『ジョーが遺してくれたもの』

南部博士の別荘の司令室からは美しい夕焼けが一望出来た。
健とジュンは並んで窓際に立っていた。
「あれから、もうひと月が過ぎようとしているのね…。
 少しずつだけど、瓦礫を片付けたり、新築工事が始まったり、と人々が慌しく動き始めたわ」
「そうだな…。人間って脆いものだと思っていたが、結構逞しいんだって気付いたよ」
健が物思いに耽りながら答えた。
「ジュン…。ジョーの最後の言葉、覚えているか?」
「忘れる筈がないわ。ジョーらしくて、優しい言葉だった……」
ジュンの頬に涙が伝った。
「あれはジュンにだけではない。俺にも向けられた言葉だった……」
健はジュンの頬に張り付いている涙を指で拭い取った。
「俺は闘いの中で、恋愛などに感(かま)けてはいられない、と常に思っていた。
 だから、ジュン…。お前の事も女の子としては見ていなかったよ…」
「解ってるわ。ジョーも竜も、まだ子供の甚平ですらも、ハラハラしながら私の恋の行方を見守っていてくれたのよ」
ジュンはもう1度夕焼けに眼をやって、そこにジョーの面影を見ていた。
「ジョーは若者らしい恋愛をしていたのかしら?」
「さあな。だが、前に此処で2人切りになった時、何の話からかそんな話になった事があってな。
 『俺と絡む女はみんなギャラクターぱかりだぜ』って言ってたな……」
健が眼を伏せた。
「自分がギャラクターの子である以上、その運命からは逆らえないと思っていたのかもしれん」
「ジョーはモテると思っていたけど、悲恋ばっかりだったのね…。
 若者らしい恋をして欲しかったわ。闘いの中で人生を、終える…なんて…」
声が詰まり、またハラリと涙が零れ落ちた。
「ジュン!」
健はジュンの細い肢体を掻き抱(いだ)いた。
「俺達はジョーの分まで幸せにならなければならない。奴に叱られるからな。
 まずは俺達も『普通の恋愛』とやらをして、いつかは解らないが一緒に暮らすのもいいな」
「健?」
「ジョーが結び付けてくれたこの縁(えにし)は簡単には切れたりしない。
 そうだろう?ジュン……」
「健……」
ジュンの手が健の背中に回された。
2人のシルエットが重なって、初めての可愛い口付けをした。

気が付くと外は夜景に変わっていた。
「綺麗ね…。今までと同じ景色だけれど、何だか違って見えるわ。
 ジョーがくれた2人へのプレゼントね」
ジュンは健の肩に寄り添うと、2人はいつまでもそこから動かずに復興のシンボルとなっている街明かりを眺め続けるのであった。
『良かったな、ジュン…』
ジョーの優しい囁きがジュンの耳を擽(くすぐ)ったような気がした。




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