『海洋科学研究所(5)』

ジョーは敵兵の渦の中に飛び込み、蹴散らして行った。
重いパンチを鳩尾に当て、返す刀で後方にいる敵の首筋に手刀を浴びせる。
その一連の動きが早過ぎて見えない。
風を切ったように残像が残っているだけだ。
素早い動きで、次の敵を捉えている。
今の敵に攻撃を加えている間に、次の相手を見極めているのだ。
その見切り力は素晴らしいものがある。
敵の手の甲や腕に、的確に羽根手裏剣を浴びせる。
指先の僅かな加減で、確実に標的を射止めている。
カッツェを守るように取り囲んでいる敵兵は少しずつ崩れて来ていた。
「科学忍者隊め。機関室をやりおってからに!」
メカ鉄獣の操縦は、困難を極めているようだ。
カッツェの足元が覚束無いのは、そのせいだった。
カッツェはもう逃げ出す事を考えているに違いない。
その時、ジョーはどこまでも追って行くつもりでいた。
だから、カッツェから眼を離す事が出来なかった。
どんな隙に逃げ出すか解ったものではない。
逃げ足が早いのがこの男の特徴なのである。
いつもそうして煮え湯を飲まされて来た。
脱出ポッドを見つけられなかった以上は、追って行くしかないのだ。
ジョーは闘いながらもその事に集中していた。
健とジュンが間もなく駆けつける筈だ。
よりカッツェに集中し易い状況になるだろう。
ジョーはその時をひたすら待っていた。
それまでに逃げ出す事がないように、と願っていた。
この場所に甚平だけを置いて行くような事にならないように。
甚平も科学忍者隊だ。
問題はないに違いないが、やはり心配だった。
今回は甚平のやる気が滲み出ているのが解るが、それが空回りしなければ良いが、とジョーは心配していた。
そんな心配は杞憂に決まっているが、チーム最年少の甚平については、何かと気に掛けてしまう。
闘いの中にあっては、年齢など関係ない。
甚平は一人前の科学忍者隊だ。
その事も解っている。
それでも、甚平を案じる本当の姉のようなジュンと同様に、実は兄のように心配しているジョーであった。
敵兵の人数はもう増えないようだ。
ジョーと甚平の活躍により、大分減って来ていた。
この司令室を爆破して、メカ鉄獣毎消し去らなければならない。
今回はゴッドフェニックスがいないのだ。
機関室の爆発は、誘爆を巻き起こしていて、少しずつこちらに近づきつつある様子だった。
そう思った時に、健とジュンが飛び込んで来た。
「ジョー、此処を爆破するまでもなく、誘爆が起きている。
 このメカ鉄獣はやがて爆発するぞ」
健が言った。
「聴いたか?カッツェ!
 貴様に逃げる道などもうねぇっ!」
ジョーはカッツェを挑発した。
「それはどうかな?」
カッツェがくぐもった声を出したと思ったら、口の中から小型爆弾を取り出し、床へと投げつけていた。
目晦ましのつもりであろう。
ジョーはそんな中、カッツェの行く末をしっかりと見つめていた。
「そこだ!健、後は頼む」
ジョーはカッツェがコンピューターの間の機械類の中に潜り込んだのを見逃さなかった。
彼も続いてそこに入り込んだ。
長いトンネルのようになっていた。
そこを滑り台を下りるかのように滑って行く。
カッツェが脱出用のロケットに到着しているのが狭い視界から見えた。
「逃がすものか!」
ジョーはそのまま脱出ポッドへと飛び込んだ。
「カッツェ!逃がさねぇっ!」
カッツェに飛びつこうとジョーは走り寄った。
しかし、透明な強化ガラスが張り巡らされていて、ジョーはそれにぶち当たってしまった。
そして、ジョーがいる足場は、カッツェのボタン1つで切り落とされた。
ジョーは真っ逆様に落ちた。
「くそぅ。カッツェめ!」
ジョーの叫び声を聴きながら、カッツェは北叟笑んだ。

ジョーはマントを広げ、滑空した。
先にメカ鉄獣から脱出していた健達が地上から見守っていた。
地上に無事に舞い降りたジョーの顔は燃え盛る仁王のようだった。
「くそぅ。寸での処で逃げられた」
「ジョー。悔しがるのはまだ早い。
 敵から基地の場所を訊き出したぞ」
「本当か!?」
「ああ」
ジョーが健と会話している間に、操縦の術を失った鳩型メカ鉄獣が、ドーンと音を立てて、山肌に墜落し、炎上した。
健はそれを振り返って見た後、ジョーに視線を戻した。
「怪我はないか?」
「ああ、大丈夫だ」
「カッツェはその基地に戻るかもしれない。
 俺達はこのまま乗り込む事にする」
「解ったぜ。まだカッツェをギャフンと言わせる機会が残っていて、俺は嬉しいぜ」
「ジョー。カッツェの脱出に良く気づいたな」
「海洋科学研究所に行く道で博士と話したんだ…」
ジョーはその時の様子を説明した。
「そうだ。博士はどうなっているだろうか?」
健はブレスレットで竜を呼び出した。
「竜、博士の容態はどうだ?」
『今、検査中だけんども、今の処骨折などの怪我はないようだわい。
 後は脳のCTを撮ると言う話じゃ』
「解った」
『そっちはどうなっとるんじゃ?』
「敵のメカ鉄獣を破壊した処だ。
 これから秘密基地へと潜入する」
『おらも行かなくていいんかいのう?』
「大丈夫だ。それより博士の事をくれぐれも頼んだぞ」
『ラジャー』
竜は恐らくバードスタイルのままでいる筈だ。
腕がムズムズするのも良く解ったが、健としては、今は博士の傍に誰かいて欲しかった。
「よし、敵の基地へ潜入するぞ」
「どこなんだ?近いのか?」
「案の定、この山脈の地下だ」
「すると、カッツェはいねぇかもしれねぇな。
 あんな大仰なロケットで逃げ出しやがってよ」
ジョーは地団駄を踏む子供のように悔しがった。
「そうかもしれない。
 だが、この基地は叩いておかねばならない。
 それに、さっき言ったようにこの基地にいないとは限らない」
健はジョーを宥めるかのように言った。
「解っているさ。この基地を叩かなければならねぇって事ぐれぇはよ」
ジョーは頷いて見せた。
「でも、カッツェはいねぇと思うぜ。
 多分どこかにある本部にでも逃げ帰ったんだろうぜ」
ちぇっ、と反吐が出ると言いたそうな顔で、ジョーは舌打ちをした。
「とにかく先を急ごう。
 博士の事も気になるし、この地下基地をきっちりと叩いて、ギャラクターに少しでも打撃を与えなければ」
「おう。行こうぜ」
ジョーは健の眼を見た。
ジュンと甚平も頷いた。




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