『海洋科学研究所(8)』

敵の隊長はシャンデリアから羽を広げて降りて来た。
司令室は非常電源により、電力室の破壊による停電から免れていた。
隊長の身体には、鳩の羽のような物が背中から生えていて、滑空出来るようだ。
科学忍者隊のように自由に動けると言う事だろう。
更には羽は閉じる事が出来た。
科学忍者隊のバードスタイルと大差はないように思われた。
ただ、羽の素材は鳩そのもので、見るからに重そうに見えた。
隊長自身が罠だったのだ。
天井から科学忍者隊を狙っていた。
だが、それにジョーが気づいてしまったのだ。
「なかなか勘の良い小僧だ」
隊長はジョーの事が気になる様子だった。
「お前…。儂の罠を見抜いたな」
「ああ。解り易くシャンデリアの上に乗っていやがったからな。
 尤もあんた自身が罠その物だと気づいたのは、あんたが声を上げる直前だ」
「ふん。儂は気配を消していたのに、それに気づくとは大した奴だ。
 お前から料理してやろう。
 光栄に思って出て来い」
「へへっ、ご指名か。それは光栄だ」
「ジョー!」
健が逼迫した声を出した。
危険だと言うのだ。
そんな事は解っている。
「しかし、やらねぇ訳には行かねぇだろ?」
「………………………………………」
健は黙った。
言われるまでもなく、ジョーの言う通りなのである。
科学忍者隊のメンバーは、ジョーを囲むように、しかし、少し距離を置いた。
鳩の羽がまた開いた。
どうなっているのか、自由自在に動かせるらしい。
ジョーはその羽に注意しなければならない、と思った。
羽で打撃を与えて来るのか、それとも何かが仕掛けられているのか…。
ジョーは様子見をする為に、自分から仕掛けた。
まずは羽根手裏剣だ。
敵の羽に当たったが、ブスリと突き刺さっただけで、痛くも痒くもないようだった。
それはそうだろう。
この隊長は飽くまでも人間だ。
羽の部分にまで、神経が行っているとは思えない。
「けっ」
ジョーは敵の身体の本体部分か腕を狙うしかなかった。
だが、腕は羽に守られる。
すると正攻法で身体をエアガンで狙うしかないか、と考えた。
ジョーは回転して腰からエアガンを抜き、構えた。
すると敵は羽を羽ばたかせた。
「ぐっ!」
ジョーは呻いた。
羽には無数の銃口が仕掛けられていた。
そこからビーム砲が発射されたのだ。
ジョーの身体はビームで雁字搦めになった。
それが身体に喰い込んで来る。
その痛みが半端ではなかった。
ビーム砲はバードスーツを破り、肉を断った。
「つっ!」
ジョーは右腕の上腕と左脇腹を切られた。
堪らず血がボタボタと溢れ出る。
「くそぅ……」
腹部からの出血が酷かった。
「バードランっ!」
健が堪え切れずにブーメランを放った。
しかし、ブーメランではビーム砲の網は切る事が出来なかった。
「ジョー!」
成す術もなく、健は叫んだ。
ジョーは鋭い眼光で、隊長を睨んだ。
(この羽は何でコントロールされている…?)
意識が遠のきそうになる中、ジョーは必死に打開策を考えた。
その時、健がブーメランでシャンデリアを切って落とした。
ジョーは隊長が何事かと上を見上げた隙に、必死に足に力を込めて、後方に飛び退いた。
隊長はシャンデリアの下敷きになったが、まだ倒れた訳ではなかった。
すぐに起き上がって来た。
「貴様!儂と小僧とのお遊びを邪魔するつもりか?」
「彼は手負いだ。後は俺が相手をする」
「待っておれ。儂はこの小僧を斃す」
「健…。俺に、やらせてくれ……」
「その傷では無理だ」
「いや、やりてぇ……」
ジョーが意地になると、言う事を聞かない事は、健が一番良く知っている。
脇腹からは血が溢れて、床にそれを撒き散らしている。
本来なら意識が遠くなっても不思議ではない深手だった。
「許可出来ない。ジョー、解ってくれ」
健が眼を伏せたその時、ジョーは反転して隊長の鳩尾にキックを入れた。
「ほほぅ、まだやる気があるじゃないか。
 それだけ動ければ、儂の敵としては不足ではない」
隊長が不敵に笑った。
ジョーの重いキックが殆ど効いていなかった。
恐らくはジョーの体力が落ちているせいなのだろう。
ジョーは肩で息をしながら、敵の隊長を凝視した。
またあの技を喰らったら、一溜りもないだろう。
それだけは避けなければならなかった。
ジョーは敵の懐に飛び込む事にした。
距離を取っているから、技を使われるのだ。
ダダっと走って、敵の身体に密着し、エアガンを心臓に押し付けた。
「さあ、さっきの技を、やってみろよ……。
 自分自身も、巻き込まれるから、出来ねぇ、だろう?」
ジョーは不敵に敵の隊長を見下ろした。
羽のせいか随分と大きく見えたが、近づいてみれば、ジョーの方が背が高かった。
「小僧。なかなかやるな……。
 だが、儂には力もある。
 これで終わると思ったか?」
隊長は右腕でジョーの左脇腹の傷口をグリグリと痛めつけた。
「ぐっ!」
ジョーは余りの事に、唇から血を喀いた。
その拍子にエアガンが敵の身体から離れた。
喀いたと言うよりは、噴いたと言う方が当たっている。
それが幸いにして、敵の隊長の眼に入った。
「ううっ!眼が見えんっ!」
「眼が見えねぇと、闘えねぇのか?」
ジョーがニヤリと笑った。
「俺は暗闇でも闘えるぜ。
 条件を同じにする為に眼を閉じてやったっていい」
「ジョー!」
健が「何を言っている」と言わんばかりに、非難の声を上げた。
しかし、ジョーは意に介さなかった。
そして、眼を閉じた。
そうしておいて、エアガンをもう1度隊長に向け直した。
そのまま引き金を絞った。
眼を閉じているのにも関わらず、ジョーは狙いを見事に命中させた。
「うっ!」
隊長が呻いてどさりと倒れる音がした。
ジョーはそれを聴いて、初めて眼を見開いた。
安堵の表情を浮かべると、ジョーは膝から崩れ落ちた。
深紅の血が大量に流れ出て、彼の身体の周辺に拡がって行った。




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