『海洋科学研究所(2)』

「会議室は最上階の17階だ!」
ジョーは受付の横を通った一瞬で案内板を見逃してはいなかった。
彼らは階段を駆け上った。
その会議室のどこかに南部博士が人質に取られている。
恐らくは南部博士程の人物を招き入れるのに当たって、特別会議室を用意しているに違いない、とジョーは思っていた。
その読みは当たっていた。
南部博士は確かに特別会議室に捕らえられていた。
それは国際科学技術庁長官のアンダーソン長官も、映像を観て確認していた。
その情報は、健に伝わっている。
「健。会議室がある階に着いた。
 恐らくは特別会議室を使っているだろうと思う」
『どうして解った?俺の処には今、アンダーソン長官からの連絡が入った処だ』
「南部博士程の人物を招くのに、特別会議室でなければ合わんだろう」
『相変わらずの勘だ』
健が苦笑いしているのが解った。
『俺と竜も急ぎ向かっている。
 踏み込むのは俺達が到着するまで待て』
「解ったよ…。中の気配はシーンとしているな。
 だが、人の気配はある。
 カッツェがいるかと思うとゾクゾクするぜ」
『絶対に3人で踏み込むなよ!』
「何か考えでもあるのか?」
『科学忍者隊の生命を差し出せと言われている以上、5人揃っていなければ奴らは満足しまい』
その時、ガラスが割れる音がして、男の悲鳴が聴こえた。
「健、悠長な事を言っていられなくなった。
 何かが起こっている。
 悪いが俺達だけで踏み込むぜ」
ジョーは2人を促して、「バード・GO!」と変身を果たした。
ガラスが割れる音を聞きつけて警備員達が現われた。
「あんた達は来るな!」
ジョーは警備員を止めておき、特別会議室のドアに体当りした。
そのまま転がり込む。
「表に来ているのになかなか入って来ないから、所長に犠牲になって貰った」
紫の仮面のベルク・カッツェが、澄ました顔で立っていた。
南部博士は椅子に括りつけられている。
「何て事だ!所長を投げ落としたって言うのか?
 俺達が全員揃うのを待っている間に!」
ジョーは拳を震わせた。
「酷い事を…」
ジュンもすぐに中に入らなかった事を悔いている。
「相変わらず卑怯だぜ、カッツェ!」
ジョーは怒りを滲ませた。
しかし、カッツェはにんまりと笑うだけだった。
「残りの2人はまだ到着せぬのか?」
「俺達3人はたまたま近くにいただけだ。
 他の2人も急ぎ向かっている。
 そうせっかちに所長を殺す事ぁなかったのに。
 許せねぇ、カッツェ!」
「おっと、こちらには南部博士と言う切り札がいる事を忘れて貰っては困る」
カッツェはニヤリと笑った。
「科学忍者隊の諸君。大人しく捕虜になって貰おうか?」
「俺達が捕虜になったら、南部博士を解放するのか?
 違うだろう!?
 貴様のような奴がそんな取引に応じる訳がない。
 博士と科学忍者隊、両方の身柄を確保して、殺そうと言うのだろう?」
「ちぇっ、きったねぇの!」
ジョーの言葉に、甚平は唾を吐きそうな顔をした。
「さて、簡単に俺達を殺せるかな?」
「ほざくな!早く縛ってしまえ!」
ジョー達は後ろ手にロープで縛られた。
しかし、この程度なら縄抜けは可能だ。
恐らくはこの後、鎖を巻いて牢獄へと押し込み、爆弾でも使うつもりなのだろう。
ジョーにはカッツェのする事が読めていた。
博士共々科学忍者隊を一網打尽にする良いチャンスだと思っている。
「南部博士の拘束を解け。
 俺達が縛られたんだ。
 博士はおめぇ達に乱暴を働いたりはしねぇ」
「そうは行くか。まだ残り2人がやって来る」
カッツェは油断ならなかった。
しかし、ジョーは話をして時間を稼いでいる間に、縄抜けを成功させていた。
くるりと床に一回転し、羽根手裏剣を2本放った。
南部博士を拘束していたロープが見事に博士を全く傷つける事なく、切れた。
その時には、ジョーはカッツェの横にいて、南部博士を自分の身体で庇うように立っていた。
そして、カッツェにエアガンを突きつけていた。
ジュンと甚平も縄抜けをして、カッツェを囲むように、3人は配置に着いた。
その時、健と竜も到着した。
「科学忍者隊が全員揃ったか?
 残念だ。こんな事になるとは……」
カッツェがそう言ったかと思うと、部屋自体がいきなりゴゴゴゴゴと音を発した。
壁が割れ、檻が現われた。
この部屋自体が檻に改造されていたのである。
カッツェは入口付近に立っていた健を突き飛ばし、外に出た。
外側から自動的に鍵が掛けられる。
そして、部屋毎空中に浮かんだ。
窓の外には、メカ鉄獣の爪らしい物が見えている。
どうやらこの建物は勝手に乗っ取られていたのである。
警備員もいた筈なのに、どうやって改造したのか?
ギャラクターの科学力には全く恐れ入る。
「とにかく、俺達はカッツェの思惑通り囚われてしまったって事だな…」
健が呟いた。
メカ鉄獣に掴まれて建物を破壊しながら分離された檻は、どこかへ飛びながら運ばれて行く。
「どうやらギャラクターの基地に連行だな」
ジョーが言った。
「いいじゃねぇか。連れて行って戴くとしようぜ」
「だが、南部博士を無事に助け出さなければ…」
「済まない、諸君」
博士が漸く口を開いた。
「所長にも気の毒な事をした。
 カッツェが所長の秘書に変装していたのだ」
「成る程。カッツェがやりそうな事ですよ」
健が南部博士を慰めるかのように言った。
「これからどうするかは、基地に到着してから考えよう。
 この鍵を開けるにしても、今は適切じゃない」
健の言う通りだった。
空を運ばれている時に鍵を開けるのは得策ではなかった。
科学忍者隊は何とかなっても、南部博士が吹き飛ばされる危険があった。
檻はほぼ剥き出しの状態だが、所々にはまだ壁の素材が残っている。
檻の中にも、天井や壁が崩れ落ちた破片がどっさりと溜まっていた。
南部博士は科学忍者隊のマントに守られて無事だったのだ。
「私と科学忍者隊を抹殺する為に、所長と海洋科学研究所の建物を犠牲にするとは…。
 恐らくは建物の中にいる人々にも犠牲者が出ている事だろう…」
南部博士は沈痛な面持ちだった。
「ベルク・カッツェめ。許せねぇっ…!」
ジョーはまた拳を震わせた。
「このまま大人しくくたばってなるものか!」
その拳を檻の鉄棒にガツンと当てた。
右手が痺れた。
しかし、手袋があるので、何て事はない。
ただ、怒りに任せて打っただけだ。
何の罪もない人々を自分達の為に犠牲にされた事が許せなかった。
「基地に着いたら、思いっきり暴れてやる。
 絶対に許さねぇ」
「ジョー、気持ちは解るが熱くなるな」
健は落ち着いていた。
「俺達がもっと早くあの部屋に入っていたら、所長の生命は救えたんだぜ!」
部屋に入るのを止めたのは、健だ。
でも、その事を言っても始まらないので、ジョーはそれ以上は口を噤んだ。
「ジョー。所長を巻き込んでしまったのは、この私だ。
 君が自分を責める事はないのだ」
南部博士がそう言って、ジョーを慰めた。
「それよりギャラクターがこれからどう出るのか?
 そっちの方が問題です」
健が言った。




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