『月蝕(2)』

ゴッドフェニックスはフルマッベ地域へと飛んだ。
ジョーは緊張感を持ってコックピットで待機していた。
そこにスクリーンに南部博士が現われた。
『フルマッベ地域では、月蝕の観測会は予定されていない。
 ギャラクターが現われるかは不明である。
 一般人の観測装置では、大した物は見えない筈だ』
「博士。それでも、天文台とかそう言った場所はないんですか?」
健が訊いた。
『フルマッベ地域には天文台はない。
 ギャラクターが襲って来るかどうかは、全く予想が付かない』
「来ない可能性もあると言う事なんですね」
ジョーが眉を顰めた。
『その通りだ』
「これじゃあ、イタチごっこですね」
ジョーが呟いたが、博士は咎める事はなかった。
『とにかく、月蝕が観測出来る場所に待ち伏せているしか手はないのだ。
 今は月への観測隊も出ていない。
 ギャラクターの野望を潰えさせる為には、メカ鉄獣を追って基地を叩くしかない』
「解っています。博士。
 フルマッベ地域以外に、これから月蝕が観測出来る地域はまだあるのでしょう?」
健が次を視野に入れ始めたのが解った。
『うむ。引き続き、アメマーニ地域などがそれに当たるが、アメマーニには天文台がある。
 可能性としてはそちらの方が高いかもしれない』
「天文台なら、月蝕に限らずとも月を観測しているのでは?」
健は鋭い処を突いた。
『その通りだ。だが、今までに怪しい物が見つかったと言う報告は入っていない。
 私もゴッドフェニックスからの写真で漸く気づいたぐらいだ。
 それも相当拡大して見ないと解らないぐらいの変化なのだ。
 ギャラクターは地球の天文学を買い被っているのかも知れぬ』
「でも、天文学は日進月歩でしょう?」
ジョーが腕を組んだ。
『然様。それでも、月の表面の僅かな変化には誰も気づいていない。
 いや、気づいている者がいるのなら、既にギャラクターに消されているとも考えられる』
「そう言えば、サーキットで聴きましたよ。
 どこどこの天文台が襲われて壊滅状態だって」
ジョーが思い出したように言った。
『何?それは本当かね?』
南部はデータベースを調べ始めたようで、スクリーンから姿を消した。
「南部博士にも入っていねぇ情報があるんだな」
ジョーが言った。
「一々、地域情報までは掴めないだろう」
健が仕方がないさ、と言う顔で言った。
「どこの地域だったか、思い出せないのか?」
「ああ、小耳に挟んだだけだからな」
スクリーンに再び南部博士が現われた。
『確かにアルゴーンの天文台が襲われ、研究職が全員殺された事件があったようだ。
 迂闊だった。
 これは恐らくは月の秘密に気づいて報告しようとしていた為に、殺戮されたのに違いない』
「博士……。表立ってはいませんが、そう言った事件は他にもあるのでは?」
健が訊いた。
『今、調べさせているが、その可能性は大いにある』
博士は沈痛な表情を浮かべた。
この事件については、もっと早くに見抜けた可能性があったのだ。
日頃の研究に忙しい南部は、そこまで小さな地域情報にまでは神経を行き届かせていなかったのである。
『とにかくフルマッベ地域はこれから月蝕に入る。
 充分注意してくれたまえ』
「ラジャー」
「ジョーはG−2号機で待機していてくれ。
 いつでも対応出来るようにな」
「解っているさ」
ジョーはコックピットを出た。
ノーズコーンのG−2号機に乗り込む為である。
しかし、彼にはこれは無駄に終わる、と言う勘があった。

フルマッベ地域にはギャラクターはとうとう現われなかった。
次はアメマーニ地域だ。
またゴッドフェニックスで張り込む。
「竜、高度を上げろ。敵のレーダーに引っ掛からないように出来るだけな」
「じゃけんども、いざと言う時に駆け付けられなくても困ると思うんじゃが」
「程々の高度だ。高度3000!」
「解った!」
竜は健の指示に従った。
G−2号機に搭載された特殊ガンの射程距離は1km。
ガトリング砲から砲出する。
射程距離は1kmだが、噴霧するのは液体だ。
それを考えると、数百メートルまでは近づかなければなるまい。
竜が心配するのも当然の事だった。
だが、敵はゴッドフェニックスの存在が解ると何故か逃げる。
何かを恐れているのか、それとも初めにジョーが言ったように、科学忍者隊を誘き寄せようとしているのか、未だに判断が付かない。
誘き寄せるのならば、あれ程のスピードを出す必要はない筈だった。
あれだけのスピードがあれば、バードミサイルも躱せる事だろう。
ゴッドフェニックスを恐れているとなれば、恐らくは火の鳥…。
「敵のメカ鉄獣は火に弱いのかもしれねぇな」
ジョーが言った。
「今、全く同じ事を考えていた。奴らが逃げる理由が理解出来なくてな」
「それなら説明が付くだろ」
「ああ。そう思う」
「鬼の姿をして棍棒を振り回しているだけだ。
 爆弾的な物は使っちゃいなかった」
ジョーはG−2号機から見た光景を思い出していた。
「でも、二気筒のエンジンを背中に付けていたわ」
ジュンが首を傾げた。
「あそこだけ火を避ける何かが仕掛けられてるんじゃないの?」
甚平が言った。
「その技術があるなら、全身にするだろうぜ」
ジョーは甚平の頭を小突いた。
「あのエンジンには何か秘密がある。
 その力によって、驚くべき速さで飛んでいるのだろう。
 それは俺達には分析不可能な事だ」
健が話を纏めた。
「月蝕開始1時間前だ。
 ジョーはG−2号機へ。
 ジュンと甚平はレーダーの監視を怠るな」
「ラジャー」
全員が動き始めた。
来るのなら月蝕が始まる前に来る筈だ。
特に天文台があるこの地域は、天文台を中心に狙って来る事だろう。
騒ぎを起こせば良いのだ。
人々の関心は月蝕ではなく、事件の方に向くだろう。
ギャラクターはきっと来る。
ジョーは今度は確信めいた物を感じていた。
「レーダー反応あり。10時の方向」
ジュンが声を張り上げた。
「距離3000」
甚平も言った。
「よし、竜、高度を下げるぞ」
「ラジャー」
「ジョー、敵が来たようだ」
ジョーはノーズコーンのG−2号機の中で待機していた。
「ラジャー。敵に近付く前にノーズコーンを開けてくれ」
不敵な笑みを浮かべて、ジョーは健にそう告げた。
『解った。ジョー、頼んだぞ』
「任しとけ。射撃の腕には自信があるんだ。
 だがよ、ゴッドフェニックスの中から動けねぇんだ。
 竜も責任重大だぜ」
『解ってるぞい。角度はそっちから細かく指示してくれ』
「ああ、そうしよう」
ゴッドフェニックス内では緊張感が高まっていた。




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