『大型バイク型メカの急襲』

「博士。この渋滞では会議の時間に間に合いませんね」
ジョーは苛々と人差し指を動かしていた。
裏道を見つけて荒々しく走り抜ければ、彼にはギリギリ間に合わせる技量が十二分にある。
しかし、南部博士を乗せた車でそれをするのは憚られた。
「どうします?どうしても間に合わせなければならないのなら、手はありますが?」
ジョーは後部座席を振り返って、腕を組んで黙考している南部博士に問い掛けた。
「うむ。こんな事もあろうかと、この車にはテレビ会議システムを組み込んである。
 このまま行ってくれたまえ」
南部は後部座席で何やらスイッチを入れた。
彼の前に自動的にモニターが登場し、南部はインカム型のヘッドホンマイクを付けた。
「俺の耳に入っても構わないんですか?重要会議なのでは?」
ジョーが問う。
「確かにそうなのだが…。マントル計画に関する会議だ。
 君に聞かれる事は大した問題ではない。
 心配なのはギャラクターに会議の内容を盗聴されないか、と言う事だけだ」
「それなら、裏道を飛ばすか、会議の開始を遅らせて貰うのが得策でしょう」
今なら飛ばせば間に合いますよ、と言下に匂わせてジョーは言った。
「アンダーソン長官や各国の大統領も臨席している。開始を遅らせる訳には行かん。
 遅れて参加すると連絡をしておこう」
南部はテレビ会議システムで、係員を呼び出し、渋滞に捕まっているので遅れて出席する旨を告げた。
「博士。俺の身体の事を心配しているのなら、それは杞憂と言うもんですよ」
ジョーはのろのろ運転ではあるが車を慎重に前に滑らせ乍ら言った。
彼は仔犬を助けて脳に重大な傷を負い、暫く入院生活を続けていたのだ。
「もう、爆弾の破片も取れたんです。頭痛もありません。
 任務にも支障はありませんし、日夜を問わずトレーニングルームで特別訓練もしています!」
「君が身体が鈍る事を嫌って訓練を続けて来た事は良く解っている。
 だが、任務以外の時まで無理をさせるつもりはない」
「博士。どうやらそんな事を言っている場合ではなさそうですよ」
ジョーは博士の身体を自動固定する装置を発動させるボタンを押し、ステアリングを切って、見事な腕前でガードレールを飛び越え、道なき道へと走り出た。
「ジョー!」
「ギャラクターのメカです!博士を狙っているのでしょう」
『ジョー!聞こえるか?』
ブレスレットから健の声が聞こえて来た。
『会議に参加する要人が次々と狙われている。
 アンダーソン長官は既に会場に到着しているが、俺達も未着の要人達の護衛に就く!
 そっちはどうだ?』
「既にギャラクターがお出ましさ!こっちは任せとけ!」
ジョーは短く答えて、ビルの間に車を隠した。
この車はG−2号ではない。
「博士!俺が囮になります。絶対に車から外には出ないで下さい!」
そう言った時には、ジョーは運転席には居なかった。
車は防弾ガラスで守られている。
彼が囮になりギャラクターの注意さえ逸らせば、攻撃される事はないだろう。

ジョーはバードスタイルに変身すると、軽々とビルの屋上へと飛翔した。
敵は大型バイク型のメカが5台。
案の定、ジョーを発見して、その姿に引き付けられて来た。
ジョーは南部を残した車からそれらを引き離さなければならなかった。
ひたすらビルからビルへと跳び、南部博士を乗せた車を視界の中に残しつつも距離を置く事に成功した。
バイク型のメカにはガトリング砲が仕込まれていた。
ジョーは5台のメカからの攻撃を交わさなければならなかった。
出来る限り建物への被害を食い止めなければならない。
つまりは先制攻撃を仕掛ける必要があった。
それにはバイク型メカを操縦しているギャラクターの隊員を倒すしかない。
エアガンの照準を絞って的確に射止める以外に道を拓く方法は無かった。
まずはタイヤを狙った。
普通のバイクと同じ仕様ならタイヤをパンクさせれば動きを停める事が出来る。
1台の大型バイク型メカの後輪にエアガンの狙いを付け、見事命中させた。
しかし、バイク型メカは停まらない。
ジョーはエアガンのワイヤーに小型爆弾を取り付けた。
ビルには被害が及ばない程度の物だ。
もう1度バイク型メカに狙いを定め、爆弾付きのワイヤーを伸ばした。
それと同時に羽根手裏剣を操縦している隊員に向かって放った。
羽根手裏剣は隊員の後ろ首に命中し、ワイヤーの先の小型爆弾が小規模な爆発を起こして、1台のメカを破壊する事が出来た。
それに引き込まれるようにぶつかって行ったもう1台も自爆した。
残るは3台。
ジョーは羽根手裏剣を使い見事な腕前で隊員達を斃し、大型バイク型メカは操縦者を失って、道路に倒れ、燃え尽きた。

ジョーはそれで安心はしない。
すぐに南部博士の乗る車に取って返す。
「博士!怪我はありませんか?」
「うむ。大丈夫だ。君の活躍のお陰だよ。ジョー、大丈夫かね?」
「俺の心配は無用です。とにかく急ぎましょう。また新手が現われないとは限りません」
ジョーはバードスタイルの変身を解いて運転席に飛び乗った。
南部博士はジョーの働き振りを目の当たりにし、彼の完全復活を確信したのであった。




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