『装甲車型メカ鉄獣(11)』

ジョーは忽ちピンチに陥った。
見えない敵がマシンガンを抱えて、彼をぐるりと取り囲んだ。
だが、彼は冷静に気配を探って敵の数を数えていた。
18人いる。
ジョーは事も無げに無造作に羽根手裏剣を繰り出した。
マシンガンを放つ前に、敵はバタバタと倒れて行く。
止むを得ない事情だった為、喉笛を突いた。
ジョーには簡単な事だったのだ。
これだけの事をこなして、息も切れていない。
眩暈だけが気に掛かる症状だった。
「ジョー、大丈夫か?」
闘いの最中、健の気遣う声が聴こえた。
「大丈夫だ。この通り、自分の危機は自分で脱した」
そう言った時、後方に嫌なオーラを感じた。
「隊長さんか…?」
ジョーはそればかりは見えない。
後ろを向いたままでそう訊いた。
「そうだ。弱っているようだが、なかなかやるな、坊主」
隊長は一見普通に見えた。
身体にピッタリとした鮮やかな緑色のビジネス風のスーツを着ていた。
スタイルもいい。
何か『異形の者』ではない事だけは確かだ。
ジョーにはその姿は解らない。
変な武器を持っていないか、と慎重に気配を探った。
「その様子だと、眼が見えていないようだな。
 気配を探っておる」
敵の隊長はなかなか鋭い。
「まさか見抜かれるとは思ってもいなかったぜ…。
 残念だが、俺は眼が見えなくても闘える。
 暗闇での自主戦闘訓練を長い事やって来たんでな」
「その自信、どこまで持つかな?」
ギャラクターの隊員と闘っていた健がこちらへとやって来た。
「ジョー、俺と変われ。命令だ」
「此処でリーダー命令を持ち出すか?」
ジョーは訊いたが、健の意志は確固たるものだった。
「解ったよ。おっさん、悪いが戦線離脱だそうだ。
 だが、こいつは強い。
 覚悟しておけ」
ジョーはそれだけ言い残して、別の敵を探り、求めた。
そして、先へと進む事を選んだのである。
「竜、此処をさっさと片付けて先へ進むぜ」
「解った!」
ジョーは回転技を決めるのを止め、専ら羽根手裏剣とエアガン、そして最大の武器である長い手足を使っての攻撃に切り替えた。
眩暈の影響を受けないように気をつけながら、出来るだけ羽根手裏剣で事を済ませようとした。
竜には羽根手裏剣の精度が上がっているように見えた。
いつもと変わりないのだが、眼が見えない状態で放っているせいか、そう見えるのだろう。
本当に見えないのか、と疑いたくなるぐらいに、ジョーの闘い振りは冴えていた。
隊長と闘えなかったのは悔しいが、健なら問題なく倒して追って来る筈だ。
別行動のジュン達も自家発電室を爆破次第やって来るだろう。
健がもし危機に陥ったとしても、2人が来るのなら大丈夫だ。
ジョーはその判断を下し、先へと進む事にしたのだ。
健の集中力を削ぎたくないので、その事は告げずにその部屋を去った。
早い内から隊長が出て来たと言う事は、もう司令室には近い筈だ。
何しろ機関室から突入したのだから。
その時、ドーン!と激しい音と揺れが来た。
「ジュン達がやったか?どうだ竜、照明は消えたのか?」
ジョーの質問にやっぱり本当に光が見えていないのだと、竜は溜息をつく。
「薄暗い非常灯が点々と点いている以外は真っ暗だ」
「これで敵も混乱するな」
「おらも混乱するわい」
「そんな情けねぇ声を出すな。
 こっちは2人だ。
 自分の周りにいるのは全て敵だと思え」
「解った」
竜はそう答えてジョーから離れて行った。
暫く敵兵との丁々発止の闘いが続いた。
少しずつだが、ジョーと竜は通路を進んでいた。
「ジョー、前方に大きな扉が見えるぞい」
「解った。そこが司令室かもしれねぇ」
ジョーは答えて、敵兵の首筋に手刀を打ち入れた。
「ぐぅっ…」
敵兵が堪らずに倒れ込んだ。
「ようし、扉はどこだ?俺の手を触れさせてくれ」
竜は黙ってジョーの手を取った。
「ジョー、いいか。此処が扉のど真ん中じゃ。
 高さは3m程ある。横幅は1.5mぐらいじゃな」
「解った、下がっていろ」
ジョーはペンシル型爆弾を2本取り出した。
竜が入れるだけのスペースを確保しなければならない。
それを羽根手裏剣を投げる要領で、見事に扉に突き立てた。
「伏せろっ!」
ジョーの合図で2人は伏せた。
ペンシル型爆弾が爆発した。
「どうだ?通れそうか?」
「ああ、大丈夫じゃわい。おらが先に入るぞ」
「気をつけろよ」
竜は扉の手前までジョーの手を引き、此処が空いた穴だと教えた。
ジョーはそれを手に触れて、高さなどの位置を把握した。
「ようし、行こう」
その言葉を合図に竜が穴を通った。
ジョーはさすがにジャンプはせずに、その穴を跨いで通った。
人の気配は探れても物の気配は探りにくい。
それでも彼は勘の良い方なので、何とかやり過ごして此処までやって来た。
またグラリとした。
今入って来た穴に寄り掛かるように倒れ込みそうになった。
穴から向こう側に出てしまう!
だが、ジョーは手を伸ばし、穴に掴まって元に戻った。
「危ねぇ、危ねぇ……」
さすがのジョーも思わず呟いてしまう程だった。
眩暈が収まらない。
この眩暈、治るのか?
視力の事と共に、気になる事だった。
あの洗脳怪光線を浴びた事による症状であれば、きっと南部博士が何とかしてくれる。
そんな気持ちもあった。
だが、治らなかったら?
自分は科学忍者隊から外されるだろう。
それだけはどんな事をしてでも阻止したかった。
しかし、自分でどうにか出来る事ではない。
ジョーはそんな不安を抱えながら、此処にいた。
敵兵がわらわらと襲って来る。
竜は力技で対抗しているようだ。
ジョーはまた羽根手裏剣を放とうとして、眩暈に襲われた。
この部屋に入ってからまだ何も役に立っていない。
そう思った時、自分への怒りが沸いて来た。
「くそぅ…っ!」
ジョーは走った。
敵兵の渦の中に。
そして、封印していた回転技も使った。
「うおりゃあ〜っ!」
長い脚で敵兵を薙ぎ払った。
健達はまだ来ない。
隊長に苦戦しているのか?
だとしたら、此処はサブリーダーとしてしっかり立ち回らなければならない。
「竜、カッツェはいるか?」
その前に一番知りたい事を訊いた。
気配は感じていない。
「いねぇな」
「やっぱりそうか…。
 ようし、メインコンピューターに爆弾を仕掛けるんだ」
ジョーはエアガンを取り出し、三日月型キットで敵兵に打撃を与えながら、そう言った。




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