『装甲車型メカ鉄獣(3)』

メカ鉄獣は上空から追われている事に気づかずに、山脈の途中で地下へと潜って行った。
「くそぅ。地下では目視出来ねぇぜ!」
ジョーが叫んだ。
「ジュン、レーダー反応はどうだ?」
健は落ち着いている。
「微弱だけど、まだあるわ。
 でも、消えるのは時間の問題ね」
「俺が行く。装甲車が通った後なら、G−2号機でも充分に通れる筈だ」
ジョーは言うが早いか、コックピットから姿を消した。
「ジョーが分離するのなら、甚平が残っている意味もない。
 甚平、博士を基地に送り届けて、すぐに戻って来てくれ」
「ラジャー」
こうして、ジョーと甚平がそれぞれゴッドフェニックスからメカ分身した。
ジョーは装甲車が空けた穴を走り抜けた。
スピードではG−2号機の方が上だ。
やがて追い付いたので、ジョーは気づかれないようにスピードを落とした。
「こちらG−2号。敵のメカ鉄獣を発見した。
 今、追っている」
『解った。気づかれないように気をつけてくれ』
健の答えが帰って来た。
『メカ鉄獣はレーダーから完全に消えた。
 ジョーだけが頼りだ。
 現在地を出来る限りバードスクランブルで報せてくれ』
「解った!」
ジョーは左手でステアリングを切りながら、右手でブレスレットを強く押した。
これで現時点での場所は仲間に伝わる筈だ。
装甲車が掘り進める穴は、ガタガタとして、揺れが激しかった。
しかし、G−2号機は悪路走行性に優れている。
ジョーの腕とその機能により、スムーズに走れていた。
処々でバードスクランブルを発信しながら、ジョーは進んで行った。
装甲車は更に穴を掘り進め、走行距離は4500kmを超えた。
そこで地上に出たのが解った。
ジョーは暫くの間、地上には出ずに様子を窺っていた。
何とその場所は氷に包まれていた。
「氷山に入って行くぜ」
ジョーはブレスレットに向かって囁いた。
『解った。すぐに行くから1人で踏み込んだりするなよ』
「ああ。さすがにあの装甲車相手じゃ、無謀な事は出来ねぇ」
『お前が分離した時点で、甚平と博士も基地に返した。
 間もなく甚平も追い付いて来るだろう』
「おう、それはいい判断だったな」
『ゴッドフェニックスの機能が使えなくなる時間を最小にしたいからな』
「だが、バードミサイルで何とかなる相手とは思えねぇ。
 基地内に潜入した方が良くはねぇか?」
『勿論だ。その為に追跡したんだからな』
「それは良かった。そう来なくちゃな」
『だが、俺達が行くまでは絶対に勝手な行動をするな』
「解ったよ」
ジョーは自棄気味に返事を返した。
自分1人でも飛び込みたい処だ。
勝手な行動をするな、と言われるとそうしたくなるのが性分だった。
だが、何かがカリっと引っ掻かっており、ジョーはそれをしなかった。
(奴らが俺の追跡に気付かなかったと言えるだろうか…?)
ジョーはそれが気に掛かっていた。
空から追跡している間は良かった。
距離を取っていたとは言え、自分達が掘った穴の後ろからの追跡者に気づかないと言う事があるのだろうか。
当然、レーダーに映っていたのではないか、とジョーは訝しんだ。
攻撃しようと思えば、G−2号機で穴から出る瞬間を待ち伏せする事が出来た筈だ。
前方の砲門はバードミサイルにより破壊をしたが、左右4門ずつの砲門は無傷だった。
G−2号機ぐらいなら、攻撃出来た筈だ。
敵はそれをしなかったばかりか、そのまま氷山の中へと入って行った。
ジョーの勘が『罠』だと告げていた。
やがて甚平が合体済みのゴッドフェニックスがやって来て、ジョーも合体した。
そこで、今考えた事を皆に話した。
「成る程。確かにそれは考えられるな。
 敵のレーダーの性能はそんなに悪くはない筈だ」
健が答えた。
「……だろう?何か臭いぜ」
ジョー特有の勘がこう言う時には役に立つ。
その事を健も良く知っていた。
「どう言う事だ?ゴッドフェニックスを氷山に引き付けておく必要でもあったか?」
ジョーが呟いた。
その時、氷山の一角がゴゴゴ…と音を立てて開き、特大の砲門が姿を現わした。
「そう言う事か!」
健が叫んだ。
「竜、急速上昇だ!」
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは直角に近い角度で上昇した。
「あれは相当な射程距離を誇っている筈だ。
 竜、出来るだけ上昇しろ」
ジョーが言った。
砲門が開いた時の映像を思い浮かべてみた。
「あの砲門は、装甲車型メカ鉄獣と同じ物を巨大化させたもんだ。
 あれにやられたら、一溜りもねぇぜ」
「射程距離はどの位ある?」
健がジョーに訊いた。
「最低でも300kmと見た」
健はジョーの言葉に腕を組んで考え込んだ。
そして出した結論は、
「一旦帰還する」
「ええっ?おいら、戻って来たばっかりだよ!」
甚平が不平を漏らしたが、そんな場合ではなかった。
「竜、あの砲門の拡大写真を撮影してくれ」
ジョーが竜の座席の後ろに立って言った。
「出来るだけ多くだ」
「ラジャー」
竜は旋回しながら、砲門の写真を撮った。
ゴッドフェニックスが射程距離外に出た事で、敵は諦めたのか、その砲門を氷山の中に隠してしまった。
「もう撮影出来んわいっ」
「いいさ。今まで撮れた写真を分析してやる」
ジョーが呟いた。
「竜、計器飛行に切り替えてくれ。
 早速撮れた写真を確認したい」
健が竜に命じた。
「はいよ」
竜はそれに従って、スクリーンに今、撮ったばかりの写真を映し出した。
「ジョー。これを見て何が解る?」
健は険しい顔をしていた。
手強い相手だぞ、と言外に告げている。
「これから探すのさ。こいつの弱点をな」
ジョーは強気だった。
「この化物の正体が写真だけで解るの?ジョー」
甚平が訊いた。
「砲弾を発砲してくれればなお良かったんだがな。
 囮になって1発ぐれぇは撃たせておくべきだったかもしれねぇな」
武器に詳しいジョーだが、ゴッドフェニックスの中では結論が出せなかった。
「仕方がねぇ。南部博士にも見て貰おうぜ」
ジョーは自分の力で見抜けなかった事が如何にも悔しそうにそう言った。




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