『月蝕(4)』

基地の中へと突入すると、早速敵のマシンガンの洗礼にあった。
素晴らしいスピードでそれを掻い潜りつつ、ジョーは敵兵の手の甲へと羽根手裏剣を浴びせていた。
回転して、長い脚を振り子のように敵兵へと当てて行く。
その衝撃で敵がぞろりと倒れて行く。
ジョーは一旦沈み込んだと思ったら、その勢いでジャンプをし、敵兵の頭をエアガンの三日月型キットで狙い撃ちした。
頭にもろにそれを受け、敵兵が「うぎゃあ」と言いながら気絶して行く。
その瞬間にはエアガンはもう腰にある。
ジョーは勢い良く敵兵の鳩尾にパンチを喰らわせた。
敵兵が唸りながら倒れて行く。
そのまま脚を後ろに蹴り出す。
彼は後ろを見てはいない。
見もせずに脚を蹴り出して、敵兵を倒している。
気配だけで敵を感じる事が出来るのだ。
これも訓練と実戦を積んで来た賜物だと言えるだろう。
闘いの勘に秀でているのだ。
姿を見ずとも、敵の位置を把握しているのである。
ジョーはまた羽根手裏剣を無造作にばら撒いた。
そう見えるのが彼の芸術的な処だ。
見事に全てが当たっているのだ。
指先のちょっとした感覚で羽根手裏剣の行き先をコントロールしている。
そんな事が出来るのも、彼が密かに黙々と訓練を積んで来たからに他ならない。
勿論、天性の才能もあったのだろう。
優れた身体能力と動体視力、そして、敵の動きを読む力が卓越していた。
その為に、羽根手裏剣をより正確に敵に当てる事が出来るのである。
ジョーは腰を捻って、自分の後方から襲い掛かろうとしていた敵兵の首に肘を掛け、そのまま引っ張るようにして投げ飛ばした。
敵は仰向けにひっくり返って、動けなくなってしまった。
次から次へと襲い掛かる敵を恐れもしない。
自分の身体能力を過信している訳ではないが、ギャラクターの下位隊員達に遅れを取る事はまず有り得ない。
ジョーに張り飛ばされる為に存在するのかと思う程、敵兵の数は多く、そしてやる気はないに等しい。
昇格を餌に頑張っている者も中にはいるが、大体はダラダラと楽をして済まそうとしている者が多いのだ。
ギャラクターは隊員の教育を誤ったのだろう。
大体、隊員を見殺しにして自らが率先して逃げ出すようなベルク・カッツェを本当に崇拝している者がどの位いるのか、とジョーは思った。
カッツェの本当の姿を知っている一部分の人間は、愛想を尽かしているに決まっている。
カッツェを崇拝しているのは、現実を知らない者達だけに違いない。
ジョーはエアガンの三日月型キットで、敵兵を纏めて薙ぎ払った。
綺麗に並んでいてくれるから、これが上手く行く。
並んでいると言う事は、闘う意志を持っていないのだろう。
攻撃する気があるのなら、もっと自由に出て来る筈だ、とジョーは考える。
闘う意志を持たぬ者に攻撃を仕掛けても仕方がないのだが、放っておけば集団として動く可能性があるので、攻撃をする。
「間抜けな奴らめ…」
ジョーはチッと舌打ちをしながら、敵兵を倒して行った。
彼の動きは演舞を見ているかのように隙がなく、流れに乗った綺麗な動きで敵兵を倒す。
武器の使い方に淀みがない。
自然に使い、自然に振舞っているのだ。
それが当たり前の事ではない事は、見ていて良く解る。
身体に武器が染み付いている。
武器が身体の一部になっているのだ。
彼の肉体は全身が武器であるとも言える。
どこの筋肉も無駄にはせず、全身を使って伸び伸びと闘っていた。
また羽根手裏剣が飛んだ。
先の道が拓けて来た。
「健!」
「ああ、みんな行くぜ」
「ラジャー」
追い付いて来たジュン達も合流し、先へと進む事になった。
敵兵はまたぞろ現われて来る。
ジョーは容赦なく、倒した。
勿論殺したりはしない。
羽根手裏剣でも、出来るだけ手の甲や腕を狙うようにしている。
喉笛を突く時は緊急時だけだ。
エアガンで撃ち抜いても、一時的に身体が痺れて動けなくなるだけだ。
だから、敵の隊長に『おもちゃ』と揶揄された事もある。
だが、これが南部博士の意志であり、科学忍者隊の手を汚させない事に繋がっていたのだ。
ジョーはまた長い脚を使って回転した。
敵兵を一気に足払いする。
バランスを崩して倒れた処を構わずに通り過ぎる。
そうして、彼らは先へと進んで行った。
もうパラボラアンテナは爆破した。
基地の司令室にもその事は知れ渡っている筈だ。
何が待ち構えているか解らない。
「竜。やっぱり戻ってゴッドフェニックスで待機してくれるか?
 敵のメカ鉄獣が出て来る可能性がある」
「じゃが、火の鳥に弱いような奴じゃろう?
 早く見つけて爆破してしまえばいいんでねぇの?」
「それもそうだが、俺達がメカ鉄獣の在り処まで辿り着く前に、出動してしまったらどうする?」
健の言葉に竜は納得した。
「解った。至急戻って待機するぞい」
「頼んだぞ」
健はもう戻る竜を振り返らなかった。
先だけを見据えている。
「ジョー、行くぞ」
「おう」
「ジュン、甚平。油断をするな」
「解ってるわ」
「よし、行こう」
科学忍者隊の4人は更に先へと進んだ。
「そろそろおいでなさる頃だぜ」
ジョーが呟いた。
チーフ級の隊員か、隊長が現われると彼は予言しているのだ。
いつものパターンだとそうなる。
しかし、今回は違っていた。
基地内には罠が張り巡らされていた。
「罠で俺達を嵌めようとしているとは、馬鹿にされたもんだな」
ジョーはそう言いながら、床に空いた穴を逃れて、エアガンのワイヤーで天井の配管にぶら下がっていた。
健を片手で支えている。
ジュンと甚平も同様にジュンのヨーヨーでぶら下がっていた。
反動を付けて穴の向こうへと渡る。
今度は空かさず壁から刺が現われた。
これも素早く駆け抜けて全員が無事にいなした。
次は天井から蔦だ。
これは健がブーメランで根こそぎ切り落とした。
「どこかに罠の制御装置がある筈だ…」
ジョーはそう言って、壁を見回した。
のんびりしている暇はない。
その間にも、壁からマシンガンが飛び出して来て、弾雨に襲われた。
マントで防ぎながら、そこを通過する。
「赤外線装置でタイミングを合わせているのか?」
ジョーは呟いてから、それを足元に見つけた。
即座にエアガンで破壊する。
その先にも同じような装置が付いているのが見えた。
それもエアガンで狙い撃ちした。
「こうして進めば、罠は出て来ねぇぜ」
「ジョー、良くやってくれた。
 先を急ごう。
 もしかしたら、月に建造中の装置をこちらから破壊する事が出来るかもしれない」
「どうやって?爆破は無理だろう。
 装置を止める方法があるかもしれねぇって言うのか?」
「そうだ。発信装置があるのなら、制御装置もあるだろう。
 ギャラクターに本気で地球を破壊するつもりがなければな」
「成る程。流石はリーダーさんだ」
ジョーは健の言っている事に納得した。




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