『海洋科学研究所(4)』

ジョーは南部博士を海洋科学研究所に送る時に会話した内容を思い出していた。
メカ鉄獣には必ずベルク・カッツェの逃走用のロケットが装備されている、と言う話だ。
火口から飛び移る際に下から眺めてみたが、それらしき物は見当たらなかった。
解らないように作ってあるのだろう。
恐らくは乗り組んでいる部下達も知らないに違いない。
メカを設計する者と建造した者だけが知っている事実である。
意識して見ても解らない程の巧妙な隠し方で作られているのだ。
ジョーはそれを探し出せないのであれば、カッツェに着いて行くまで、と思っていた。
それがこれまでは出来なかった。
意表を突く場所からカッツェが消えるからだ。
奴の居場所を常に意識していてやる。
ジョーはそう決意しながら、敵兵と闘っていた。
「とうっ!」
ジャンプをしながら、敵に膝蹴りをお見舞いする。
「ぐえっ!」
鳩尾にそれを喰らった敵はぐにゃりと倒れた。
それを物ともせずに着地したジョーは、回転して長い脚で敵兵を攫った。
見事に何人もの敵を倒して行く。
ジョーは脚力が強いのだ。
その事は以前イブクロンの体内で竜を両足でキャッチした事でも解る。
ジョーのキックには敵兵も一溜りもなかった。
強い衝撃を受け、ぐらりと倒れる。
ついでに仲間達も巻き込んで倒れて行く。
手間が省けようと言うものだ。
ジョーは勢い込んで、羽根手裏剣やエアガンを使いながら、敵兵を切り拓いて行く。
甚平もそのすばしこさで敵兵を翻弄しつつ、頑張っている。
同時に反対側の翼から乗り込んだ健とジュンの姿は見えない。
それだけこのメカ鉄獣が巨大である事を如実に表わしていると言っても良い。
ジョーは敵の首の急所を手刀で打った。
たまらずに敵兵は崩れ落ちた。
暫くは意識を取り戻すまい。
彼は闘う為に様々な事を学んでいた。
そして、何よりも自分の身体がそれを染み付けたかのように、自由自在に動いてくれる。
敵兵を思った通りに攻撃する事が出来るのは、脳からの命令と身体の動きが同時でなければならない。
運動神経が優れている事は明白だが、それだけではない何かが科学忍者隊にはある。
動体視力、判断力、そう言った物を総合して優秀な者が集められたと言っていい。
ジョーは側転を繰り返しながら、敵を足払いにして行った。
スピード感が溢れている。
そして、彼自身には充実感があった。
敵と闘って身体を動かしている時は、サーキットで優勝した時と同じ位の充実感を伴った。
それはギャラクターを斃す事を信条としている彼だからこそ、なのだろう。
ギャラクターを斃し、両親の復讐を遂げる事が彼にとっては生き甲斐となっている。
南部博士にBC島から連れ出された後は、その為に生まれ変わったのだと思って生きて来た。
科学忍者隊と言う闘う場所を与えられて、ギャラクターの卑劣な行為を見るに付け、その気持ちは強くなって行った。
ギャラクターを斃す事が出来るのならば、この生命を投げ出してもいい。
そこまで彼は思い詰めているのだ。
ジョーはエアガンを腰から抜き、素早くワイヤーを伸ばし、三日月型キットで敵兵の顎を砕いた。
そのままそのワイヤーを使って、別の敵の首に巻きつけ、死なない程度に絞めた。
ワイヤーを引き戻すと、羽根手裏剣を放ってマシンガンを持つ敵兵の手の甲にピシュシュシュと音を立て、見事に当てて行った。
取り落とされたマシンガンが暴発する。
ジョーはそれを避けたが、「ギャーっ」と言う悲鳴が上がった。
隊員内で暴発するマシンガンの弾丸に撃ち抜かれた者が出たのだ。
自分を守る術を知らないからだ、とジョーは思う。
ギャラクターの隊員はそれ程訓練がなされているとは思えない。
優秀な者はチーフや隊長に取り立てられたり、ブラックバード隊、デブルスターと言った精鋭部隊に吸い上げられる。
一般兵はそれ程強くはなかった。
ただ、武器を持ち、適度に闘っていればいい、と言った感覚の持ち主が多いのだろう。
余りやる気が見えるようには思わなかった。
ベルク・カッツェに命令されて仕方なくやっていると言う感じがある。
隊長やチーフには従順なのも、同じ理由だろう。
だから、言われた事しかやらない。
そして、集団心理で、形勢が有利だとなると、勢い付くのである。
今は人数で押して来ている。
だから、勢い付いている処を、科学忍者隊にやられている格好だ。
そろそろ戦意を喪失し始める頃か、とジョーは思った。
しかし、油断はしない。
身体を沈め込み、敵兵の足払いをする。
そして、また闘いの渦へと飛び込んで行く。
相変わらず人数だけは無駄に多い。
メカ鉄獣にこんなにも乗り込ませて、良く重量オーバーにならないものだ、と妙に感心した。
『ジョー。機関室を発見した。これからジュンが爆破する』
「ラジャー。こっちはまだ何も発見出来ていねぇ」
『解った。何かあったら報せてくれ』
「おうっ!」
健達は早くも収穫を上げたようだ。
ジョーもカッツェの脱出ポッドを見つけるか、司令室を発見したい処だ。
「甚平。先へ進むぜ」
「OK!こっちはいつでも大丈夫だよ」
今回の甚平は何が根拠なのか解らないが、強気だった。
「張り切り過ぎるなよ」
「解ってるよ」
そんな会話をしながら、2人は進んだ。
ドーン、と音と振動がした。
ジュンが機関室を爆破したのだろう。
メカ鉄獣の飛び方が不安定になった。
行く先々で敵兵の数が減っている。
ジョーと甚平が切り崩して来たからだ。
先へ進むのに障害は殆どなかった。
通路の途中に扉があれば、全部開けて、エアガンを尖兵に転がり込んだ。
特別な部屋はなかった。
敵兵の待機部屋に使われている広い空間だった。
ジョーは甚平に指示をして、更に先へと進んだ。
「あの部屋だ!」
前方に大きな扉が見えて来た。
ジョーは直感的にそれが司令室だと踏んだ。
「健、恐らくは司令室だと思われる場所を発見した」
『解った。俺達もすぐに向かう』
ジョーは健の答えを聴くと、扉に体当たりをした。
やはり頑丈だった。
エアガンにバーナーを取り付けた。
丸く円を描くように焼いて行く。
鉄が焦げる嫌な臭いが充満した。
穴が空いて行く手応えがあった。
円を切り終わると、ジョーはエアガンを仕舞って、蹴るようにその部屋へと飛び込んだ。
まだ雑魚兵と闘っただけで何もしていない。
ジョーにはその焦りがあった。
(手ぶらで帰れるものかよ!?)
必ず何かの成果を得たい。
科学忍者隊として成果が上がっていればそれで良い筈なのだが、彼には彼の意地があった。
司令室に来た以上、今度こそカッツェを捕らえてやる。
その気持ちしかなかった。
カッツェを囲むように並んでいる敵兵の中に、彼は躍り込むようにして、闘い始めた。




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