
 G−2号は『エース』さんを頼むぞ」
「解ってるって。尤も俺がいなくても、自分で自分の生命は守るだろうがな」
ジョーはニヤリと笑った。
「いや、マシンガンを寄越してくれて、有難いと思っている」
フランツもニヤリと笑い返した。
肝が座っている。
ジョーは改めて感心した。
「行くぞ!」
健の号令で全員が進み始めた。
ギャラクターの隊員がすぐに現われる。
ジョーは長い手足で敵を翻弄しながら、生き生きと闘っている。
その間にも、『エース』のマシンガンの事を気にしてくれた。
フランツは本当に自分の身を守るだけで良かった。
だが、その事自体が大変な事である事には、変わりなかった。
「『エース』。科学忍者隊はマントで銃弾を防ぐ事が出来る。
 俺達に当たるとか言う事は考えなくていい。
 存分にマシンガンを使ってくれ」
ジョーが敵の鳩尾にパンチを入れながら言った。
「解った。そうさせて貰う」
フランツも臆せずにそう答え、マシンガンを唸らせた。
自分の生命を狙って来る暗殺部隊がいるようだ。
しかし、ギャラクターの一般隊員で組織されている事は、ジョーも見抜いていた。
だから、ある程度は『エース』本人に任せておいて大丈夫だ、と思っているのである。
そして、彼に危機が訪れた時には、ジョーの羽根手裏剣が容赦なく飛んで、敵兵の手を捉えた。
それだけで戦意を喪失する程のダメージを与える事が出来る。
ただ金の為にギャラクターに入ったような骨のない隊員達にとっては、どこからともなく飛んで来る羽根手裏剣は脅威でもあったのだ。
ジョーは末端隊員であろうが、許しはしなかった。
ギャラクターに身を窶した時点で人間が終わっていると思っている。
中には人間らしい心を残している者もいるのだが、闘いの中で出逢ったのは、アランの婚約者とマヤぐらいなものだった。
自分の両親を眼の前で殺された事に関しては、今も復讐心が燃え上がるばかりである。
ジョーは怒りを込めて、敵兵にぶち当たった。




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