『月蝕(5)』

ジョーの機転で罠を抜け出した科学忍者隊の5人は、更に先へと進んだ。
「この基地には地下もあったぜ。あっちにも誰か行った方がいいんじゃねぇのか?」
先程の落とし穴からチラリと見えた中には、ギャラクターの隊員や何かの機械類があるのが見て取れていた。
「こっちから行ってやるってのも手だぜ」
ジョーは先に進む事だけがやるべき事ではないと言下に言っている。
「それもそうだな」
健は考え込んだ。
「ジョーとジュン。行ってくれるか?」
「モチよ〜。任せておいて」
健と組めなくてガッカリしている風を見せずに、ジュンが答えた。
「ようし、ジュン、行くぞ!」
「ラジャー」
ジョーとジュンは来た道を引き返した。
先程罠を張り巡らす赤外線装置を破壊してあったから、スイスイと行けた。
「あそこだ」
落とし穴は開いたままだった。
ジョーが赤外線装置を破壊したから、制御が効かなくなったのだろう。
2人は構わずにその穴へと飛び込んだ。
着地をすると、眼の前にカッツェが立っていた。
「よくも、パラボラアンテナを破壊してくれたな?」
「貴様ら本当に地球を破壊するつもりはない癖に何を言ってる?
 月を引力で引き寄せたら地球が粉々になるって事ぐれぇ、解っているだろうによ」
「解っておる。だが、総裁X様の命令なのだ。
 我々が何を引き換えに要求するつもりだったのかは、解っておろう」
「ああ、解っているとも。
 地球の征服を目論んでいる事ぐれぇな。
 今までの破壊行動で解らねぇ訳がねぇ」
「その通りだ。コンドルのジョー君。
 これからパラボラアンテナを再建するのだ。
 邪魔はやめて戴こう」
「ジュン、危ねぇ!」
ジョーが呼び掛けてジャンプした。
鎖が4本ずつ、それぞれに向かって飛び出して来た。
ジョーはそれを羽根手裏剣で切り裂き、ジュンはヨーヨー爆弾で破壊した。
「くそぅ、やってくれるじゃないか」
カッツェが歯噛みした。
「あれを見よ!」
カッツェが指を差す先には、先程別れた竜が鎖で磔になっていた。
「すまん…。ジョー、ジュン…」
青菜に塩の竜が本当にすまなそうに謝った。
「くそぅ。人質を取るとは卑怯だぞ!」
ジョーが叫んだ。
ジュンは竜を助ける為の間合いを計っていた。
その時、ジョーの表情が動いた。
白い影が竜の近くからチラリと見えたのだ。
「ジュン。健が来ている。竜は大丈夫だ」
ジョーは含み声でそう言って、カッツェに向かってジャンプをした。
その時、カッツェが拳銃を発射した。
バードスーツは、拳銃の弾丸ぐらい跳ね飛ばす事が出来る。
だから、ジョーは構わなかった。
だが……。
「ぐっ……!」
ジョーの腹部からボタボタと血が滴った。
「どうやらこの特殊弾はそのスーツを通過するようだな。
 隊員全員のマシンガンに装備する事にしよう」
「今は、間に合いはしねぇ、だろう…。
 こっちだって、俺の身体から摘出された、弾丸を研究して、バード、スーツを改良、する、筈だ……」
「ジョー!」
ジュンがふらついたジョーの身体を支えた。
「大丈夫だ。大した事はねぇ」
「でも、出血が…」
「今は俺の心配をしている時じゃねぇぜ」
ジョーは竜を見上げた。
健と甚平が救出していた。
何よりも月にある装置を制御するコンピューターを探して、破壊しなければならない。
それさえ済めば、こちらにあるパラボラアンテナをいくら作り直した処で、どうにも出来ない筈だ。
健の読みが当たっていれば、その装置はこの基地の中にある。
『ジョー、大丈夫か?メカ鉄獣は俺と甚平が爆弾を仕掛けた。
 そろそろ爆発する頃だ』
「そいつは良かった。竜が此処にいるから、どうなる事かと、思った、ぜ……」
ジョーは苦しげに息を吐いた。
「敵の隊長が出て来るぜ。
 ジュン、俺に構うな」
「でも……」
「今はそれ処じゃねぇ、って言っただろ!」
ドーン、と衝撃音がした。
「何だ?」
カッツェが確認している。
「鬼型メカ鉄獣が爆破されました!」
「警備が手緩い!火には弱いのがあのメカ鉄獣の欠点だったのに…。
 改良が間に合わない内に総裁X様が出動を命令されるからだ!」
やはりゴッドフェニックスから逃げていたのは、火の鳥になられる事を恐れていたのである。
その激し過ぎるとも言うべきスピードで、逃げ切れる筈だった。
なのに科学忍者隊は此処にいる。
「何故、あのメカ鉄獣を追って来れたのだ?」
カッツェが訊いた。
「特殊弾を使って、メカ鉄獣にレーダー、に反応する、液体を掛けたのさ。
 ゴッドフェニックスは、ゆったりと追って、来れば良かった…」
ジョーは腹部を抑えながら言った。
弾丸はそれ程奥までは達していない。
バードスーツがクッションの役割を果たしたのだろう。
しかし、軽症だとは言えなかった。
弾丸が胃腸に達していれば、腹膜炎を起こす可能性もある事を、ジョーは知っていた。
彼の厚い腹筋を以てしても、恐らくはそれは防げていないと考えられた。
傷の痛みに耐えながら、この衝撃音を切っ掛けに隊長が出て来るであろう事を、ジョーはすぐさま感づいた。
案の定、バズーカ砲を担いだチーフ達を引き連れて、鬼のような姿をした隊長が現われた。
メカ鉄獣にコンセプトを合わせているのだろう。
「カッツェ様。パラボラアンテナの前線におりましたので、遅くなりました」
「挨拶はどうでもいい。早くやれっ!」
「畏まりました」
礼儀の良い隊長である。
本気でカッツェを敬愛しているらしい、とジョーは思った。
そこへ健、甚平、竜が舞い降りて来た。
健はジュンが肩を支えるジョーを見た。
「ジョー、竜と一緒にゴッドフェニックスに戻っていろ」
「カッツェを、眼の前にして、そんな事が、出来るか?」
「戦闘員としては、退却も重要な任務だぞ」
「こればかりは、リーダー様の言う事は聞けねぇ……」
健は呆れたようにジョーを見た。
これ程の傷を受けながらも闘志は失っていない。
「失血死するぞ」
「その前に決着を着ける」
「解った。勝手にしろ」
健の答えに、ジュンが「健!」と窘めるような声を出したが、健は黙って首を振った。
何を言っても聞かないジョーだと言う事は、誰もが知っている事だった。
鬼の姿をした隊長は、ジョーが傷を受けている事に眼を止めた。
「ほう、手負いが一匹いるな…。
 俺は手負いを最初に斃すような卑怯な真似はせん。
 他の者、出て来い」
意外とフェアな隊長だと、皆が感心した。
しかし、カッツェは違った。
チーフ連中にジョーを痛めつけろ、と指示を出した。
健が隊長の前に出た。
それを囲むように、ジュン、甚平、竜が並ぶ。
そして、ジョーは、2人のチーフにバズーカ砲を突きつけられた。
彼はまだ辛うじて立っている。
これを避けて挽回する方法はある筈だ。
ジョーの額を汗が流れ落ちた。




inserted by FC2 system