『告げられぬ言葉』

羽根手裏剣は得意中の得意だ。
車の運転も任せとけ。俺はレーサーだ。
銃だって持たせりゃ一流だと思ってる。
だがよ、なぜかゴッドフェニックスだけは上手く操れねぇ。
竜に勝てねぇのはゴッドフェニックスの操縦と馬鹿力だけだな。
基地に帰還するゴッドフェニックスのレーダー席の前でジョーはフッと微笑った。
ああ、もう1つある。
あいつはコミュニケーション能力に優れてるな。
時々空気が読めねぇ事もあるけどよ。
あの大らかな性格は、俺には全く持ち合わせていねぇものだ。
いつも命令違反ばかりして、竜にはきっと内心で胡散臭がられてるだろうが、あいつは本当にいい奴だと思ってるぜ。

健はリーダーとして、立派に成長した。
レッドインパルスの死によって、一時期常軌を逸した事もあったが、いつしかそれを乗り越えて、あいつは人間として、科学忍者隊のリーダーとして一回りも二回りも大きくなったと思っている。
おめぇはそれでいい。
正しいと思った方向に躊躇わずに進め。
敵を前にして惑うな。
地球を救う為には、自分の手を汚さなければならねぇ事だってあるんだぜ。

ジュンは女の子なのに、俺達と同様に良く此処まで闘って来たよな。
そろそろ普通の女の子として生きさせてやりてぇ。
おめぇは健に恋をしている普通の女の子なんだ。
いつまでも闘いの中に身を置いている事はねぇ。
おめぇの幸せを心から祈ってる。
心配すんな。
俺があの世に行ったら、健を焚きつけてやるぜ。

甚平もまだあんなに幼いのに、惨いものも沢山見て来た。
ジュンと普通の仲の良い姉弟として暮らして欲しい…。
まだおめぇにはこれから描(えが)ける夢がある筈だ。
ちゃんと学校に行って、普通に恋愛をして、自分の力で幸せを築け。
その時、おめぇはジュンから独立出来るだろう。

どいつが欠けても科学忍者隊じゃねぇ。
俺の掛け買いの無い仲間達だ。
こんな事を言ったら、竜に笑われるだろうな。
だから…素直じゃねぇが、俺はそんな事は一切口にしないつもりだぜ。
『命令違反ばかりしてすまなかったな、竜』
こんな言葉が言える日は、きっと俺が死ぬ日まで来ねぇだろうよ。
しかし、どうやらその日は近そうだ……。
誰が欠けても忍者隊は成り立たねぇ、と思っていたが、ついに1人欠ける日が訪れる事になる。
俺にはもう時間がねぇ……。
もしも、輪廻転生と言う物が本当にあるのなら、闘いのない世の中に生まれ変わって、牧場で馬でも飼いながら安穏と暮らすのも悪くないだろうぜ。
そんな生活がこの俺に似合うかどうかは解らねぇがな……。

「…ョー、ジョー!聞いてるのか?」
リーダー様の声が俺の思考を中断させた。
「またお説教かい?」
俺はレーダー席で足を組んだまま肩を竦めて見せた。
「お前はいつも言葉が足りないんだ。
 ちゃんと自分の考えを説明してから行動してくれれば、誤解を受ける事もない。
 その事は自分が一番良く解っている筈だ」
「……かも、しれねぇな……」
立ち上がったジョーは珍しく否定をしなかった。
「だがよ、生憎俺は直情怪行型なんでね」
「全く心配ばかり掛けやがって!」
リーダーはプイっと横を向いて呟くと、キッと俺の方に向き直り、いきなり鳩尾を思い切り殴って来た。
俺は避ける事は容易に出来たが、敢えてそのままその鉄拳を受け、痛みに膝をついた。
健の方がその事に驚いていた。
俺が殴り返さなかった事にも……。
俺に対しては手加減しねぇからな、健は。
おめぇに殴られるのは何回目かな?
もしかしたらこれが最後かもしれねぇな。

すまねぇ、みんな…。
これが俺の生き方なんだ。
俺には1人で闘う方が向いていたのかもしれねぇな。
だが、悔しいが俺1人では此処までギャラクターと遣り合う事は出来なかっただろうぜ。
悪いが俺の生き方は今更変えられねぇ。
お前達の事は仲間として信頼しているし、公私共に良い友人達だと認識している。
しかし、俺は行かなければならねぇんだ。
クロスカラコルムへ。
おめぇ達ともそろそろお別れだ。
元気で暮らせよ。
ギャラクターが滅びて平和が来たら、おめぇらは平穏な人生を歩んでくれ。
……俺の分まで、きっと、な。

これが最後の搭乗かもしれないゴッドフェニックスの中で、ジョーはいつまでも自分の殻に閉じこもり、1人腕を組んでいた。




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