『月蝕(3)』

レーダー反応があった為、ジョーは来るべき任務に備えた。
いつでも取り掛かれる心構えは出来ている。
ノーズコーンが開く時、その一瞬に賭けるつもりだった。
少しでも早く任務を遂行しなければ、敵にまた逃げられてしまうに違いない。
『メカ鉄獣の動力源は、冷気ガスだ。
 その為、火には弱いらしい』
分析を進めていた南部博士から通信が入った。
『やはりそうですか。ジョーと考えが一致していました。
 奴は火の鳥を恐れているんですね』
『恐らくはそう言う事だろう』
博士と健の遣り取りがブレスレットから漏れている。
「しかし、それで自分の弱点をあからさまにするとは、ギャラクターの奴らも愚かですね」
ジョーは唇を曲げてそう言った。
『その通りだ。私もそれで判断が出来たのだ。
 とにかく、ジョー。これからの任務は君に掛かっている。
 何としても成功させるのだ』
「解っています。竜、そろそろノーズコーンを開けてくれ」
『ラジャー』
ノーズコーンが開かれた。
敵のメカ鉄獣が見えている。
「距離を狭めてくれ。何しろ液体を掛けるのだからな」
『解っとるって!』
竜のいつもの口癖が出た。
竜は余裕だ、とジョーは思った。
これなら大丈夫だろう。
「ようし、右に10度、下に20度角度を曲げてくれ」
ジョーは確実に指示を出した。
『ラジャー』
竜は言われた通りにゴッドフェニックスの機首の角度を持って行った。
「今だっ!」
ジョーはタイミングを計って、ガトリング砲の発射ボタンを押した。
特殊ガンの液体は、鬼型メカ鉄獣の背中と棍棒に掛かった。
敵はその事に気づいてはいない。
液体は無色透明だ。
ゴッドフェニックスは颯爽と転回して、メカ鉄獣から離れ、その周囲をぐるぐると回って脅しを掛けた。
「後はゆっくり追えばいいだけだな」
ジョーがコックピットに戻ると、健がニヤリと笑い掛けた。
「ジョー、上手く成功させてくれた」
「当たりめぇだぜ」
ジョーは当然のように言ったが、実際の処、大変な任務だった事は間違いない。
ジョーだからこそ、涼しい顔をしていられるのだ、と言う事は科学忍者隊全員が知っている。
「メカ鉄獣が逃げて行くぞい」
竜が言う通り、ゴッドフェニックスの煽りに乗ってか、敵は逃げ出す体制に入っていた。
そのスピードが恐ろしい。
ゴッドフェニックスにはとても敵わないのは、解っている。
だからこそ、今回の作戦を用いたのだ。
ギャラクターにはそれだけの技術がある。
科学忍者隊は科学の力によって、それを押し退けて行かねばならないのである。
南部博士の頭脳と彼らの判断力・行動力によって、これまで数々の敵を倒して来た。
今回もそうでなければならない。
月を引力で地球に引き寄せるなど、あってはならない事だ。
どれ程の被害が出るか眼に見えている。
いや、地球自体が無くなってしまう可能性が高い。
ギャラクターはそれを何かの脅しの種にしようとしているのか…。
粉々になった地球を手に入れても仕方がないだろう。
飽くまでも地球が欲しいのだ。
地球を滅ぼす為に現われた訳ではない筈だ。
ベルク・カッツェも、それを望んでいるとは思えない。
地球の支配者となるべく、次から次へと攻撃を仕掛けて来るのだ。
「よし、充分距離は離れた。
 レーダーで捕捉出来ているか?」
健がジュンを振り返った。
「大丈夫よ」
「竜、ゆっくりと追ってくれ」
「ラジャー」
レーダーの点滅は、メインスクリーンにも映し出された。
敵はイルメウス高原に向かっているように見えた。
「このまま行くとイルメウス高原ね」
「まだ解らないぞ。油断はするな」
「解っているわ。任せてよ」
ジュンに任せておけば間違いはない。
ジョーは任務の疲れを癒す為に、レーダーを彼女に譲っていた。
「間違いない。イルメウス高原よ。
 動きが止まったわ」
「そのようだな。竜、低空飛行で近づき、近くに着陸するんだ」
「解った」
ゴッドフェニックスは着陸態勢に入った。

イルメウス高原に降り立った科学忍者隊は、それぞれ用心しながら先へと進んだ。
「見て!」
ジュンが指差した方角を見ると、山の間に何やら空に向かって電波発信機のような物が設置されている。
かなり大規模だ。
巨大なパラボラアンテナのような物が3つ並んでいた。
「さすがにこれは基地の中には隠せねぇな」
ジョーがニヤリと笑った。
「さっさと爆破してしまおうぜ」
「そうだな。ジュンと甚平はアンテナの爆破を頼む。
 ジョーと竜は俺と一緒に、基地内へ潜入する」
「ああ、いいとも」
「おらも行けるんか?有難い。
 でも、こう言う時に限って山登りかえ?」
いつも留守番で退屈している竜が不謹慎な事を言ったが、健は捨て置いた。
「行くぞ」
3人は、山の頂上を目指した。
ジュン達がパラボラアンテナを爆破したら、科学忍者隊の潜入に気づかれる事になる。
油断は禁物だった。
此処は敵の城だ。
何処から敵が現われるか予想も付かない。
山の頂上に上がるまでも監視カメラがいくつか仕掛けられていた。
それをやり過ごして、3人は頂上まで後少しと言う処まで迫った。
『健、爆破準備OKよ。
 1分後に爆発するわ』
「解った!こっちに合流してくれ。
 ギャラクターが沸いて出て来る筈だ。
 気をつけてな」
『ラジャー』
「さて、こっちも要注意だ。カウントダウンだぜ」
ジョーが呟くように言った。
その時、『ドーン』と言う大きな爆発音と共に、激しい揺れが暫く続いた。
ギャラクターが一斉に飛び出して来た。
「アンテナがやられた!」
「一体どうしたんだ?」
それぞれに騒いでいるが、まだ科学忍者隊の侵入に気づく者はいなかった。
それだけあの鬼型メカ鉄獣のスピードに自信を持っていたのだろう。
「まさか、科学忍者隊?」
「どうやって此処まで辿り着ける?
 事故じゃないのか?」
暢気な会話をしているギャラクターの隊員達の前に、3人はひらりと舞い降りた。
「残念だったな。科学忍者隊だ」
健が言った。
「ど…、どうして此処へ?」
「馬鹿!いいから撃て!」
マシンガンが火を吹いた。
ジョーはマントでそれを防ぎ、羽根手裏剣を用いて、敵の手の甲を見事に貫いて行った。
取り落とされたマシンガンが暴発して、敵の中に更なる混乱を発生させる。
その間にも、エアガンの三日月型キットを使って、敵兵の顎を打ち砕く。
ジョーの動きはいつでも的確だった。
「中へ潜入するぞ」
健の声が聴こえた。
「ラジャー」
と答えたジョーの瞳には闘志が沸いていた。




inserted by FC2 system