『海洋科学研究所(1)』

ジョーは南部博士を公用車に乗せて、海洋科学研究所まで足を伸ばしていた。
「帰りは遅くなる。タクシーでも呼ぶから、ジョーは帰宅しなさい」
「いえ、駄目です。タクシーだなんて、そんな危ない乗り物に乗っては行けません。
 何時になっても、待っていますから、呼び出して下さい。
 近くにサーキットもありますし、そこで時間を潰していますから」
ジョーはそう答えた。
南部博士を他人に任せてはおられない。
いつ、ギャラクターが襲って来るか解らないご時世である。
「いつも済まないね」
「そんな事ありませんよ。運転は俺の特技なんですから、俺がやるべきです」
「たまには他のメンバーに頼もうとは思うのだが…」
「構いませんよ。カーチェイスとなったら、辛うじて健ぐらいしか対応出来ないでしょう?」
「健はA級ライセンスを持っている。
 何か都合が悪い時は、そう言ってくれたまえ。
 健に頼む事も検討するつもりだ」
「いいんですよ。俺に『都合』なんて物が存在するとすれば、レース中の事だけです。
 それに、ギャラクターが出れば、レース中だの何だの言ってはいられませんからね」
「早くギャラクターが壊滅してくれると良いのだが。
 なかなかにしぶとい」
「ベルク・カッツェはあざとい奴です。
 奴を何とか倒さない限りは、ギャラクターは永遠に倒せないでしょう」
「うむ。そう言う事だな。カッツェの裏を掻かなければならない」
「ええ。俺達が束になって掛かっても、いつも奴の策略で見事に逃げられます。
 あいつさえ捕らえられたら……」
「メカ鉄獣には必ず脱出ポットが備えられていると言う事だ。
 そこを最初に抑えておくしかないだろう」
「でも、それがどこに隠されているか、我々には解りません」
「そうだな…」
話している内に、海洋科学研究所に到着した。
「では、博士。何時になっても構いませんから、必ず俺を呼び出して下さい」
「解った。頼むぞ」
そう言って2人は別れた。
ジョーはまさか海洋科学研究所の中で事件が起ころうとは思ってもいなかった。

海洋科学研究所の中に入った南部博士は、所長自らの出迎えを受けた。
「ようこそお越し下さいました」
「早速打ち合わせに入りましょう」
「少しコーヒーでも召し上がって、お疲れを癒しては」
「いや、コーヒーは打ち合わせ中に戴きましょう。
 時間がないのです」
「解りました」
所長は後ろにいた秘書に目配せをした。
秘書が礼を尽くして会議室に案内し、コーヒーを準備する為に部屋から消えた。
「さて、早速だが、過日のギャラクターが仕込んだ原油流出事故について、今後の対応策を練りたい」
南部博士が言った時、早くも秘書がコーヒーを運んで来た。
良い香りに誘われ、所長がすぐに一服した。
その時、所長に異変が起こった。
コーヒーカップを取り落とし、そのまま眠りに落ちてしまったのだ。
強い睡眠薬が入っていた。
南部は「何事か?」と叫んだ。
その時には秘書が首筋に拳銃を突きつけていた。
「き…君は?」
「ははははは。解らないのかね?」
そう言ったその声はベルク・カッツェのものだった。
「変装して乗り込んでいたのか」
南部は落ち着いていた。
「私をどうする?」
「此処にいて戴く。科学忍者隊を誘き出す絶好の餌になるからな」
「何と言う卑怯な真似を…」
「余計な事を言うと、血気盛んな私の部下が貴方を痛めつける事になる」
カッツェが秘書が身につけていた服を翻すように変装を解いた。
紫のマントが舞った。
それと同時にギャラクターの隊員達が10名程マシンガンを抱えて乗り込んで来た。
「これからギャラクターは国際科学技術庁に連絡を取る。
 科学忍者隊の生命を差し出せとな」
「馬鹿げている。科学忍者隊はそう簡単にギャラクターにやられる事はない」
南部博士は自信を持って言った。
自分の生命は奪われても構わない、とこの時覚悟を決めた。
「そうかな?南部博士の生命が掛かっていると解ったら、大人しく捕まるのではないかな?」
カッツェはどことなく楽しそうだった。
衛星中継装置が部屋に運び込まれた。
ギャラクターはそう言った装備も整っていた。
「国際科学技術庁の諸君。ご機嫌はいかがかね?
 此処は海洋科学研究所の一室だ」
カメラが部屋を舐め回すように撮影した。
眠っている所長も、椅子に縛り付けられた南部博士もその中に収められた。
「この通り、南部博士の身柄を預かっている。
 至急、科学忍者隊に連絡を取り、その生命を差し出せと言え。
 制限時間は30分後だ。
 解ったらすぐに科学忍者隊に連絡を取るのだ」
それだけ言って、カッツェは衛星中継を終わらせた。
国際科学技術庁では大騒ぎになっていた。
すぐにアンダーソン長官に連絡が行き、長官から直々に科学忍者隊に連絡があった。
たまたまテストパイロットの打ち合わせで基地に来ていた健が、それを聴いた。
「何て事だ…。解りました、長官。
 科学忍者隊はすぐに出動します」
『南部博士の生命を救ってくれたまえ。
 そして、狙われているのは諸君の生命だ。
 充分に気を付けてくれたまえ』
「解りました」
健は早速仲間達をブレスレットで呼び出した。
海洋科学研究所のすぐ近くにあるサーキットにジョーがいた。
「何だって?!海洋科学研究所にはさっき博士を送り届けたばかりだ。
 まだすぐ近くにいる」
『ジョー。1人で乗り込むのは危険だ。絶対に俺達が駆け付けるまで待機しているんだ』
「様子を見て来る。それぐれぇはいいだろう?」
『危険だぞ、ジョー!やめるんだ!』
「だが、放っておけるかよ?俺が敵地に送り届けたんだぜ」
ジョーは言い出したら聞かない事は健も良く解っている。
『気を付けろ。確実に罠だ』
「解ってるさ。俺達の生命を差し出せなんて、ふざけた事を言いやがって。
 急がねぇと博士の生命も危ねぇぜ。
 一番近くにいるのは俺なんだ」
『実は近くの遊園地にジュンと甚平もいる。
 2人と合流するんだ』
「そう言う事か。解った!」
ジョーはG−2号機をコースアウトさせた。
変身せずに海洋科学研究所の車寄せまで行き、駐車場にG−2号機を停めて、ジュンと甚平を待った。
「ジョー!」
すぐに2人はやって来た。
「とんでもねぇ事になったな。俺も中の事までは想定していなかった。
 飛んだ油断だったぜ……」
「ジョーが自分を責める事ではないわ。
 とにかく急ぎましょう」
ジュンの慰めも、ジョーには届いていなかった。
南部博士を危険な場所に送り込んでしまったと言う事が、胸に重く圧し掛かっていた。
3人は私服のまま、中へと乗り込んだ。
諜報活動をするには、バードスタイルにならない方がいい。
受付で止められたが、南部博士が会議室で捕らえられていると告げて相手が驚いている間に、中へと入り込んだ。
受付では、まだその現状を把握していなかったのだ。
「侵入者あり」と通報する前に、アンダーソン長官からの連絡が入り、南部博士が捕らえられているのが事実だと判明した。
所長も一緒だと言うので、係員達は大騒ぎになった。
『じきに科学忍者隊の諸君が駆け付ける筈だ。
 落ち着きたまえ』
アンダーソン長官の言葉に、もしやさっきの少年少女達が…、と思ったが、彼らはバードスタイルではなかった。
まだ科学忍者隊はやって来ていない……。
係員達は科学忍者隊の到着を心待ちにするのであった。




inserted by FC2 system