『月蝕(1)』

ジョーが異常を感じたのは、サーキット帰りにG−2号機を飛ばしている時だった。
もう夕刻となっていた。
丁度鉄橋型になっている道路を走っていた。
ゴゴゴゴゴ…、と言う音と共に鉄橋が揺れ、事故を起こす車が続出した。
ジョーは辛くも前の車との衝突を避け、後方からの車もジョーには追突して来なかったので、助かった。
「一体何だって言うんだ…?」
その時、ブレスレットが光った。
『オンブレス地域にギャラクターのメカ鉄獣が出現した』
「何ですって?俺はすぐ近くの鉄橋にいます。
 今、異常な音と揺れを感じて、鉄橋の上は大パニックです。
 それがメカ鉄獣と関係があると言う事なんですね」
『ジョーがオンブレス地域にいるのなら、間違いないだろう。
 健達を向かわせたから、合体して備えてくれ』
「ラジャー。メカ鉄獣の姿はまだ確認出来ていませんが、出来るだけ探ってみます」
そう言うと、ジョーはさして混雑していない、下の幹線道路にG−2号機を飛び込ませた。
「ごめんよ。急いでるんだ」
突然の事に驚いているドライバーを尻目に、ジョーはその幹線道路からも外へと飛び出した。
下は川原になっている。
G−2号機は悪路走行性に秀でている為、川原の石塊ぐらいは大した事ではない。
下に降りると、前方に何やら光が見えた。
「あれだ!」
光は爆発のようにチカチカとして見える。
「ギャラクターめ。何をしていやがる!」
ジョーは怒りに震えた。
大方、街を破壊して回っているのだろう。
そちらの方に近づいて行くと段々全貌が見えて来た。
鬼のようなメカ鉄獣が、右手に棍棒を持って、暴れているのだった。
背中には二気筒のエンジンが付いていて、これで空も飛べるらしい。
ジョーは見た事全てを南部博士に報告した。
その頃には合体を済ませた他の4人が空に現われていた。
「竜、頼んだぜ」
『任しとけ!』
G−2号機はゴッドフェニックスから伸ばされたオートクリッパーによって、回収された。
コックピットに辿り着くと何やら騒めいていた。
「どうしたんだ?」
「ゴッドフェニックスの姿を見た途端、メカ鉄獣が逃げたんだ」
健がそう言い、竜にすぐに追うように指示を出していた。
「おかしいな。罠の臭いがする。俺達をどこかに誘き寄せる為に街を破壊したってぇのか?」
ジョーは怒りを露わにした。
「まだ解らない。何か他の理由があるのかもしれない。
 どちらにせよ、慎重に行動しろ」
「解っとるわい!」
とは言え、向こうもレーダーでゴッドフェニックスの追撃には気づいているに違いなかった。
追い縋るように追って行くゴッドフェニックスを敵はいきなり引き離した。
「バードミサイルだ」
ジョーが叫んだが、
「駄目だ。もう射程距離外だ」
と健に止められた。
確かに、敵の速さと言ったらなかった。
一体何が起きたと言うのか。
とにかくゴッドフェニックスではスピード面で敵わない事が解った。
「何の目的であの街を破壊したのか?
 そして逃げたのか……」
健が呟いた時に、スクリーンに南部博士が現われた。
『オンブレス地域では、あの時間に月蝕が始まる事になっていた。
 その為に観測イベントが開かれていたらしい。
 どうもそのイベントを邪魔しに来たと言うのが真相のようだ』
「何の為にですか?博士」
『そこまでは解らん。
 月蝕の夜に現われてイベントを邪魔しただけで逃げた。
 何か月蝕に関わっている事には違いないのだが……』
「敵の速さにはゴッドフェニックスではとても敵いません。
 猛スピードで逃げて行きました。
 まるでゴッドフェニックスが現われるのを待っていたかのように……」
健と南部の会話は続いている。
『威力の違いを見せたかったのかもしれんな』
「それにしても、月蝕の謎が解りません」
『ゴッドフェニックスから月の拡大写真をあらゆる方向より撮影してくれたまえ。
 それを見て検討する』
「ラジャー」
そうして、ゴッドフェニックスは月の写真を撮って基地へと帰還した。

「ギャラクターは月に何か仕掛けをしているらしい。
 それを月食観測において発見されるのを恐れたのだ」
南部博士が渋面を作ってそう言った。
「仕掛けと言っても、一体何なんです?博士」
ジョーが腕組みをしたままで訊いた。
「それなんだが…。地上から月を引力で引き寄せようとする装置らしい」
「そんな事をしたら、大変な事になるではありませんか?」
健が叫んだ。
「その通りだ。まだ仕掛けは発展途上にある。
 今なら阻止出来るに違いない」
「じゃが、どうやって…。ゴッドフェニックスには高度の限界があるんじゃ」
竜が困惑した表情で言った。
「装置の撤去は行く行くアメリス国の観測隊に頼むとして、まずは地上にある月を引き寄せる装置を破壊する事だ。
 敵のメカ鉄獣に逃げられたのは、痛かったな」
南部は健を見た。
「次に月蝕が見られるのは、フルマッベ地域だ。
 また例のメカ鉄獣が現われるに違いないぞ。
 次は必ず敵の基地を発見するのだ」
「しかし、ゴッドフェニックスではスピードが敵いません」
「レーダーに映る液体を敵のメカ鉄獣に掛けてやればいいのだ。
 ジョー、特殊ガンを作る。
 ゴッドフェニックスの先端から、G−2号機のコンドルマシンを使うのだ」
「ラジャー。お安い御用ですよ」
ジョーは手を叩くようにして即答した。
「しかし、難しいぞ。敵が街を攻撃している間にやらなければならない。
 ゴッドフェニックスは、フルマッベ地域で事前に待機している必要がある」
「解っています」
健が答えた。
「待ち伏せしていれば、ジョーがその特殊ガンで敵の身体を撃つ機会があるかもしれません」
「失敗をすれば、また次の月蝕まで機会が延びてしまう。
 そうすれば、被害者が増える一方だ。
 科学忍者隊の責任は重大だぞ」
「1回目で仕留めますよ」
「仕留めるのではない。
 飽くまでもレーダーに感応する液体を噴霧して、後を尾けて行くだけだ」
「承知しています」
ジョーは殊勝に答えた。
「特殊ガンの完成を待って、出動するのみです」
「宜しい」
南部はそう言い残すと、特殊ガンの開発の為に、出て行った。
「出番が来るまで、食事でもしておこう」
健が言った。
「そうだよ、おら、腹減ったわ…」
「おいらも」
「緊張感のねぇ奴らだな」
ジョーは鼻で笑ったが、食事を摂る事には反対ではなかった。
「展望レストランに行きましょ」
ジュンが言った。
「だが、リーダーさんは持ち合わせがあるのか?」
低く訊くジョーに、「ない」ときっぱり答える、オケラの健であった。
「また俺に立て替えさせるつもりかよ?」
ジョーがぼやいている時に、南部が戻って来た。
「この食事券で今の内に夕食を摂っておくのだ」
それだけ言って、忙しそうに再び戻って行った。
「……助かったな、健」
「ああ」
言葉少ななリーダーだったが、頭は既にフルマッベ地域での出動の事に切り替わっていた。
ジョーも重大な任務を背負って、身が引き締まる思いだった。




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