『海洋科学研究所(3)』

海洋科学研究所の建物から引き剥がされた檻は、山脈の方へと運ばれていた。
「おい、火山が見えるぜ。活火山だ。
 まさかあそこに檻毎落とす気じゃあるめぇな!」
ジョーが汗を滲ませた。
「その可能性は大いにある。
 諸君だけでも、竜巻ファイターで逃げるのだ」
南部博士が言った。
「何を言うんですか!?」
健が叱咤するように、叫んだ。
「元はと言えば、私が捕まってしまった事が原因だ」
「博士を救えなければ、俺達が海洋科学研究所まで駆けつけた意味がないんですよ!」
ジョーも叫んだ。
「そうです。博士を見殺しには出来ません」
ジュンも言った。
「そうだよ」
「おらもそう思う」
「確かに、逃げる方法は竜巻ファイターしかあるまい」
健が呟いた。
「どうやって?博士を連れてどうやって竜巻ファイターをする?」
ジョーが焦れた。
その通りだ。
どうやってそれをする?
その術は閉ざされている。
「博士を巻き込んででもやるしかないだろう」
「博士は大怪我をするぜ」
「だが、火口に落ちて死ぬよりはいい。
 俺達のマントで博士を受け止めるんだ。
 博士、苦しいかもしれませんが、どうか耐えて下さい」
健は今の内に博士に心構えをして貰おうとした。
「解った。助かる道が少しでも遺されているのなら、やるしかあるまい」
博士も了承した。
檻の中が熱くなって来た。
火口が近づいている。
今頃メカ鉄獣の中で、カッツェは大笑いしているに違いない。
「カッツェめ!我々が火口の中の溶岩に落ちて死ぬのをわくわくして待っていやがるんだろうな」
ジョーがギロリと眼を輝かせた。
「いいか、この檻の中で竜巻ファイターを発動させる事は極めて難しい。
 足場がしっかりしていないからだ。
 部屋の高さを考えると、甚平には少し無理な体勢になって貰わなければならないかもしれない」
健が言った。
「解ってる。多分おいらの頭が閊えると思うよ。
 兄貴とお姉ちゃんの肩に膝で乗ったらどうだろう?」
「それがいい。甚平、考えたな」
「へへん。こんな時こそ、この甚平様の賢い処を見せないとね〜」
「調子に乗るな」
ジョーがごつんと甚平の頭に拳を落とした。
火口から吹き上げる熱風を肌で感じるようになって来た。
「いいか、みんな、やるぞ!
 竜巻ファイターが解けた時に博士をマントで受け止めるんだ。
 博士、息苦しくなりますが、堪えて下さい。
 ジョー、竜。
 土台は足場が悪いので、責任重大だが、何とか頑張ってくれ」
「解ってる」
「解っとるわい」
ジョーと竜が同時に答え、フォーメーションを作った。
甚平が膝を折り、ギリギリ頭が閊えずに済んだ。
「確かに足場が悪いな。でも、やるしかねぇ」
「行くぞ!」
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平が掛け声を出した。
ジョーと竜が原動力となり、回転し始めた。
凄い勢いで、檻が破壊された。
南部博士は竜巻に巻き込まれた。
苦しい筈だ。
早く終わらせてやらなければならない。
健も、ジョーも、科学忍者隊の全員が焦っていた。
無事に盆地に着地をすると、全員がマントを広げ、落ちて来る南部博士をキャッチした。
博士は気を失っている。
眼鏡とポケットチーフは吹き飛び、ネクタイは激しく乱れ、ベストのボタンが引きちぎれていた。
だが、息はあるのが解った。
「怪我がないか心配だ。
 竜は残って、アンダーソン長官に連絡を取り、ドクターズヘリを送り込んで貰ってくれ。
 そのまま病院まで付き添ってくれ」
「健達はどうするんじゃ?」
「あのメカ鉄獣の中に侵入する。
 ゴッドフェニックスがない以上、中から攻撃する以外にない」
健の言う通りだった。
海洋科学研究所に駆けつけた時、竜は健が乗るバイクの後ろに乗って来たのだ。
それに、各自のメカもバラバラだった。
今更合体している暇はなかった。
「それしかねぇな。
 この辺りに基地はねぇのか?
 俺達を火口に落として殺そうとしただけか」
ジョーは辺りを見回した。
「上から見た限りでは、基地らしき建物は見当たらなかった。
 別の場所にあるか、山脈の地下に隠してあるか、どちらかだろう。
 まずはメカ鉄獣だ。あれを見ろ!」
火口付近を盛んに飛び回っている鳩のようなメカが見えた。
「あいつが檻を掴んで運んで来た奴だな。
 俺達がどうなったのか探ってやがるのか?」
ジョーがキッと睨みつけた。
「火口まで上がるぞ。奴の体内に飛び込めるチャンスだ」
「ラジャー」
竜を除く4人で行く事になった。
「竜、博士は任せた」
博士を抱き上げている竜に一言言い残すと、健達は火山へと登り始めた。

火山は暑かった。
それでも、バードスーツを着ているお陰で何とかなっている。
4人は急いで駆け上(のぼ)った。
メカ鉄獣が引き上げてしまう前に、乗り込まなければならない。
火口まで辿り着くと、全員が「バード・フライ!」と声を合わせて、ジャンプした。
鳥のように自由に飛んで、メカ鉄獣の左右の羽の部分に健とジュン、ジョーと甚平が別れて到達した。
羽が動く際に隙間が出来る。
そこからメカ鉄獣の内部に入り込む事が可能だ。
「竜を連れて来なくて良かったね。
 竜じゃこの隙間には入れないよ」
甚平が言った。
「おめぇ、さっきから随分余裕があるじゃねぇか」
ジョーは軽く皮肉った。
『ジョー。同時に入り込むぞ!』
「解った。合図してくれ」
ジョーと甚平は暫く待った。
鳩が羽を羽ばたかせた瞬間に『今だ!』と健の合図が来た。
2人は出来た隙間から入り込む。
ギャラクターの隊員が闖入者に驚いて、マシンガンの乱射をして来た。
ジョーと甚平は別れて、それぞれマントで身を守った。
「行くぜ、甚平」
「おいらに任しときな!」
甚平は何故か強気だ。
空回りしなければ良いが、と思いつつ、ジョーも自分の闘いに専念した。




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