『装甲車型メカ鉄獣(7)』

ジョーはケース毎受け取った特殊弾を大切そうに手に持った。
これをいざと言う時にG−2号機に装填して、すぐに撃たなければならない。
タイミングが難しそうだ。
G−2号機は地上に降りている必要がある。
ゴッドフェニックスのノーズコーンからでは狙う事は不可能だ。
科学忍者隊は装甲車型メカ鉄獣出現の知らせを待たずに、ウラン貯蔵庫へと出動した。
上空から待ち受けるのだ。
いざ敵が現われたら、ジョーのG−2号機を分離する。
ジョーは最初から地上がいい、と言ったが、万が一装甲車に見つかった時の事を懸念した南部博士により、その意見は却下された。
確かに装甲車型メカ鉄獣の先端にある砲門で狙われたら、G−2号機など一溜りもない。
一瞬で爆ぜて、ジョーも生命を失う事になるだろう。
南部博士がそんな事を許せる筈もなかった。
だが、攻撃する時には地上に降りなければならない。
その事を博士は非常に心配した。
「何とかなりますよ、博士。
 そんなに心配しないで下さい」
ジョーは慰めにもならない事を言った。
大丈夫だと言う根拠はどこにもないのだ。
彼自身、無事で帰れるかと言うと、完璧な自信がある訳ではなかった。
しかし、ウランを含んだ砲弾を撃たせる訳には行かない。
近くの街の人々に被害を齎してしまう。
ジョーはその顔の見えぬ人々を守る為に出動するのだ。
ゴッドフェニックスは、ウラン貯蔵庫の遥か上空へとやって来た。
「ジュン、レーダー反応はどうだ?」
健が訊いた。
「今の処、反応はなしよ」
「ジョー、ノーズコーンに行って、G−2号機にいつでも弾丸を装填出来るように待機するんだ」
「ああ、解った」
「気をつけろよ」
健が右手を差し出して来た。
ジョーは特殊弾を左手に持ち替えてそれに応じた。
「大丈夫さ。やって見せる」
短くそう言うと、ジョーは後方の円筒形の中に走った。
G−2号機に乗り込むのはまだだ。
ギリギリまでノーズコーンで待って特殊弾を装填し、それからの話になる。
それが済んだらすぐにゴッドフェニックスから分離する。
その後はジョーの腕の見せ所だった。
射撃には自信がある。
しかし、何が起こるか全く予想が付かない。
敵のメカもどれだけパワーアップしているのか解らなかった。
一種の賭けだった。
南部博士が作った特殊弾が通用するかどうかも、やってみなければ解らない。
以前使った事がある冷凍弾よりはパワーを上げてあると博士はジョーに密かに告げた。
今は博士を信じるしかなかった。
そして、自分の腕も…。
『レーダーに反応が現われたわ。
 10時の方向。距離2000』
ブレスレットからジュンの声がした。
(いよいよだ…)
とジョーは思った。
「ジュン。距離250に迫ったら報せてくれ」
『ラジャー』
ジョーはそのタイミングで特殊弾をガトリング砲に装填するつもりだ。
そしてゴッドフェニックスからメカ分身する。
G−2号機のガトリング砲の部分を開いた状態で、ジョーはタイミングを待っていた。
『ジョー、距離250よ!』
「解った!」
ジョーは素早く装填を済ませて、G−2号機に乗り込んだ。
「竜、地上に下ろしてくれ」
『ラジャー』
ゴッドフェニックスが低空飛行をし、G−2号機はオートクリッパーから解放された。
ジョーは自由に走った。
敵の姿が目視出来る。
ガトリング砲の射程距離は1kmだった。
だが、正確を期したい。
500mまでは近づきたかった。
弧を描くように走って、三方向から撃つ。
それがジョーが描いている攻撃方法だった。
「さて、計算通りに行くかな?」
思わず呟いた。
1弾目は問題なく成功するだろう。
問題はその後だ。
敵も特殊弾の威力に気づいて、逃げるかこちらに先端の砲門から砲弾を撃って来るかするに違いない。
特殊弾で最初に先端の砲門をやってしまおうとジョーは考えていたが、この装甲車型メカ鉄獣には、左右に4門ずつの砲門がある。
そこから攻撃して来る事は否めないだろう。
ジョーはそれを覚悟した。
彼には射撃の腕だけではない。
ドライビングテクニックもあるではないか。
敵の砲弾に当たらないように逃げ回りながら、確実に特殊弾を撃って行くしかない。
だが、心配なのは横の砲門から発射される砲弾もウランに汚染されているのか、と言う事だ。
自分は避けたとしても、街を放射能で汚されては敵わない。
ジョーはそれを一番恐れていた。
(撃たせねぇ……。それしかねぇ!)
ジョーは僅かな時間の内に全ての特殊弾を使って敵を凍らせる事にした。
緊迫の時間が過ぎる。
「距離500!」
ジョーが叫んだ。
正面から1発目のボタンを押す。
その瞬間にはステアリングを切り、敵の右側面に回っていた。
500mの距離は保っている。
敵の射程距離を考えたら、既に彼は射程距離内にいる事になる。
素早くこなさなければ、自分の生命が危なかったし、地元の街にも被害が出る。
ウラン貯蔵庫の周りには、人家がない事が救いだった。
しかし、ある程度の距離が離れれば、そこには街がある。
装甲車が潰して来た街だ。
放射能はそこまで辿り着くに違いなかった。
ジョーが撃った1発目は効果覿面だった。
そのまますぐに右側面にも特殊弾を放った。
ジョーは容赦なく、そのまま左側面に回り込む。
左側面の4門の砲門が火を吹こうとしたまさにその時、ジョーは3発目の特殊弾を撃ち込んだ。
メキメキメキ…!
音を立てて、装甲車型メカ鉄獣が凍って行くのが解った。
『やったな、ジョー!』
ブレスレットから健の声が聴こえた。
ジョーは滝のような汗を掻いていた。
「一瞬で済ませなければならねぇから、プレッシャーが半端じゃあなかったぜ」
『作戦は成功だ。ゴッドフェニックスに戻って来い』
「ああ…」
ジョーはそう言った時、頭がグラリとしたのを感じた。
まさか、敵の砲門が火を吹こうとした時に放射能を浴びたのか?
ジョーには自覚がなかった。
それは一瞬の事の筈だった。
だが、確かに光は見た。
気を取り直してステアリングを握る。
「竜、頼んだぜ」
G−2号機はオートクリッパーに掴まれた。
コックピットに戻った時、また視界がぐらりと揺れた。
(一体何が起きたんだ?)
ジョーの額から汗が流れ落ちた。
「ジョー、どうした?顔色が悪いぞ」
敏い健がすぐに気づいた。
「いや、緊張を強いられたからだろう」
「お前に限ってそんな事はないだろう?」
健はジョーの様子を観察した。
しかし、特段おかしな様子はなかった。
「次はもう1度基地に潜入するぞ。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
そう答えたジョーだったが、また激しい眩暈を感じていた。
あの時見た一瞬の光で、眼をやられているのかもしれねぇ、とジョーは思った。
いや、それだけなら良いが……。
不安は拭い去れなかったが、次の攻撃に神経を集中させる事にした。




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