『海洋科学研究所(9)』

「ジョー!大丈夫か?!」
健はジョーを抱き起こした。
「大丈、夫だ…」
言った傍から血を喀く。
「ジョー。肺をやられているのか?」
健がジョーのマントを広げて見た。
すると左胸に深い傷跡があった。
「大丈夫じゃないだろう?酷い傷だ。
 此処を爆破するまで我慢していてくれ」
「解ってる……」
ジョーは脇腹と腕だけではなく、胸にも負傷していたのだ。
出血は酷く、ドクドクと流れ出ていた。
「ジョー。此処では止血も出来ないわ」
「構わねぇから、早く爆弾を仕掛けちまえよ」
「逃げられるのかい?ジョーの兄貴」
ジュンと甚平が心配するのも解る。
此処には竜がいないのだ。
健が肩を貸して、ジョーは自分で歩いて逃げなければならなかった。
それは傷に響く事だろう。
「いいから、早くやれ…」
ジョーは息も絶え絶えになりながら、2人を行かせた。
健は既に爆弾を仕掛け始めている。
司令室のコンピューターを爆破出来るだけの爆弾をセットした。
なかなか数が多かったので、どれが中枢装置か判断が出来ず、コンピューターと言うコンピューターに爆弾を仕掛けた。
「ジョー、脱出するぞ。立てるか?」
健が手を差し伸べて来た。
「ああ、立てる……」
彼は力を込めて立ち上がった。
その瞬間にゴボっと、血を喀いて、身体が揺らいだ。
意識が遠のいて行くのを、必死で堪えた。
「ジョー、頑張れ。時間がないんだ」
「解ってる……」
健が肩を差し出した。
ジョーは健の肩に傷を負っていない左腕を回した。
一番出血が多いのは、左の脇腹だった。
それを右手で直接圧迫止血した。
敵の隊長にグリグリと痛めつけられたせいもあるだろう。
傷口は酷い事になっているに違いない。
健は時々意識が朦朧とするジョーを支え直さなければならなかった。
「ジョー、もう少しだ。しっかりするんだ!」
基地を飛び出した瞬間に、爆弾が爆発した。
まさに危機一髪だった。
「竜!博士の様子はどうだ?」
『脳にも異常がないと言う事じゃわい』
「ジョーが負傷した。G−5号機で迎えに来てくれ」
『何じゃって!?解った、すぐに行くわい』
健の肩を借りていたジョーが力尽きて、崩折れた。
「ジョー!しっかりして!」
ジュンが泣きそうな顔をして、ジョーを支えたが、彼の身体は弛緩した。

手術が終わったジョーの病室に、南部博士と仲間達が集まっていた。
ジョーは蒼白い顔をして、まだ眠っている。
意識不明の重態だった。
ビーム砲による傷が、思った以上に重かった。
「済まない。私が捕まってしまったばかりに…」
「博士が気に病む事ではありません。
 卑劣なギャラクターを恨むべきです。
 ジョーは後悔していました。
 博士を敵の処に送り込んでしまったと……」
「それこそ、ジョーが気にする事ではない」
博士は沈痛な表情をしている。
「私の為に海洋科学研究所の所長も巻き添えになり、殺された。
 今回の事は重く見ている。
 迂闊には出歩けないと言う事だ……」
「博士……。
 その為にジョーが護衛に就いていたのです。
 今回はギャラクターにしてやられましたが、これからは我々も事前調査をして、準備を怠らないようにします」
健が言った。
「科学忍者隊は私の『私兵』ではない。
 それは出来ない……。
 これからは行動に気を付けよう。
 基地で出来る会議はテレビ会議で済ませようと思う」
「博士。博士の行動に制限が出るのは、国際科学技術庁としても困るでしょう」
「それはそうだが、仕方があるまい。
 犠牲者が出たのだ」
博士はまだ衣服を整えてはいなかった。
ネクタイは乱れ、ベストのボタンは引きちぎれている。
ポケットチーフは最早ない。
それだけ竜巻ファイターが厳しい状況だったと言う事だが、博士は全く無事だった。
「博士。とにかくご無事で良かったです」
ジュンが言った。
「有難う、諸君。君達がマントで私を受け止めてくれたお陰だよ」
「どこにも怪我がないのは奇跡的です。
 正直言って信じられない位です」
健は感嘆した。
博士は意外にも運動神経が優れているのかもしれない、と思った。
「酸欠になって、暫くは起き上がれなかったんだがの」
竜が安心したように言った。
「あの竜巻ファイターの中に取り込まれたんだ。
 酸欠にはなるだろう。
 だが、脳にも異常がなくて本当に良かった」
健も安堵の表情を浮かべた。
「後はジョーの意識が戻ってくれれば……」
ふと安堵の表情が曇った。
ジョーはかなりの深手だった。
基地の外まで意識を保っただけでも、奇跡的だったと言える。
何度も何度も血を喀きながら、ジョーは動かない足を必死に前へと進めた。
健はそれを肌で解っている。
ジョーでなければ、あれだけの肝は据わっていないかもしれない。
自分でもどうだろう、と思った。
途中で意識を手放したかもしれない。
ジョーの意志の強さは相変わらずだが、健は正直言ってその強さに舌を巻いていた。
「あれだけの傷で、良く生還出来たと思う。
 ジョーだからこそだ。
 今までも死線を彷徨っては還って来たジョーだ。
 今回も大丈夫だと思うが……」
健はそこで詰まった。
脇腹と胸の傷は臓器まで達していた。
決して予断は許せない、と執刀医師にも言われている。
「ジョーの意識が戻るまで、此処にいても構いませんか?
 パトロールにはきちんと出ますから」
健が博士を見た。
「良かろう。意識が戻ったらすぐに報せてくれたまえ」
「解りました。博士は少しお休み下さい」
「もう充分に休んだ。心配せずとも宜しい」
博士はそう言うと、アンダーソン長官に連絡を取る為に、病室を出て行った。
「健。私達も此処に居たいわ」
「そうじゃ」
「おいらもだよ」
「解った。看護の邪魔にならないようにな。
 場合によっては、部屋を出るように言われるかもしれない」
「それでもいいわ。他の場所に居ても落ち着かないもの」
「よし。みんなでジョーの意識が戻るのを祈ろう」
健が言った。




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