『装甲車型メカ鉄獣(10)』

「ジョー、眩暈の方はどうなんだ?酷いようだが」
トップドームから降りると健が言った。
「常に起きている訳じゃねぇ。大丈夫だ」
「闘いの最中に眩暈を起こして、窮地に陥ったとしても、俺達が助けられるとは解らないんだぞ」
「覚悟は出来てる」
「ジョーに言っても聞かないわよ、健」
ジュンが諦めるように諭した。
「解ってはいるのだが、眩暈だけじゃない。
 視力を失っているんだ。
 不安にもなろうって言うものだ」
「済まねぇな。俺の性分なんだ」
「本当にいざとなったら身を引くんだな?」
「ああ、約束するぜ」
「よし、行こう」
健の言葉に、ジュンがジョーの手を引こうとした。
「大丈夫だ。みんなの足音に着いて行ける」
「闘いが始まるまでは意地を張る事はないわよ」
ジュンはそう言って、ジョーの手を握った。
ジョーは何となく照れ臭かったが、眼が見えない身には本当は助かっていた。
だが、そう言う事を言う彼ではなかった。
やがて彼らは氷山の前に来た。
「さっき潜入した砲門の隙間からは入れないな」
健が言った。
「特殊弾で凍って、隙間が塞がれたのか?」
ジョーは勘がいい。
見えているのかと錯覚する。
「待て。何だかおかしな音がする。
 音を立てねぇでくれ」
ジョーは眼が見えないせいか、他の五感が優れて来ているようだ。
見えない物を自分で補っている。
今の場合は、耳の聴こえが良くなっているのだろう。
「左の方から何かのメカが動いている音がする」
「おいらには何も聴こえないけど…」
甚平が不思議そうな顔をした。
「ジョー、音がする方に行ってみよう。
 場所を知らせてくれ。
 ジュン!」
健がまたジョーの手を引くようにジュンを促した。
5人はジョーの耳を邪魔しないように、そろりそろりと移動した。
「此処が一番音が大きく聴こえる」
ジョーが言ったのは氷壁の前だ。
「機関室か何かかもしれないな」
健が見上げるようにして言った。
そのままマキビシ爆弾を腰から器用に10個程取り出した。
「みんな下がっていろ」
ジョーはジュンに手を引かれて下がった。
ドーンっ!と衝撃音がして、氷壁に穴が空いた。
向こう側には鉄で囲まれた部屋があった。
「入るぞ」
健が筆頭に入った。
ジョーはジュンに手を引かれて最後に入った。
「ジュン、ありがとよ。もう大丈夫だ。気配で解る」
ジュンはそう言ったジョーを心配そうに見ていたが、やがて手を離した。
「何かピンチに陥ったら、意地を張らずに私達を呼ぶのよ」
「解ったよ」
ジョーは低い声で答えた。
早速機関室にいた敵が襲い掛かって来たが、この部屋にはそれ程の人員が配置されていた訳ではなかった。
5人で暴れている内に敵兵はいなくなってしまった。
幸いにして他の部署にはまだこの部屋がジャックされた事が漏れていないらしい。
ジョーも無事に敵兵を何人も倒す事が出来た。
「ジュン、甚平。爆弾を仕掛けてくれ」
「ラジャー」
ジュンは一番効果的に爆破するにはどこがいいか、を経験則から知っている。
機関室の爆破は何度もやって来た。
「これでこの基地の機能は大分低下する筈よ。
 ただ、自家発電があるかもしれないので、発電室も探したい処ね」
「甚平と2人でやってくれるか?」
健が言った。
「そっちは3人で大丈夫?」
眼の見えないジョーがいる事に、ジュンは懸念を抱いている。
「大丈夫だ。ジョーは本当に暗闇でも闘える」
健がそう断言したので、ジュンと甚平は別行動をした。
「竜、しっかり頼むぜ。ジョーの眼の代わりは俺達が引き受ける」
「解っとるわい」
「大丈夫さ。俺は闘える」
時折眩暈を起こす事はあったが、今の処、闘いに支障は出ていなかった。
「ジョー、五感が研ぎ澄まされているお前だから大丈夫だとは思うが、この機関室では機械音で音が遮られていた。
 それでも良く闘ったな」
「空気の揺れとかを読むのさ」
ジョーは事もなげに言った。
「心配するな。この部屋ももう爆発するぞ。
 長居は無用だ。それに敵が出て来る筈だぜ」
その通りだった。
機関室が爆破されれば、敵も科学忍者隊の侵入に気づくだろう。
兵士を多く送り込んで来るのは明らかだった。
爆発が起きた。
健と竜はマントでジョーを庇うように床へと這い蹲った。
「大丈夫だと言ったろう?」
ジョーは少し怒ったような声を出したが、逸早く敵兵の気配に気づいた。
「気なすったぜ」
ジョーは自ら闘いの渦へと飛び込んで行った。
それを見て、健達も闘い始めた。
ジョーはいつもの通り、羽根手裏剣をばら撒く。
それは適当に撒いている訳ではない。
敵の気配をしっかりと感じて投げているから、眼が見えていない事を敵には感じさせない動きを見せた。
ジャンプして敵兵の鳩尾に膝蹴りを喰らわして、着地した時、一瞬身体がグラリと揺れた。
ジョーは頭を振った。
眩暈が増してしまいそうな行為だが、自分の頭を覚醒させたいと言う思いが先に立った。
「うおりゃ〜っ!」
ジョーは叫んで、ぐるりと回転した。
長い脚に打ちのめされて行く敵兵が続出した。
一回転した処で、また眩暈がやって来た。
ジョーは回転技は止める事にした。
エアガンを音もなく抜き、三日月型キットで敵兵の顎を砕いて行く。
確かな手応えを感じていた。
自分をマシンガンで狙っている敵には、羽根手裏剣で手の甲を撃った。
まるで眼が見えていないとは思えない闘い振りであった。
竜などは感心してそれを見ていた。
健はある程度知っていたが、竜はそのジョーの闘い振りを見たのは初めてだった。
『暗闇でも闘える』と言った言葉はハッタリではなかったのだと思い知らされた。
「全くジョーの奴は凄い奴じゃわい」
竜は独り言を言った。
敵兵が後ろから迫っている。
竜はそれに気づいたのが一足遅かった。
だが、ジョーの羽根手裏剣に救われた時、まさに恐れ入った。
「ジョー、おらの事はいいから、自分の身を守れい」
「ああ、余計なお世話で悪かったな」
そう答えたジョーの顔色が悪い事に竜は気づいた。
健にそっと告げる。
「眩暈以外に何か症状が出ていなければいいんだが…」
健もそっと囁いた。
「今、見る限りでは、そう言った症状はなさそうだ」
竜と背中合わせになっていた健は「バードランっ」と叫んで離れて行った。
ジョーは息も切らさずに八面六臂の活躍をしていた。
だが、突然グラリと身体が揺れて、壁にズルリと崩れ掛かってしまった。
それを見逃すギャラクターではなかった。




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