『エース(5)』

『エース』が報告した地下貯蔵庫から出ている通路は結局は使わなかった。
見取り図を見た結果、別の道の方が司令室に近いと解ったからである。
しかし、地下貯蔵庫からの通路も間違いなく、ギャラクターの基地と通じており、ウランを運び込むのに使われたと見られる。
今はその通路もジョーによって遮断された筈だ。
『エース』は既に見取り図を頭に叩き込んでいた。
「こっちだ」
道案内の役割を果たしてくれた。
流石は有能な情報部員である。
彼なしのこの作戦は叶わなかったに違いない。
科学忍者隊は『エース』の後に続いた。
「どうやら来たようだな…」
『エース』が呟いた時には、科学忍者隊が彼よりも前に出ていた。
また闘いが始まる。
ギャラクターの平隊員だ。
しかし、彼らが束になっても5人揃っている科学忍者隊に適う筈もない、とフランツは思っていた。
そこにバズーカ砲を持ったチーフが3人現われた。
「またバズーカ砲かよ?芸がねぇ…」
ジョーが呟いたのが聴こえた。
フランツは科学忍者隊がこの攻撃に慣れている事を知った。
「チーフの武器はバズーカ砲とでも決まってでもいるのか?」
ジョーはまだ呟いている。
余程気に喰わないらしい。
彼はバズーカ砲で痛い目にも遭っていた。
仲間を庇って背中を負傷した事がある。
マントがなければ即死だったに違いない。
それ程恐ろしい威力があるバズーカ砲だが、科学忍者隊は恐れてもいないのには、フランツは正直恐れ入った。
自分なら逃げるだろう。
身の危険を回避する為に。
それが普通の人間のする当然の行動だった。
色違いの隊服を着ているチーフ達が、3人並んだ。
「やってやるぜ。『エース』は下がっていな」
「言われなくても解っている」
フランツは下がり時なのを悟っていた。
出過ぎないのは、彼の冷静な処である。
科学忍者隊の足は引っ張らないと言ったのは本当だった。
ジョーはそう思った。
科学忍者隊を狙って撃って来るバズーカ砲を5人はバラけて避けた。
1発撃って外した処がチャンスである事は、射撃の名手のジョーが良く知っていた。
「みんな、今がチャンスだぜ」
勇躍5人が敵のチーフに襲い掛かった。
その瞬間、ジョーは別の物を見て、攻撃を止めた。
此処は他の4人に任せておいても大丈夫だろう。
「健、此処は任せた」
ジョーが見たものは異形の隊長だった。
身体中に包帯を巻いているが、ミイラのようではない。
眼と口だけは出ている。
「何だ?火傷か?」
ジョーは訊いた。
「その通りだ。科学忍者隊の基地爆破によって、こんな身体になってしまったのさ」
狂っている、とジョーは思った。
眼が尋常ではない。
科学忍者隊への恨みが高じて、精神に異常を来たしてしまったようだ。
「どうやらその恨みを俺達にぶつけに出て来たようだな」
「そうだ。まずはお前から血祭りに上げてやろう。
 チーフ連中になど任せてはおけん」
「いいだろう。掛かって来い」
ジョーは強気に出たが、フランツはハラハラとして見守っていた。
この隊長は、彼の眼から見てもかなり強い。
手にしているのは、長い槍だ。
ギャラクターは余りこう言った武器を持たない。
慣れていないジョーは、さすがに額から汗を流した。
(なかなかの遣い手だな…)
さすがのジョーもそれを認めざるを得なかった。
チーフ達は健達に託した。
此処は彼1人で立ち向かわなければならない。
第一波が来た。
鋭い槍がシュッとジョーの耳元を通過する。
ジョーの首元を狙った物であるのは確実である。
辛うじて避けたのだ。
「ほう、私の一撃を避けるとは流石だな」
隊長はニヤリと引き攣った笑いを見せた。
火傷の為、そう言う風にしか笑えないらしい。
「科学忍者隊め。覚悟しろ」
第二波が来たが、これもジョーはジャンプして避け、そのまま攻撃に転じた。
敵は火傷による影響で上が見づらいらしいのを、ジョーは見逃してはいなかった。
上方からエアガンのワイヤーで首を締めようとした。
しかし、槍でそれを絡め取られた。
「くそぅ…。確かに手強いぜ」
「ほう。漸く解ったか、坊や」
「坊やじゃねぇや。もう18になったんだからな。
 俺の祖国なら大人扱いだ」
「どうやら日本人ではなさそうだな」
「そんな事、おめぇに名乗ってやる必要はねぇだろうよ」
ジョーはまだ強気だった。
エアガンのワイヤーを引いて、槍を奪い取ってやろうとしたが、ワイヤーだけが虚しく戻って来た。
「流石だぜ」
ジョーは呟くと、羽根手裏剣を繰り出した。
敵の喉を狙った。
羽根手裏剣は狙い違わずに喉笛を突いたが、どうやら何か包帯の下に武装しているようだ。
カツンと音がしただけで、羽根手裏剣を喉笛に突き立てたまま、敵の隊長は平然としている。
「くそぅ。身体には武装してあるのか。
 だとすれば狙いは一箇所しかねぇ」
恐ろしい事だが、ジョーは覚悟を決めた。
油断は出来ない。
次から次へと槍が自由自在に繰り出されて来る。
このままでは体力戦だ。
どちらかスタミナが切れた方が負けになる。
ジョーはスタミナには自信があったが、この隊長は何かの細工をしているのか、打たれ強い。
そう簡単には、倒せそうになかった。
実はこの時の為に、将来ジョーがクロスカラコルムで打たれる事になる、ピンクの液体を注射して来ていたのだ。
この隊長も生命賭けだった。
最後には苦しみ抜いて死を迎える事になる薬を、一時的に身体を元気にする為に使った。
その為に打たれ強く、疲れないのだ。
また、槍がシュッと襲って来た。
ジョーの喉元を狙うのは止めたようで、とにかく手足を傷つけようと作戦を変えて来ている。
敵から見てもジョーはなかなかしぶとい、と思われたに違いない。
まだ残り4人を倒さなければならないと思うと、焦りもあっただろう。
ジョーはその焦りを肌で感じていた。
この隊長はやがて、落ちる…。
そんな感覚を覚えた。
「おめぇ、薬を使っているな」
ジョーはそれも見破っていた。
「そんな身体で薬を使ったら、後でどんな事になるか解らねぇぜ。
 まあ、それだけ俺達に対する恨みが深いって事は良く解った」
ジョーの瞳がツーっと細くなった。
「だが、気の毒だが、俺達もやられてやる訳には行かねぇんだ」
ジョーは何時の間にやら羽根手裏剣を2本唇に咥えていた。
敵の隊長の両眼を目指して、その羽根手裏剣は放たれた。


※チーフの武器がバズーカ砲なのは、当ホームページのオリジナル設定です。




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