『余命宣告』

(この俺が後1週間、持って10日だって…?くそぅっ!)
ジョーは夜中に人気の無くなった街中をフラフラと歩きながら、そっと左手首のブレスレットに手を添えた。
過日ギャラクターの作戦により敵に素顔を知られてしまった彼は、昼間サーキット場で走っている時にギャラクターに襲撃されて上空へと拉致されてしまった。
弱っている身体を散々痛め付けられて、生命からがら脱出したのだ。
地上へ向かって落ちて行く間にバードスタイルに変身したが、舞い降りた場所が悪かった。
折から走って来た車は直前で停まったが、ジョーは激しい眩暈を起こして気を失い、その場に倒れ込んでしまった。
恐らくはその車を運転していた男がジョーを病院に運び入れたのだろう。
ベッドの上で意識を取り戻したジョーは、ベッドの横にある衝立の向こうで無配慮に電話をしている医師の言葉を、全て聞いてしまったのだった。
電話の相手は南部博士に違いあるまい。
(俺を苦しめて来た眩暈は、脳の傷が原因だったのか…。
道理で頭痛や吐き気を伴った訳だ。
死ぬのは怖かねぇが、ギャラクターを倒さない事には死んでも死に切れねぇ…)
ジョーはギャラクターの空母でベルク・カッツェと対面した際に、彼が不用意に漏らした『クロスカラコルム』と言う言葉を聞き漏らしてはいなかった。
(クロスカラコルムには大規模な基地があるに違いねぇ。
せめて地獄への道連れに俺の手で叩き潰してやる!)
ジョーは決意を込めた瞳で星が瞬く空を見上げた。
そのままトレーラーハウスに帰る事もなく、夜明けまで1人で過ごした。

南部博士からの呼び出しに応えて、科学忍者隊が揃った時にも、ジョーはベルク・カッツェが基地の場所を漏らした事を報告しなかった。
単身で乗り込むと決めていたからだ。
生命に限りがある事は既に南部博士に知られてしまった。
ベッドに縛り付けられて朽ちて行く事は自分自身が絶対に許せない。
そんな事は彼にとっては屈辱以外の何物でも無かった。
それならば闘いの中で華々しく散ってやるぜ、とジョーは余命宣告のショックを鋼(はがね)のような強い意志で跳ね飛ばしたのだった。
自分だけ出動から外された時、ジョーは今がその時だと思った。
南部博士が背を向けた隙にその後ろ姿にそっと別れを告げながら、ジョーは窓からひらりと飛び降りて車を急発進させていた。
そのまま空港に向かい、ヒマラヤへと向かうワンウェイチケットを買った。
ジョーはこのまま帰って来る事はないと、既に仲間達との別れを覚悟していた。
だから復路のチケットは彼には必要無かった。

飛行機で隠密裏に移動し、空港からはタクシーを使った。
行ける所まで行って貰いタクシーを降りると、ジョーは人気が無いのを確かめてバードスタイルに変身し、後はひたすら山道を跳躍し、駆け抜けた。
体力が少しでも残っている内に奴らの基地へ潜入したい。
クロスカラコルムの総裁Xらしき地上絵を見た時、ここがギャラクターの基地である事を確信した。
しかし、ジョーはそこが本部である事をまだ知らなかった。
ブレスレットで健を呼び出したが、応答が無い内にギャラクターの兵士達に発見され、ブレスレットを破壊されてしまった。
同時にバードスタイルの変身も解かれ、ジョーは生身の姿に戻った。
…健はこの発信自体をキャッチ出来なかったのだろうか?
ジョーにはそのような事を考えている暇など無かった。
このピンチから脱出して、何としてでも敵の懐に飛び込まなくてはならない。
その思いだけが彼の弱り切った身体を動かす原動力となっていた。
どうせ単身乗り込むつもりだったのだ。

ギャラクターの隊長らしき男から此処が本部であると聞かされた時、ジョーは自分の幸運を心から神に感謝したい気持ちだった。
(これで親父とお袋の仇を討って、心置きなく死ねる…。
本望だぜ!俺には余命なんて関係ねぇのさ!
この眼で貴様らが滅びて行くのを見届けてやるぜ!)
ジョーはふら付く身体を押して力強く大地を蹴り、闘いの渦中へと飛び込んで行くのだった。




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