『月蝕(6)/終章』

ジュンがジョーの危機的状況に気づいた。
しかし、ジョーは軽く首を振った。
両手には何時の間にかペンシル型爆弾が握られている。
右手の物を左側にいるチーフに、左手の物を右側にいるチーフに、それぞれバズーカ砲の砲門に向かって投げつけ、ジョーはそのままバック転した。
傷口に障る事は解っていたが、そうせざるを得なかった。
前方では、健が鬼の姿をした隊長と丁々発止やっている。
その最中にバズーカ砲が暴発して、チーフが倒れ込んだ。
「ほう。手負いの鳥はなかなかやるな」
隊長がチラ見をしてそう言った。
「今の相手は俺だぞ」
健が鋭い眼をして注意を引いた。
「解っている」
隊長は棍棒を持って、健に襲い掛かった。
ジョーは気絶寸前のチーフを締め上げていた。
腹部の傷からはボタボタと血が流れ落ちていたが、そんな事は気にしていなかった。
1人は既に意識を手放している。
もう1人の喉元を引っ張るようにして脅しを掛けた。
「月にある装置を誘導する制御装置はどれだ!?」
ジョーはそのコンピューターの在り処を聞き出した。
様々なコンピューターが並ぶ中に、特別なブースが設置されているのが解った。
そこだけ透明な扉が付けられ、中に入って操作するようになっていた。
そこにまさにカッツェが入ろうとしていたのを、霞んだ眼でジョーは見た。
今、制御装置をどうにかした処で、月にある装置は完成していない筈だ。
カッツェは何をするつもりなのか?
ジョーが訝しげにそちらへ歩こうとすると、カッツェはそこからヒュッと音を立てて、消えてしまった。
「くそぅ。脱出装置も兼ねていたのか……」
ジョーは歯噛みをして悔しがった。
しかし、もうどうにもならなかった。
早く手持ちの爆弾で、この装置を爆破しなければならなかった。
「ジョー!」
ジュンがやって来た。
「爆弾の事なら私に任せて。これが制御装置なのね」
「ああ、奴の言う事が嘘ではなかったらな」
「解ったわ。下がっていて」
ジュンが手早く爆弾を仕掛けた。
ジョーはその間に敵のマシンガンを奪い取り、他のコンピューターを撃ち始めた。
コンピューターが悲鳴を上げ、ブスンと鈍い音を立てて、止まった。
ジュンの爆弾も間もなく爆発し、制御装置は無事に破壊する事が出来た。
その間に、健は甚平と竜が見守る中、隊長に苦戦していた。
ジョーは傷の痛みと失血による意識混濁に耐えながら、じっとそれを見ていた。
外から見ていると敵の弱点が解ったりするものだ。
「健、棍棒を上げた時に動体に隙が出来てるぜ」
ジョーはブレスレットに語り掛けた。
『解った!』
健はジョーの助言を聞き、狙いを絞ったようだった。
それから決着が着くまでに、数分も掛からなかった。
ブーメランが華麗に舞い、敵の隊長の脇腹を強かに打った。
隊長はぐらりと倒れ込んだ。
ジョーはそれを見るとホッとしてふらついた。
「ジョー、しっかりして!」
ジョーの身体を支えていたジュンが、崩れ落ちたジョーをそのまま危険がないように床に寝かせた。
「怪我をしているのに、無茶しやがって」
健の冷たい声が降って来た。
仕方がない。
健はジョーに撤退命令を出したのだ。
「すまねぇな、リーダーさんよ」
ジョーは弱々しく笑った。
「とにかく…、俺の身体に、めり込んでいる、弾丸を早く、研究して貰って、バードスーツを強化しないと、大変な事になるぜ…」
「解っている。すぐに基地に戻ろう」
健はジョーを運ぶ為に竜を呼んだ。
ジョーはもう自力で歩ける状況ではなかったのだ。
「そんな中、良くチーフ2人を倒したな」
健が言った。
「お前には本当に閉口する。
 その意地が生命取りにならないよう、気をつけろよ」
健は苦笑した。

三日月基地に戻って、ジョーの手術は行なわれた。
本人が予想した通り、腹膜炎を併発していたので、剥離に時間が掛かった。
だが、弾丸も無事に摘出し、点滴をする事でジョーの体力は徐々に回復するだろう、との事だった。
ジョーは痛みに顔を顰(しか)めていたが、仲間達が病室にやって来ると、平静を装った。
まだ顔色が悪い。
「ジョー、顔色が悪いわよ。
 私達もすぐに帰るようにするから、大人しく寝ているのよ」
ジュンが子供をあやすかのように言った。
「それにしてもバードスーツを突き破る弾丸を開発していたとは、ギャラクターの科学力は凄い物がある。
 その力を別の方向に使えたらいいのにな」
「そう思っている隊員は必ずいる筈だ。
 あの隊長ももしかしたらそうだったのかもしれねぇぜ」
「フェアな隊長だったな…」
「基地の爆発に巻き込まれて死んだだろう。
 残念な事だ」
ジョーはさすがにあの隊長に少しだけ同情していた。
手負いのジョーには決して手を出さなかった。
ギャラクターの隊長のやり口ではなかった。
「ギャラクターにもいい奴がいるかもしれない、って事だね」
甚平が言った。
「その通りじゃが…。いざ闘いとなったら、そうも行かんわい」
竜が溜息と共に言った言葉が全てであった。
そう、ギャラクターに身を窶している以上、科学忍者隊としては倒すしかないのである。
その中にどんなに気骨のある人間がいたとしても……。
今回の事件は、ふと、胸が痛くなる出来事だった。
あの隊長の人柄が悪くなかっただけに、それを死に至らしめた自分達の任務とは何だろう、と言う疑念が浮かび上がっていたのだ。
「だがよ。俺達はやるしかねぇ。
 ギャラクターにいる時点で俺達にとっては、倒すべき敵なんだ。
 違うのか?
 奴だって、カッツェに心酔していやがったんだぜ!」
ジョーの声が大きくなった。
「ジョー、傷に障るわよ」
ジュンがそっと窘めた。
「ジョーの言う通りだ。俺達は悩んでいる時じゃない。
 ギャラクターの野望を食い止める為には、やるしかない」
健が言った。
その言葉にそれぞれが頷いた。
「そうだ。やるしかねぇんだ。
 地球の人々を容赦なく殺戮して来たギャラクターを野放しには出来ねぇ」
ジョーは決意を新たにしたかのように、ギラリと瞳を輝かせた。
早く回復してまた第一線に出てやる。
その時は容赦しねぇぞ。
彼は心に誓っていた。
例え、ギャラクターの中にはいい奴がいるのだとしても、ギャラクターに存在している以上は、闘わなければならない。
邪念を捨てる事だ、とジョーは思った。
自分はとっくにこの手を汚している。
直接的にも間接的にも。
いつか地獄に堕ちても構わねぇ。
それだけの覚悟をして、彼は闘っているのだから。




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