『装甲車型メカ鉄獣(9)』

「待て、ジョー」
特殊弾の箱を抱えて、G−2号機に走ろうとしたジョーを健が止めた。
「この指は何本だ?」
右手を上げて見せたが、ジョーは詰まった……。
人差し指が立っているのは見えるが……。
他の指が視野欠損で確認出来ない。
「人差し指は解るが……」
仕方がないので正直に答えた。
「ジョー、左側に視野欠損があるようだな」
「右側は見えている。
 ゴッドフェニックスの位置を上手く合わせれば大丈夫だ。
 幸い銃弾は500発ある」
「特殊弾の装填は問題なく出来るか?
 時間との勝負だぞ」
健は尤もな事を言った。
その通りなのだ。
ジョーはその事に不安を抱いていた。
だが、シリンダーを回しながら入れるのだ。
大丈夫だろう、と思い込もうとしていた。
「俺が手伝おうか?」
健が意外な申し出をした。
「シリンダーに弾丸を入れるぐらいの事なら手伝える。
 意地を張る事はないぞ、ジョー」
「それならやり方を説明するから頼むぜ」
ジョーは素直に従った。
確かに意地を張っている時ではない。
あの基地の砲門を破壊しなければ、いつかはゴッドフェニックスや国連軍、一般の航空機が被害を被る事になる。
そうなってからでは遅いのだ。
「竜、此処は頼んだ。現地の上空で待機だ」
「ラジャー」
健はジョーに続いて、ノーズコーンへと渡った。
ジョーはガトリング砲の部分を開いた。
「此処から順に右回りで銃弾を入れて行ってくれ」
ジョーは3発程入れて見せた。
「この向きだ」
「解った」
健はジョーに指示された通りに、銃弾を入れ始めた。
「ああ……」
ジョーは深い溜息とともに、ぐらりと壁に倒れ込んだ。
「大丈夫か。入れ終わるまで休んでいろ」
「済まねぇな」
「気にする事はない。お前に負担が掛かる作戦だったんだ。
 今度はゴーグルを付けているから大丈夫だと思うが、また怪光線を浴びたら本当に防げるのか気になる処だ」
「それよりもよぉ。このゴーグルが曲者なんだ」
「どうして?」
「こいつのせいで余計に見辛くなっている」
「そうなのか?」
「せめて透明のゴーグルにしてくれりゃあな」
「成る程。でも、それでは怪光線を通してしまうのだろうな」
「まあ、仕方ねぇ。これでやるより他はねぇって事だ」
「ジョー、どんなに狙撃に邪魔でも、決してそのゴーグルを外したりするなよ」
「解ってるって。心配するな」
ジョーはそう言ったが、いざとなったら解らなかった。
G−2号機の機体が凍り始める前に、500発を撃ち切らなければならない。
自分の眼が見えない事で狙撃が出来ないのであれば、怪光線や放射能を浴びる事を覚悟の上でゴーグルを外す必要があるかもしれない、と密かに覚悟をしていた。
幸いにして、視野欠損は拡がってはいない。
この眼は治るのか?
もし、治らなかったら……。
ふと科学忍者隊に居られるのかどうかが気になったが、少なくとも今の任務の間には治る事はあるまい。
今は任務に集中する事だ。
健が銃弾を全てシリンダーに入れ込んだ。
「ようし、健。コックピットに戻ってくれ。
 俺は発射準備に取り掛かる。
 竜!ノーズコーンを開けて、降下してくれ」
『ラジャー!』
「ジョー、頑張れよ」
健はそう言い残して、いつもジョーが腕の力だけで上がって行く場所を進んで行った。
「おう」とだけ答えたジョーだが、その後は真面目な顔付きになり、黙り込んだ。
ノーズコーンが開いた。
敵の基地は眼の前だ。
丁度いい。
氷山の右側に位置する砲門が見えている。
だが、ジョーの眼には良くても、G−2号機の位置はもう少し右に寄らなければならない。
「竜、右に30度、水平にずれてくれ」
『ラジャー』
もう時間はない。
敵が砲門を動かし始めた。
こっちを狙っているのが解る。
ジョーは狙いを定めて、ガトリング砲のボタンを押した。
自身の身体の位置をずらして、右目で狙ったのだ。
敵が砲門を開いた瞬間、何かが光った。
しかし、ジョーはまだゴーグルを付けていた。
決して見易くはなかったが、何とか砲門の位置が見て取れたからである。
「無駄に怪光線を浴びる必要はねぇ。
 眼からの刺激は緩和されただろう。
 だが、身体への影響はどうかな?
 この眩暈が眼から来ているものならいいんだが……」
ジョーは少し不安を覚えた。
500発の特殊弾を浴びては、敵の砲門も一溜りもなかった。
バキバキとジョーの処にも聴こえる音を立てて、凍って行くのが見えた。
その時、視界が真っ暗になった。
「何っ?」
ジョーはゴーグルを外した。
やはり何も見えない。
ゴーグルをしていた意味はなかったのか?
それとも先の任務の時に放射能を浴びていて、今になってその症状が出て来たのか?
全く解らない。
だが、眼が全く見えなくなった事は確かだ。
『ジョー。成功したな!早く戻って来い』
「あ、ああ……」
ジョーは自分の手を見た。
見える筈もなかった。
完全に音と感覚だけの世界になっていた。
それでも慣れた道程だ。
コックピットまでは上がった。
またグラリと身体が揺らいだ。
「ジョー!」
「眼が見えねぇ。ゴーグルは外さなかったんだが…」
「ゴーグルでも防げなかったのか?」
「解らねぇ。俺は最初の任務で放射能を浴びていたのかもしれねぇ」
「でも、それで眼が見えなくなるだろうか?」
「じゃあ、やっぱりゴーグル越しに見たあの光が、俺には許容量を超えていたって事か」
「残念だが、その可能性が高いな。
 ジョーは此処に残れ」
健が言った。
「残ったって、いざと言う時にゴッドフェニックスの操縦が出来る訳でもねぇ。
 此処に残っても役には立たねぇ。
 それよりも闘いに連れて行った方が百倍役に立つぜ」
「眼が見えない癖に何を言っている?」
「知っているだろう?健。
 俺は暗闇の中でも、隙なく闘えるんだ」
解っていた。
健はその事を知っていたのだ。
だが…。心配は募る。
「連れてけよ。足を引っ張るようなら大人しく身を引いてやる」
「その言葉、本当だな?」
「ああ、神に誓ってもいい。神と言う存在があるのならな」
「解った。連れては行く。だが無茶だけはしないでくれ」
「解ったよ」
ジョーは低い声で答えた。
「よし、みんな行くぞ」
「ラジャー」
全員がトップドームへと上がって行った。




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