『海洋科学研究所(6)』

「此処だ」
健が示した場所は何の変哲もない岩だった。
岩の突起部分に手を当てると、岩が動いた。
そこが出入り口となっていたのだ。
「成る程、上手い事隠しやがったな」
ジョーは感心してしまった。
「行くぞ!」
健の掛け声に従って、4人は中へと飛び込んだ。
ギャラクターはまだ科学忍者隊の侵入には気づいていなかった。
メカ鉄獣がやられて右往左往しているような状況だった。
カッツェの怒鳴り声が聴こえて来るが、生の声ではない。
スピーカーを通したような声だった。
やはりジョーの予想通り、カッツェは別の基地へと逃げたのだ。
『何をしておる。
 機関室の警備をしっかりしろと言った筈だぞ。
 科学忍者隊が機関室・電力室を狙って来るのはいつものパターンだ。
 私の言う事を聞かぬからこう言う事になるのだ!
 私はまた総裁様に叱られてしまうではないか』
カッツェは部下に八つ当たりしている、とジョーは思った。
「しかし、カッツェ様。
 警備を強化したのは間違いありません。
 ですが、科学忍者隊にしてやられてしまったのです」
色違いの隊服を着たチーフがそう説明していた。
『馬鹿者!言い訳は通用せんっ!』
カッツェがスクリーンから消えたのを、4人は見た。
「けっ!自分だけ安全な処に逃げておいて。
 乗り組んでいた部下達は皆死んだと言うのに……」
チーフが呟く声が聴こえた。
ギャラクター内部にも、カッツェに不信感を抱いている者がいるのだ、と言う事が解った。
しかし、科学忍者隊に怒りの矛先が向く事は間違いない。
科学忍者隊がメカ鉄獣を爆破したのは紛れもない事実だ。
「ジュンと甚平は電力室に忍び込め。
 俺とジョーは中枢部に向かう」
健が配置の指示を出した。
「OK!任しといて」
ジュンがそう言い、甚平を連れてマントを翻した。
「行くぞ、ジョー」
「おう」
2人も行動を開始した。
まずは今、カッツェがスクリーンに映っていた講堂のような部屋に飛び込んだ。
まだ敵兵が多く残っていた。
健とジョーは臆さずにそこへと乗り込んで行った。
(カッツェめ。自分だけ逃げ出しやがって。
 部下にも不信感を募らせている奴がいる事を知らねぇのか?)
ジョーは内心で呟きながら、手始めに羽根手裏剣を散らした。
不意を突かれた敵兵が痛みに呻きながら、抱えていたマシンガンを取り落として行く。
まだ何事が起こったのか、理解していない顔だった。
「科学忍者隊だ!此処まで乗り込んで来やがった!」
そう叫んだのは、チーフだ。
「何故、此処が解った?」
「メカ鉄獣の乗組員に吐いて貰った」
健が答えると、チーフは唇をギリギリと噛み締めた。
「仲間を売った奴がおるとは…。
 貴様ら、皆、生温いぞ!」
チーフは喝を入れるかのように大音声で叫んだ。
それで敵兵の心が1つに纏まった。
このチーフ、なかなかやるな、とジョーは思った。
骨がある。
他の者とは違う気がした。
カッツェに不信感を抱いている事と、ギャラクターの組織にまだいる事は反比例している訳ではない。
奴の中では、同じ次元の事なのだ。
ジョーはそう思った。
チーフは手強いに違いない。
闘う意欲に溢れている。
そして、部下を鼓舞する能力に優れている。
カッツェのように自らは後方にいる、と言った事はないだろう。
自分から最前線に出て来るような男だ。
ジョーはこの男と闘ってみたくなった。
敵兵を羽根手裏剣で威嚇しながら、ジョーはチーフの前へとわざと出た。
「貴様、やる気満々って処か?」
チーフが唸るように言った。
「よし、相手をしてやろう。後悔するなよ」
自分は強い、と言っているのだろう。
自信がなければ言えない言葉だ。
ジョーにもそれは良く解っている。
「ジョー!」
健が飛んで来た。
「2人掛かりは卑怯だぜ。俺に任せろ」
「解った。任せる」
健はそう言って、ジョーの元を離れた。
ジョーの闘い振りを気にしながら、闘い続けるのだろう。
だが、健は見抜いていた。
ジョーなら勝てる、と。

敵のチーフは鎖鎌を手にして振り回し始めた。
なかなか威力がある。
ジョーは素早く避けたが、少し防戦気味になる程だった。
しかし、そうしながらも、敵の動きの癖を読んでいた。
どんな武器使いにも、癖はある。
ジョーはそれを見切るのに長けていた。
まずは攻撃をさせて、その癖を見切る。
それがジョーのやり方だったのだ。
敵のチーフはそれを誤解した。
健の読みはそう言った処にあった。
自信があり過ぎる為に、どこかに綻びが出る。
健はそう読んだから、ジョーに任せたのである。
「へへへ、防戦一方じゃねぇか」
チーフが下卑た笑いを見せた。
「そうかな?」
ジョーは落ち着いていた。
「どうだろうな」
これから反撃に出るぞ、と言わんばかりに、ジョーは淡々と答えた。
敵の鎖鎌の回転の仕方に一定のリズムがある事をジョーは見抜いていた。
そのリズムに乗って、エアガンのワイヤーを繰り出した。
鎖鎌の鎖とワイヤーが絡み合った。
ジョーはそれを引っ張った。
彼には膂力がある。
敵の手から鎖鎌を取り上げる事は、それ程大変な事ではなかった。
「最大の武器を失ったな。どうする?」
そう言った時には、ジョーは羽根手裏剣を敵の両手に打ち込んでいた。
拳銃を取ろうとした右手から、銃がポロリと落ちた。
「もう闘えねぇだろう。戦意喪失か?」
「笑わせるな!この位が何だ」
チーフは両手の甲から痛みを堪えながら、羽根手裏剣を抜いた。
羽根手裏剣には返しが付いている。
抜く時には更に傷を付ける事になる。
「豪胆な奴だな。褒めてやるぜ。
 拳銃を拾いな」
ジョーはチーフに拳銃を拾う余裕を与えた。
拾った瞬間にチーフは拳銃をジョーに向けた。
だが、思うようには取り扱う事が出来なかった。
「手の傷が邪魔をして、使えねぇだろう?」
ジョーが言った。
「畜生。何てこった!」
「俺は動けねぇ敵を倒す趣味はねぇ。行きな」
ジョーはそう言って踵を返した。
そこをチーフが拳銃で後ろから撃って来た。
ジョーは反射的に腰を捻り、敵のチーフの心臓目掛けてエアガンを発射した。
チーフがどうっと倒れた。
「仕方のねぇ奴だな」
ジョーはそう呟くと、雑魚兵達との闘いへと戻った。




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